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ギリシャへ! エルメスの新しい香り「シテールの庭」を肌で感じる旅

エルメス「庭園のフレグランス」コレクションとは?

エルメスの香りのコレクションの一つ、“ガーデン(庭園のフレグランス)”シリーズ。2003年に当時メゾンの香水クリエーション・ディレクターだったジャン=クロード・エレナによる「地中海の庭」が発表されて以来、世界を嗅覚で旅する形で繰り広げられています。「エルメッセンスのコレクションでは一つの原料にフォーカスし、それを昇華させるのに対し、“ガーデン “シリーズでは実在の、または想像上の庭がインスピレーションなんですよ」。こう説明してくれたのは、2016年より香水クリエーションのディレクションを引き継いだ、クリスティーヌ・ナジェル。本誌5月号にて彼女のインタビューとともに紹介したUn Jardin à Cythère(シテールの庭)は、シリーズの7作目にあたります。4年前、彼女にとってのはじめての“ガーデン”、「ラグーナの庭」で着想源としたのは、耳にした逸話から辿り着いた、ヴェニス・ジュデッカ島のエデン・ガーデンでした。

クリスティーヌ・ナジェルが語る「シテールの庭」

着手は3年前に遡りますが、コロナ禍を経てやっと完成した2作目「シテールの庭」のルーツは、ギリシャ南西部、ペロポネソス半島沖に浮かぶ、シテール(ギリシャ語でキティラ)島。ギリシャ神話での美と愛と豊穣の女神、アフロディーテがここで誕生したという逸話から、何やら詩的な感情も想起させてくれる場所です。「心に触れる何かに出会った時、それは私の頭のどこかにしまわれます。想像上の箱の中に、思い出がたくさん詰まっているかのように。そしてある時突然、ひらめきとともに再び姿を現すのです」。こう彼女が語る“思い出”とは、20年以上前にバカンスで訪れたシテール島で感じた、“子供の頃を思い出させるような、心惹かれる香り”。オリーブの木の下で風に運ばれてきた、炒ったシリアルのような芳香だったのです。香りの源は、まるでオリーブの木々に守られているかのごとく、そして黄金色のふさふさとした髪のように優雅に揺れる、乾いた草叢だったとか。

「シテールの庭」を肌で感じるための旅。行き先はアテネ

3月半ば、「シテールの庭」を肌で感じるために、ギリシャへのプレスツアーに参加してきました。世界中からジャーナリストやインフルエンサーたちが集まったこの旅で、私たちパリ組はまず、パリ郊外のブルジェ空港に集合。定刻をやや遅れて離陸したチャーター便がアテネ空港へ到着すると、車で揺られること約30分。アクロポリスの丘の先、ヴォウリアグメニ地区のホテルへ。到着時にはすでに日が暮れていたこともあり、ホテルでのディナーを済ませた後は、翌日の本番に備えて大人しく早めに就寝しました。

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出発時、パリのブルジェ空港にて。チャーター便の出発を待っている間、不安定な天気の合間に一瞬だけ虹が見えた。Photo: Minako Norimatsu

翌日朝食ルームに席を取ると、目の前には穏やかな海が広がっていることに気づき、心が躍りました。海開きを前にまだ準備中のビーチに降りてみると、南欧では当たり前の風景とはいえ、オリーブの木々に目がいきます。クリスティーヌが“「シテールの庭」の背骨”と呼ぶのが、彼女曰く“がっしりした幹が与える印象は逆に、とてもデリケートで洗練された香り”を放つオリーブの木でしたから。

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アテネのホテルにて。朝早起きしてホテル周りを散策すると、オリーブの木々に迎えられた。Photo: Minako Norimatsu

”エルメスのアゴラ”で、ギリシャ全土を旅する

朝食が済むと、私たちはすぐに集合し、車でさらに30分余りかけて、“エルメスのアゴラ”と名付けられた会場へ。アゴラとは、古代ギリシャでは集会に使われていたフォーラムを指しますが、現代では多目的ホールのこと。“エルメスのアゴラ”は、太陽のようにオレンジがかった黄色をテーマカラーに、ギリシャの特産物のブースを集めた、いわば市場の演出でした。中にはオリーブや乾燥させた稲穂、ピスタチオなど、香水の原料となった要素も見つかります。ギリシャ風コーヒーや太陽の味がするオレンジジュース、ブラウンビスケットを味見しつつ、私たちは配られたトートバッグを、お土産の特産物で満たしていきました。しばらくすると、パフォーマーの高らかな叫び声と共に会場に入ってきたのは、黄色の小型三輪トラック。後ろの荷台にドライフラワーやオリーブの枝と共に積まれていたのは「シテールの庭」のボトルの数々。なんと楽しい演出でしょう!

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アゴラに設置された、ギリシャのプロダクツのマーケット。シテール島のある地方、メッシニア産のエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルは酸味が少なく、深い味わいで世界的に有名。スタンドには、オリーブの木と葉も。いずれも香りが微妙に違うことを実感。Photo: Minako Norimatsu

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カップの底に粉を沈ませて飲むギリシャ風コーヒーは、手作りの陶器のカップでサーブされた。Photo: Minako Norimatsu

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乾燥いちじくも、ギリシャ名物。ベストはこちらのエーゲ海西部エヴィア島の山岳地帯で採れて、日光に干したもの。アンティークの秤に乗せて。Photo: Minako Norimatsu

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植物図鑑風のイラストのカードと、教会でのお供え用アルミの札は、お土産に。Photo: Minako Norimatsu

 

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このオリーブ石鹸は、イオニア海に浮かぶコルフ島で1850年創業の専門店、パトウニスのアーティザナルなプロダクツ。Photo: Minako Norimatsu

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エーゲ海・サロニコス湾に位置するエギナ島産のピスタチオと、ピスタチオ入りパン。もぎたてのピスタチオは、「シテールの庭」の香りの成分でもある。Photo: Minako Norimatsu

 

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市場散策タイムの最後には、こんなレトロな三輪トラックが、「シテールの庭」のボトルを積んでやってきた。Photo: Courtesy of Hermès

 

「シテールの庭」誕生の秘話

トラックが会場の真ん中で泊まると、黄色のコートを纏ったクリスティーヌが、「シテールの庭」誕生の逸話を語ってくれました。前述した香りそのものの記述に加え、おもしろかったのは、今回の仕事の仕方。エルメスの香水部門の“伝統”に則って着想源となる庭での調香に取り掛かるために旅を準備していた矢先、コロナ禍のロックダウンでギリシャにはいけなくなってしまったこと。この企画を諦める、または延期する代わりに、思い出を頼りに香りを再構築する方法を選んだこと。彼女は、風景をしばらく凝視した後アトリエに戻り、事実の描写ではなく自身の印象を描くために、筆をとる画家に習ったそうです。こんな話をきくと、試しに手首に吹き付けてみた液体からふんわりと沸き立つその香りからイメージされたのは、シテール島の光景でした。

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照りつけるギリシャの太陽を思わせるイエローのコートを纏い、スピーチをするクリスティーヌ・ナジェル。Photo: Minako Norimatsu

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いよいよ、「シテールの庭」をトライ。Photo: Minako Norimatsu

このイベントの後は、隣の部屋に用意された会場で、ランチ。なんとここは現代美術のプライベート美術館、ヴォオレス美術館だったので、ランチはアートに囲まれてのひと時となりました。その後はギリシャのアーティストたちの作品を眺めると、夕立の中、そろそろ出発の時間に。私たちはこの包み込むような優しさが詰まったボトルをバッグに忍ばせ、帰途についたのでした。

 

「シテールの庭」は、日本では4月26日より、一部店舗にて先行発売中。4月21日にオープンするエルメス・イン・カラー GINZA SIXでは21日より先行発売が開始します。

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ランチのテーブル・セッティング。真ん中のこんもりと丸い花は、センプレヴィヴァと言うシテール島特有の花。ラテン語で“永遠の生命”を意味するこの花は、水分がなくてもずっと枯れないそう。Photo: Minako Norimatsu

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ランチのテーマカラーはイエロー。ナプキンも、センプレヴィヴァとマッチングカラーで。Photo: Minako Norimatsu

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会場となったヴォオレス美術館の中庭には、彫刻が並ぶ。Photo: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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