新しい視点が感じられた、23-24 秋冬 パリ・ファッションウィークのベスト7
2月末から1週間強に渡って開かれた、パリの2023-'24年秋冬ファッションウィーク。ここでは思い切り主観で選んだ、ベスト7をご紹介しましょう。
ヘアスタイルからもコンセプトが伝わる ミュウミュウ
トップは、ミュウミュウ! ファーストルックからして、部分的に逆だった寝起きのようなヘア、スカートからはみ出してウエストラインまでたくし上げたストッキング……。“取るものもとりあえず”身支度したかのようなディテールは、ツインセット、キトゥンヒールのシューズ、そして気取って持ったハンドバッグ、というレディライクな要素と対照を成しています。また、ボトムを履き忘れたかのようなルックが登場したかと思えば、レギンスとフーディのエッセンシャルなアイテムを、素材やシルエットで捻りを加えたルックも。ミウッチャ・プラダのユーモアに思わず笑いつつ、ちょっとした考え方で服の見え方が変わることを実感したショーでした。
ロエベ ミニマリストを越えた、レスイズモア
パリの西のはずれ、ヴァンセンヌに着くと、中世のお城の中庭に設えたロエベの会場は、白い箱。ランウェイにはアーティスト、ララ・ファヴァレットによるオブジェが並んでいます。黄色、紫、赤……といずれも原色の単色から成るキューブは一見頑丈ですが、実は紙吹雪でできているので、まるで砂の城のようにフラジャイル。この矛盾に、何かジョナサン・アンダーソンらしいトリックが期待されます。1月のメンズコレクションに続き彼が目指したのは、装飾や過剰な情報を極力取り除くこと。といってもいわゆるミニマリズムではありません。バッグを肩からかけているかのように見えるウェアのデザイン、強調されたサイズ、一瞬平面的に見えるけれど実は非現実的なほどの立体感……。コレクションはアバンギャルドなアイデアとそれを可能にする技術にあふれ、ロエベ10周年を迎えるジョナサンの先見の明を証明しました。
よりエレガントに進化した、サカイ
一方サカイのコレクションは“すべてには、相応しい場所がある”、つまり適材適所、をコンセプトに展開。デザイナーの阿部千登勢さんは、既成概念にとらわれない布使いやディテールの配置で、服の新しい見え方を探求しました。彼女のシグネチャーである“ハイブリッド”は残しつつ、これまでより大人でエレガントに。
馬と人間の関係を見せた、ステラ・マッカートニー
そしてステラ・マッカートニーは、サステイナブルはもちろん、動物愛護をより声高にアピール。パリの軍事学校の乗馬訓練場に招かれた特別ゲストは、数頭の馬とホース・ウィスパラーです。馬たちがギャロップしたり輪になったり、砂の上で寝転がる横をモデルたちが歩くと言うシチュエーションで、馬と人間の親密な関係が表現されました。コレクションでは前シーズンに続き、テーラリングやイージードレスを含めた彼女自身のアーカイブの再解釈アイテムと、馬のプリントやモチーフをミックス。また今回のエコレスポンサブル率は89%で、マシュルーム・レザーやアップルスキンによヴィーガン小物も、数多く登場しました。
単色ルックで完成度が際立つ、エルメス
さて、光と色のセンシュアリティに徹したのは、エルメス。ナデージュ・ヴァネ=シビュルスキーは前シーズン、砂漠の夕暮れ時〜夜の光をコレクションに落とし込みましたが、今回は、温かみがあり、かつ燃えるような冬の光。またうねる髪のような波のラインはニットに落とし込まれました。全てを同色でまとめたルックでは、レザー、カシミア、アルパカといった異なる素材での同色の表情の違いとともに、一点一点の完成度が際立ちます。波のように反復する曲線をモチーフとしたニットとイブニングドレスに使われた、フォルチュニーを思わせる光沢のあるシルクの繊細なプリーツでは、動きによって色合いが微妙に変化。また、エルメスといえば常にカレ(スカーフ)のさまざまな巻き方を提案してくれますが、このランウェイで見せたのは、ショールの七変化でした。
“服愛”を体現したドリス ヴァン ノッテン
ドリス ヴァン ノッテンは、着る人だけが密かに楽しめる服愛、つまり服そのものへのオマージュを、ライニングやディテールへのこだわりで表現。味が出た質感に仕上げたファブリックや色褪せたかのようなパレットは、着込んで本来の姿から変わっても愛おしく、いつまでも着たい服をイメージさせます。ウエストを細く、足を長く見せるシルエットは、着ることで自分をよりよく見せたいと願う、本来のおしゃれの楽しみに繋がるでしょう。パレ・デ・スポールのドーム型の会場では、ステージの上でソロのドラマーが実験的なリズムを刻み、ランウェイは客席の間と言う設定。ステージ奥の壁に張り巡らされた鏡は、練り歩くモデルたちの数が倍増したかのような錯覚を起こさせ、最後にドリスが登場すると割れんばかりの拍手が沸き起こりました。ギミックではない、シンプルながら素晴らしい演出でランウェイが昇華された、好例と言えるでしょう。
小松菜奈がミューズに! シャネル
最後にシャネル。ショーの顔が小松菜奈だったことから、日本人ブロックは沸きました。2016年よりメゾンのアンバサダーを務めている彼女と、このコレクションのテーマであるカメリアを組み合わせたのが、ショーのインビテーションとティザー。インスピレーションは、ウイリアム・クラインによる1966年の映画『ポリー・マグー お前は誰だ?』です。小松菜奈はまるでアンナ・カリーナのように目元を強調したグラフィックなメイクとウィッグで、強く、同時にフェミニンなキャラクターを演じ切りました。コレクションでのモダンな解釈は、シンプルにカメリアのコサージュを配したツイードのジャケットに、サイクリングパンツを合わせたこと。カメリアはプリントに、刺しゅうに、編み込みのモチーフに、そしてアクセサリーに、とあらゆる方法で取り入れられ、メゾンのDNAが改めて確認されたショーとなりました。
全体的にセレブリティたちの比重が強調されすぎた感はあったものの、スキャンダルが多くてファッションそのものの存在感をかすめてしまった前シーズンに比べたら、充実したシーズンとなった2023-'24秋冬。時代やミューズなどを特定した叙述的なテーマやコラボレーションによる話題性に頼らず、マインドセットを反映させたコレクションの数々から感じ取れたのは、モードの新しい展開です。
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
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