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知っておきたいパリ発のシャツブランド【セブリーヌ】
「セブリーヌ」英仏両国のいいところ取り
ワードローブのレベルアップにあたってパーフェクトなシャツを求めるなら、パリ発の「セブリーヌ」(Sebline)。「僕は100% イギリス人で、 同時に100%フランス人。50/50ではないんだよ。“半分”は嫌いなんだ」。イギリス人を母に、フランス人を父に持つデザイナーのシャルル・セブリーヌはこう言います。シャツに限った彼のクリエーションは、イギリスの妥協を許さないテーラリングと奇抜さ、そしてフランスのエフォートレス・シック、まさに二つの良さを100%ずつ合わせた、最高のコンビネーションなのです。また、英仏の違いをそれぞれの庭園のスタイルにも言及しながら、「賞賛し合い、一方で馬鹿にしあう両国の関係も面白いね」と、シャルル。こんな不条理をよくフランス人はセルジュ・ゲンズブールのヒット曲から引用して“ジュテーム・モワ・ノン・プリュ”(“愛してる、私も嫌い”、と支離滅裂に聞こえつつ熱愛を示唆する愛の名言)と言います。シャルルにとっては自分の内に抱えるこの共存と矛盾が、クリエイティブ・パワーになっているのかもしれません。
フランス生まれのシャルルにとって最初の“服”の思い出は、4歳の時に母が作ってくれたと、ミッキーマウスのぬいぐるみの衣装。黒の大きなボタンを効かせた赤のジャケットのシックさに子供ながら感銘を受けた彼はその後、お芝居の衣装デザイナーを夢見ながら自身のルックに磨きをかけたそうです。そして家族とともにイギリスに渡り、9歳でイギリス南部のボーディングスクール、カンタベリー校に入ると、ユニフォームを着る毎日が始まりました。前の部分が小さく折り返されたウイングカラーで糊がききゴワゴワとしたシャツは決してコンフォタブルとは言えず、家を離れて学校にすぐには馴染めなかった苦い思い出とも重なります。一方シャツは、次第にオブセッションとも言えるほど彼が偏愛するアイテムに。これも”ジュテーム・モワ・ノン・プリュ”の法則かもしれません。
一方ファッションへの夢は抱き続け、趣味はヴィンテージハント。今でも宝物にしているのは、13歳の時当時住んでいたケンブリッジのチャリティショップで見つけた、赤のロウイング・ジャケットだとか。高校を卒業すると、ファッションを学ぶためにロンドンのセントラル・セント・マーチンズへ。最初の研修先、ヴィヴィアン・ウエストウッドからはパリに行くことを勧められ、憧れのイヴ・サンローラン氏の”タイユール”のアトリエで、テーラリングを学びます。その後は、師匠引退の後「イヴ・サンローラン」ブランドのクリエイティブ・ディレクターとなった、トム・フォードにも師事。紆余曲折を経て、2019年にローンチしたのが「セブリーヌ」でした。
シャルル・セブリーヌが語る、シャツ哲学
「シャツを選んだのは、街でもビーチでも、どんなシーンにもマッチする万能アイテムだから。僕自身シャツ体型だしね(笑)。それにひとつのアイテムを極めると、より強いメッセージ、イメージを発信できると思うんだ」。“パーフェクトなシャツ”を追求し、素材とディテールと仕立て、すべてにこだわるシャルルが最初にデザインしたのが、襟なしのクラシックな“バニー・シャツ”。シャルル自身が会ったこともあるダンディなアイコン、バニーの愛称で呼ばれたクチュリエ&ソーシャライツのニール・ロジャーズに因んで名づけたスタイルでした。これは今では「セブリーヌ」のシグネチャーアイテムです。
ベーシックからスタートしたシャツコレクションは、その後プリーツの胸ヨークが効いたペインター・シャツ、マッチング素材のネクタイをつけたスタイル、パジャマ風、シャツの丈を長くしたチュニックなど、バリエーションを増やしています。カラーパレットは白はもちろん、鮮やかな原色から微妙なパステル、そして一見相容れない2色のコンビネーションまで。グラフィックな柄が好きなシャルルは幅広、極細、2色使い、マルチカラー、と様々なストライプを多用。またストライプ地にハイビスカスの花を載せたオリジナルプリントの一点は、ケイト・ブランシェットのお気に入りとなりました。定番素材はイタリア製の、目が詰まっていて張りのある二重織りポプリンコットン。「着こむといい風合いが出る。僕は洗いざらしでアイロンをかけずに着るのが好きだな」と、シャルルは”エフォートレス”な一面を見せます。
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ストライプは、シャルルが最も好む柄。Photo: Minako Norimatsu
イギリスの1960年代ダンディにインスパイアされた、春夏コレクション
そんなシャルルの春夏コレクションは、ビートルズ、特にアルバム「サージェント・ペッパーズ」を発表した頃に象徴されるロンドンの1960年代ダンディが着想源。彼らが着たミリタリージャケットの袖口に典型的な、フロッギングと呼ばれる飾りが象徴的です。しかも既存ではなく彼自身が選んだコットン地で仕立てた紐でのフロッギング刺しゅうは、あえてフォーマルなデザインではなくシャツとパンツのパジャマ風セットアップに。バニーやペインターなど定番も、新色を加えて展開しています。コレクションしたくなる「セブリーヌ」のシャツは、すべてユニセックス。日本ではドゥロワー、トゥモローランド、ジャーナル・スタンダードにて展開あり。
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春夏コレクションから、プラストロン(胸ヨーク)切り替えのあるバニー・シャツ進化形と、マッチングのボクサー・ショーツ。Photo: Courtesy of Sebline
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春夏コレクションから、フロッギングを施したパジャマ風シャツ。(トゥモローランドに入荷あり)Photo: Courtesy of Sebline
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春夏コレクションから、ペインターシャツとマッチングのボクサーショーツ。Photo: Courtesy of Sebline
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春夏コレクションの生地サンプル。右下は、シャルルが“ウエッジウッド・ブルー”と呼ぶ色。左上はストライプにペイズリープリントを載せた、オリジナル。Photo: Minako Norimatsu
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パジャマ風シャツのフロッギングは、袖口だけでなくポケットにも。色にもこだわり、オレンジと白のストライプには、ピンクで後染めをかけた。Photo: Minako Norimatsu
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白のペインター・シャツには、黒のステッチでコントラストを。(ドゥロワーに入荷あり) Photo: Minako Norimatsu
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形はベーシックながらディテールにこだわるのが、シャルルのシャツ作り。ペインター・シャツでは、スリットの分岐点につけたほつれ止め補強パッチにもステッチが。Photo: Minako Norimatsu
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意外な2色使いのペインター・シャツ。(ドゥロワーに入荷あり) Photo: Minako Norimatsu
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シャルルのインスピレーションより、イングリッシュ・ガーデンの本、Garden People。シメトリーで構築的なフランス風庭園に対して、イギリスの庭は自由だ、と庭づくりにも英仏の違いを見出す。Photo: Minako Norimatsu
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ルル・ドゥラ・ファレーズも、ガーデニングを愛したイギリス人の一人。シャルルにとっては、イヴ・サンローランのもとで仕事を共にしたアイコンだ。Garden Peopleより。Photo: Minako Norimatsu
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色においてインスパイアされるのは、ソール・ライターの写真。この写真集、Early Colorは何度も見てボロボロになってきた。Photo: Minako Norimatsu
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Early Colorの中ページ。シャルルはやっぱりストライプに目がいってしまう。Photo: Minako Norimatsu
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もう一つのバイブルは、デヴィッド・ホックニーのパートナーだったピーター・シュレジンジャーの写真集、A Chequered Past。Photo: Minako Norimatsu
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A Chequered Pastより、デヴィッド・ホックニーとセシル・ビートンのページ。Photo: Minako Norimatsu
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パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
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