ピッティ・ウオモで見つけた、共有したいメンズアイテム
5月上旬から続いたいくつかのメゾンのクルーズ・コレクションの“デスティネーションショー”(普段の発表とは別の場所で開催されるショー)に始まり、二か月間も続いたファッション・マンスもやっと終了。ここで、フィレンツェで6月半ばに開かれたピッティ・ウオモ第104回を振り返ってみました。
ピッティ・ウオモとは?
ピッティ・ウオモは言わずと知れた、年2回のメンズの巨大な見本市。毎回ゲスト・ブランドを招いてのショーや数々のイベントも企画。また前回からは、ペットグッズのセクション「Pitti Pet」も始まっています。会場はフォルテッツァ・ダ・バッソ(16世紀建造のバッソ要塞)に設置される特設会場でのブースを中心に、市内の歴史的建造物やローカルなバーまで、さまざま。昨年夏のピッティ・ウオモ第102回のレポートではメディチ・リッカルディ宮殿を会場としたウェールズ・ボナーのショーやレオポルダ駅跡地でのアン・ドゥムルメステールの展覧会を紹介しましたが、今回のハイライトは、郊外で開かれたフェンディの2004年春夏メンズ・コレクションのショーです。
市内を出発し、トスカーナ地方に特有の美しい丘陵地帯を眺めながらバスに揺られること、30分。到着したのはバーニョ・ア・リーポリにできたメゾンの新しいレザーグッズ・マニュファクチャー「フェンディ・ファクトリー」でした。職人たちが何ごともなかったかのように作業に没頭する中、到着したゲストたちは場内を徘徊して革のレーザーカットやステッチングなどの行程を眺めたり、職員たちに習って飲み物を自身でサーブしたり。その光景はまるで二つの世界がオーバーラップしたようで、なんともシュールでした。場内のベンチにゲストたちが着席し、ショーが始まっても、職人たちの手は休むことがなかったのですから。
フェンディのメンズは、私たちもすぐに着たいものの宝庫!
シルヴィア・フェンディがクラフツマンシップへの敬意をストレートに表現したコレクションでは、ワークウェアは仕立ての技術で洗練されたアイテムへと昇華され、テーラード・ルックは巧みなウィットでドレスダウン。一方単一色、または同系色でまとめたり、ネクタイをルーズに結んだり、というスタイリングは“サヴォワフェール”をスタイリッシュに見せてくれました。ピッティはメンズとはいえ、ますます進むファッションのジェンダーレス化に伴い、私はここでは勝手にウィメンズの視点で話題を探っています。同ランウェイから私たちが盗みたいアイテムの筆頭は、まずホルター・ネックのシャツ。シンプルな白の一点を黒のパンツと合わせたら“クワイエット・ラグジュアリー”だし、白い襟のバイカラータイプはプレッピーに、またチュニックタイプならロングドレスとして着てもよし。ドレスだと、メッシュニットのチュニックも気になります。
またこの機には、日本の建築家、隈研吾氏とのコラボレーション「フェンディ ケンゴ・クマ」の一連として、和欄紙やシラカバ樹皮から成る特別な素材での「ピーカブー」と「バゲット ソフト トランク」が発表されました。
ウイメンズも好評、ERLの最新コレクション
ピッティ・ウオモ第104回のもう一つのゲスト・ブランドは、カリフォルニアのクリエイティブ・ディレクター、イーライ・ラッセル・リネッツによる「ERL」。2020年1月のメンズでデビューしたばかりですが、アメリカン・ファッションのヘリテージに根付いたポップなスタイルですぐに名を馳せ、昨年は5月にディオール メンズのカプセル・コレクションでキム・ジョーンズとのコラボレーションを果たしたのに続き、6月にはLVMHプライズでファイナリストの一人として、カール・ラガーフェルド賞を受賞。ストーリーテラーである彼が描いたのは、カリフォルニアのサーファーが波を追ってイタリアにたどり着き、ブルジョワのお屋敷に忍びこんで豪奢なウエアや骨董品を拝借する、というシナリオ。コルシーニ宮内に設置された蛍光色のランウェイに登場したのは、肩パッドでボディコンシャスなシルエットに仕立てたTシャツから、わざとゆったりしたシルエットに再解釈したテーラード・スーツまで。ラメやスパンコールを多用し、彼の「カリフォルニア・クチュール」なる視点が明確に打ち出されました。ここで初めて披露されたのは、ラバーを使ったアイウェアのコレクション。ちなみにイーライのトレードマークは、メガネ。エルトン・ジョンやミッシェル・ポロナレフを思わせる長方形グラスのサングラスをかけていることもあります。
タイ出身の”プリントのプリンス”
この間、バッソ要塞内の展示会ブースでも、多くのイベントが連日進行中でした。中でも話題になったのが、チュラープ(Chulaap)のプレゼンテーション。ブランドのファウンダー&クリエイティブ・ディレクターで”ハッピー・ファッション“を提唱するChu Suwannapha(チュー・スワンナパ)は、タイ生まれ。パリのファッション・スクール「エスモード」に学んだ彼がその後に移住したのは、なんと南アフリカでした。この地の伝統に根ざしつつ、コンテンポラリーなタッチで仕上げた大胆なプリントをシグネチャーとすることから、彼のニックネームは“プリントのプリンス”。バティク、オリガミ、刺しゅうなど様々な要素が交錯するカラフルで装飾的なルックを、チューはファッション・エディターの経験で築いたシャープなスタイリングでまとめました。
新旧ブランドから、話題が尽きないピッティ
そして、ベルリン在住のトレンド&バイイング・コンサルタント&キュレーター、ユリアン・デイノフ(Julian Daynov) は独自のセンスとネットワークで、スタジオ・サイデンステッカー(Studio Seidensticker)とのコラボレーション・プロジェクトを披露。ドイツの老舗シャツメーカーと組むことで、大好きなオーバーサイズのシャツをテーラードな仕立てで、しかも廉価で提案しています。
一方エンシェント・グリーク・サンダルズのクリスティーナ・マルティーニは、長年のコラボレーターであるシューズ・デザイナー、アラン・ルベー(Alain Leber)を迎え、これまでの数型に新しいデザインを加えて、メンズ・コレクションをローンチしました。トラディショナルなフラットサンダルが基本だから、ウィメンズとマッチングのデザインも多数。
二つのオープン。ヴァレンティノのブティックと、グッチの新しい展覧会
またこの時期、ハイエンドのブティックもイベントを開催。ヴァレンティノのブティックがオープンしたほか、グッチのコンセプトストア「グッチ・ガーデン」内のギャラリー・スペースでは新しい展覧会「Gucci Visions」がスタートしました。メゾンの102年に渡る歴史が、ヘリテージを象徴するバゲージ一連や歴代のハンドバッグ、そして各時代を築いたアイコニックなルック、果てはセレブリティのためにカスタムメイドされた衣装まで、8つの部屋に渡って多角的に展示されています。その一角では、メタバースのグッチ・ワールドも体験可能(開催中、終了日未定)。
メンズ・ファッションの話題は次回のパリ・メンズファッションウィークのレポートへと続きます。お楽しみに。
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
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