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連載 ファッションとサブカルチャーのお勉強。ロンドンとパリで今見るべき展覧会
今はやっと、ファッション・マンスの端境期。この間にファッションとサブカルチャーについての知識を深めてみては? そこで今回は、ロンドンとパリで開催中&もうすぐ公開される展覧会の数々をご紹介します。
アートと音楽があってこそ生まれた、ストリート・ファッション
まずはロンドンの大手ギャラリー、サッチで開催中の「ビヨンド・ザ・ストリーツ」から。本展は、これまで2018年にロサンゼルス、翌年にはニューヨークでも開かれた、音楽からアート、ファッションに渡ってのストリート・カルチャーを包括して見せる展覧会の、ロンドン版。所々にはTシャツも扱うレコードショップや雑貨店の構えが再現されているほか、ホールから階段まで、館内の壁にもグラフィティが描かれ、まるでギャラリー全体がストリートです。キュレーターは、自身がアーティストでもあるロジャー・ガストマン。本展でもっとも注目すべきは、音楽とファッションの関係を密にしたキーパーソン、ポップカルチャーの先駆者でパンクの父と言われる、マルコム・マクラーレンです。彼のコーナーで展示されているのは、レットイットロックからワールズエンド(針が左回りに回転する時計の看板で有名)まで、1971年以降彼が当時のパートナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドとともにプロデュースした歴代のショップの写真と、それらの店で販売されたファッション・アイテムの数々。またここでは、彼のソロでのミュージシャン、プロデューサーとしての活動の足跡も辿れます。2010年に他界するまでの10年間余りを共にした当時のパートナー、ヤング・キム(Young Kim)が司るマルコム・マクラーレン・エステイトの協力によって実現しました。
Beyond The Streets London 展は 〜5月9日
Saatchi Gallery
Duke of York's HQ, King's Road, London, SW3 4RY
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ロンドン・キングズロードにある、美術館規模の大手ギャラリー、サッチのエントランス。Photo: Minako Norimatsu
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Beyond the Streets展より、マルコム・マクラーレンのコーナー。右はボブ・グルエン(Bob Gruen)撮影のマルコム・マクラーレン(1983年、マンハッタンにて)。背後に見えるのは、キース・ヘリングによるグラフィティ。Photo: Courtesy of Saatchi Gallery
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Beyond the Streets展より。マルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドによるTシャツ(1974年)。文字はアレクサンダー・トロッキの小説からの抜粋を、マルコムが手描きで綴ったもの。(Estate of Malcolm McLaren)。Photo: Minako Norimatsu
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Beyond the Streets展より。マルコム・マクラーレンがカスタマイズしたゲットーブラスター(大型ラジカセ)“ダックロッカー”のレプリカ(Estate of Malcolm McLaren)。ダックロックは、1983年にリリースされた、ヒップホップを含みワールドミュージックの先駆けとなったアルバムのこと。Photo: Minako Norimatsu
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Beyond the Streets展より。ファッションアイコン、デボラ・ハリー率いるブロンディの曲Raptureシングル発売を告知する、街頭ポスター。Photo: Minako Norimatsu
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Beyond the Streets展より。マルコム・マクラーレンと親しかったアーティスト、ジェイミー・リード(Jamie Reid)によるアルバムジャケットの一連。最近はヴァレンティノのメンズコレクションでピエールパオロ・ピッチョーリとコラボレーション。Photo: Minako Norimatsu
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Beyond the Streets展より。1980年代に一世を風靡し、トラックスーツ・ブームを生んだヒップホップのグループ、ビースティー・ボーイズのコーナー。Photo: Courtesy of Saatchi Gallery
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Beyond the Streets展より。既存のフーディにグラフィティを描いた一点(右)と、1980年代以降の、Run D.M.C.をはじめヒッポホップのミュージシャンたちによるアディダスとのコラボレーションアイテムの数々。'80年代にストリートで人気があった、ブランド模倣ロゴ製品も。Photo: Courtesy of Saatchi Gallery
バスキアの作品と音楽活動から感じ取る、80年代NY
続いて、ストリートと音楽に焦点を据えたまま視点をニューヨークに移しましょう。ダウンタウンでアートが花開いた1970年代末〜80年代のこの街のアイコンと言えば、若くしてこの世を去った、ジャン=ミシェル・バスキア。絵画作品はもちろん、彼の音楽活動もフィーチャーした大規模な展覧会、「バスキア・サウンドトラックス」が、音楽とアートを絡めて深く掘り下げることで知られる、パリのフィルハーモニーで始まります。もう20年近く前にコレットのブックストアで購入した『Downtown 81』(エド・ベルトーリオ監督、2001年)なる映画のCDを見て、自身を演じるバスキアと彼の音楽ネットワークに引き込まれたのを思い出しました。同映画には、デボラ・ハリーやキッド・クレオール、そして日本のテクノポップバンド、ザ・プラスチックスも出演。余談ですが、当時のヒップホップやブレイクダンスは、NetflixのT Vドラマ「ザ・ゲットダウン」(バズ・ラーマン監督、2017年)を通じて、ピエールパオロ・ピッチョーリをインスパイアしたそう。この夏に入荷されるシャネルのプレフォール・コレクションにも、この時期のニューヨークの影響が見られます。まずはバスキアの世界に没入し、さらにこの時代のニューヨークの空気感を感じ取りたいものです。
Basquiat Soundtracks展は4月6日〜7月30日
Philharmonie de Paris
221, Avenue Jean Jaurès 75019 Paris
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Basquiat Soundtracks展示作品の一つ。Jean-Michel Basquiat, ERO, 1984, Mugrabi Collection © Estate of Jean-Michel Basquiat. Licensed by Artestar, New York
ファッション激動の年、1997年を振り返る。
先にコレットに触れましたが、最近、コンセプトストアの走りでもあるコレットのオープン時のウェブサイトを見る機会がありました。思いがけない展示でノスタルジックな気分にさせてくれたのは、パリでファッションウィーク中にオープンした展覧会「1997ファッション・ビッグバン」。マルタン・マルジェラがエルメスで、ジョン・ガリアーノがディオールで、アレクサンダー・マックイーンがジバンシィで、そしてラフ・シモンズは自身の初のメンズ・コレクション、とデビューが続き、ファッションシーンが賑わった1997年。なんとダイアナ妃の事故死やジャンニ・ヴェルサーチェの暗殺のニュースもこの年。思えばスペインで開催中のスティーヴン・マイゼルの写真展で1993年へのフォーカスがとても新鮮でしたが、本展では特定の年と言うフィルターを通してファッションを俯瞰することの面白さを実感。詳しくは本誌8月号(6月21日発売予定)での特集をお楽しみに。
1997 Fashion Big Bang展は〜7月16日
Palais Galliera
10 avenue Pierre 1er de Serbie
75116 Paris
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1997 Fashion Big Bang展のポスターが掲げられた、ガリエラ衣装美術館の入り口。川久保玲によるコム デ ギャルソンのBody meets dressコレクションは、マース・カニングハムのコンテンポラリー・ダンス「シナリオ」の衣装となったことでも有名。Photo: Minako Norimatsu
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90年代と言えば、クールなミニマリズムのパイオニア、ヘルムート・ラング! 1997 Fashion Big Bang 展より。Photo: Minako Norimatsu
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1997 Fashion Big Bang展で最も懐かしかったのは、アップルによるホーム・コンピューター初代、iMacと、コレットのウェブサイト。Photo: Minako Norimatsu
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1997 Fashion Big Bang展のエントランスには、この年を象徴するルックの数々が。左よりコム デ ギャルソン、マルタン・マルジェラ、アン・ドゥムルメステール、そしてヨウジヤマモト。Photo: ©Gautier Deblonde
アライア×アーサー・エルゴート=スーパーモデル!
1980年代に戻りつつ、今度はストリートではなく、ハイファッションとスーパーモデルの世界へ。アライア財団で開催中の、「アーサー・エルゴート」展です。以前ピーター・リンドバーグ展でもしたように、故アズディン・アライアと写真家の親密なコラボレーションを集大成する展覧会は、ボディに着せたアライア作のウェアと、それを纏ったモデルを収めたファッション写真を並列して見せる演出。ボディを美しく見せることを信条としたアライアのドレスも、エルゴート独特の躍動感があり、かつエレガントでハッピーなファッション写真の一連も、30年以上経った今見てもまったく古さを感じさせません。同展で上映されている、ワレン・エルゴートによるドキュメンタリーも必見。
Azzedine Alaïa, Arthur Elgort. Freedom. 展は〜8月20日
FONDATION AZZEDINE ALAÏA
18 RUE DE LA VERRERIE 75004 PARIS
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Azzedine Alaïa, Arthur Elgort. Freedom.展より、カメラを構えたアーサー・エルゴートと、アライアのドレスを着てジャンプする彼の妻、元ダンサーで舞台監督兼振り付け師のグレース・ホルビー=エルゴート(1987年)。Photo: Minako Norimatsu
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Azzedine Alaïa, Arthur Elgort. Freedom.展のオープニングにて。同展で上映中のアーサー・エルゴートのドキュメンタリーを録った彼の息子、ワレン・エルゴート(俳優アンセル・エルゴートの兄)。Photo: Minako Norimatsu
今や世界的ブームとなった韓流を、美術館で見る
上記数展と全く趣向は異なりますが、私たちの日々の興味ごとをおさらいできるのが、「ハンリュウ! ザ・コリアン・ウェーブ」展。場所は意外にも、アカデミックな衣装展で知られる、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館です。ここでは韓国きってのアーティスト、ナム・ジュン・パイクのビデオ・インスタレーション、民族衣装ハンボクの珠玉からK-POPスターたちの衣装、最近のデザイナーたちによるファッションまでを広く紹介し、韓流ブームがなぜ、どうやってピークに達したかを分析。またKビューティーでは伝統的プロダクツから現代の代表的ブランドまでを集めています。
Hallyu! The Korean Wave展は〜6月25日
Victoria & Albert South Kensington
Cromwell Road
London, SW7 2RL
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Hallyu! The Korean Wave展より、モダンなハンボクから1988年のソウルオリンピックのマスコット、ホドリまで、アイコニックなアイテムの展示。Photo: Ⓒ Victoria and Albert Museum, London
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Hallyu! The Korean Wave展より、伝統的なものから現代的なものまで、Kビューティの流れを見せるウィンドー。Photo: Ⓒ Victoria and Albert Museum, London
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Hallyu! The Korean Wave展では、K-POPのスターたちが纏ったルックの展示が人気。Photo: Ⓒ Victoria and Albert Museum, London
ポール・スミスがピカソをポップに演出すると……
衣装展ではありませんが、ファッション・デザイナーとして大胆にもアートの巨匠の作品を編集・演出したのは、ポール・スミス。巨匠とは、なんとピカソ、しかも「ピカソ・セレブレーション」展の会場は、国立ピカソ美術館です。彼がキュレーションとアートディレクションを務めた本展では、色やテーマごとに選んだアイコニックな絵画の数々をポップな色や柄の壁に展示したり、スカルプチャーや陶器をまるで芝居のセットのように設けたり。またファッション雑誌のページに残した落書きの集大成は、まるで書店のディスプレイのように遊び心たっぷりな演出で。あまりに数多くあるピカソの作品は、これまで色々な視点で編集されてきましたが、カラフルでポップなセンスで知られるポール・スミスの手にかかると、また違った見方ができるのです。
Picasso Celebration : The Collection In A New Light 展は〜8月27日
Musée national Picasso-Paris
5 rue de Thorigny, 75003 Paris
なんと、毛髪と体毛が展覧会のテーマに
別の意味で驚かせてくれる展覧会をもう一つ。場所はパリ装飾芸術美術館、テーマはなんと、毛髪と体毛!「Des Cheveux Et Des Poils」展で紹介されるのは、15世紀の絵画からマリー・アントワネットのウィッグ、そして前世紀半ばのカリタ姉妹の仕事をはじめ今日までのファッション写真など、特別なヘアスタイルやヘアアクセサリーの数々です。ファッションデザイナーからアーティストに転向したマルタン・マルジェラは髪に取り憑かれていて、フェイクのつけ毛やウィッグでアクセサリーやオブジェを作ったことでも知られています。面白いのは、歴史的絵画において体毛や顔のうぶ毛がどう描かれていたか、の考察。こんな視点もあったのか! と思わせる展覧会、楽しみです。
Des Cheveux et des Poils展は4月5日〜9月17日
Musée des Arts Décoratifs
107-111, rue de Rivoli 75001 Paris
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Marisol Suarezによる、大小の三つ編みを駆使してスカルプチャーのように仕上げたウィッグ。Photo c Katrin Backes
終了間近! イヴ・サンローランによるゴールド
最後に、会期あとわずかとなりましたが終了前に滑り込みたいのは、イヴ・サンローラン美術館での、「ゴールド by イヴ・サンローラン」展。SPUR本誌1月号の私の連載コラム、Into Vintageでも紹介したように、ここではシンプルに、アーカイブスからサンローラン氏によるゴールドの作品を抜粋しています。ラメ入りブロケード地のドレス、スパンコールのコンビネゾン、金糸で刺しゅうを施したジャケット、メタリックレザーのアクサセリー、金色のボタン……。サンローラン氏は色としてだけでなく、ゴールドの華やいで楽しい雰囲気をこよなく愛していたとか。
Gold by Yves Saint Laurent 展は〜5月14日
Musée Yves Saint Laurent Paris
5, avenue Marceau
75116 Paris - France
他にも、パリでは展覧会のオープンが目白押し。インスタグラムでも紹介するので、パリに来る予定のある人は、チェックしてみてください。
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Gold by Yves Sant Laurent展より、スパンコールのコンビネゾン。Photo: Thibault Voisin
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Gold by Yves Sant Laurent展より、ゴールドだけでなくとにかくきらびやかなコスチュームで着飾ることを愛したサンローラン氏のパーティスナップ一連。主に1980年代にパリのグラマラスなクラブシーンを牽引した、パラスにて。Photo: Thibault Voisin
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パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/