【ディプティック】からニッチフレグランスまで。夏の終わりに知っておきたい香りのニュース
マークアントワーヌ・バロワのハッピーな思い出の香り、ティリア
今回は久々に、香りの話題をお届けします。
まずはマークアントワーヌ・バロワ(MARC-ANTOINE BARROIS)の新しい香り、ティリア。ラテン語で菩提樹を意味するネーミングです。知る人ぞ知るニッチなこのブランドは、本来クチュールメゾン。彼が調香師のカンタン・ビッシュ(Qentin Bisch)と出会ったことから8年前にその世界観を香りで表現するようになり、スパイシーでウッディなB683をはじめこれまで発表されたのは、オー ドゥ パルファンの3つの香り。特に小惑星から名前を取り、爽やかなマンダリンにスパイシー、ミネラルなノートを合わせたユニークなガニメド(Ganymède)は、フレグランス界のプロがたびたび言及し、幾つかの賞にも輝いている逸品です。表通りから一歩入った中庭に面した本店ではまとめ買いをするリピーターもいて、私がブティックにいた時には顧客に送られたバイク便が数本をピックアップしていきました。
ティリアはメゾンとしてははじめてのフローラルな香調。キラキラとしたエンドレスサマーをイメージしたハッピーな香りなので、ヴァカンスの思い出に浸りたい9月にはぴったりです。香り立つのはマイルドで軽やか、ハチミツを思わせる菩提樹の花。そこに微妙なアクセントを加えているのは、アプリコットに似た香りのエニシダ、パウダリーなヘリオトロープ、そして甘いアラビア・ジャスミン、ややスモーキーなヴェチヴェルです。ちなみにマークアントワーヌ・バロワは20年前にドミニク・シロのもとで服作りをはじめ、エルメスではジャン=ポール・ゴルチエに師事しただけあって、完璧なカッティングとクオリティを追求したテーラードピースを得意とします。最近は、白のポプリン、コットンに限ったシャツとボクサーショーツのラインをローンチしました。
Marc-Antoine Barrois
14, rue du Faubourg Saint Honoré 75008 Paris
老舗の新コレクション、レ ゼサンス ドゥ ディプティック
1968年創業のディプティックからローンチされるのは、新しいコレクション「レ ゼサンス ドゥ ディプティック」 (Les Essences de Diptyque)。オードパルファンの5つの香りは、美しい自然の産物を称え、視覚を嗅覚に置き換えるユニークなコンセプトのもとに展開されました。4人の調香師がそれぞれ主役に選んだのは、いずれも無臭で形や質感、色に特徴のある“自然のお宝”で、できあがった“香りの作品”はネーミングもユニークです。
まず、サンゴを着想源としたコライユ オスクロ(CORAIL OSCURO)はミネラル・フローラルな香り。Oscuro(イタリア語でオブスキュア、つまり暗闇)という名の通り、調香師のアレクサンドラ・カーリン(Alexandra Carlin)は光が差した海の底に見えるサンゴ礁の、明暗のコントラストをイメージしました。
ファブリス・ペルグラン(Fabrice Pellegrin)がルナマリス(LUNAMARIS)で表現したのは、スパイシーアンバーな香り。エレガントで繊細なマザー オブ パールが月の光に照らされて海の水面で虹色に輝くシーンをイメージし、海の(Maris)月(Luna)と名付けられました。
バーク(樹皮)をボワ コルセ(BOIS CORSÉ)としてアンバーウッディな香りに解釈したのは、ナタリー・セット(Nathalie Cetto)&オリヴィエ・ペシュー(Olivier Pescheux)のデュオ。ボワは木、コルセは強いフレイバー(通常はコーヒーやワインの味の描写に使われる)のことですが、ここではたくましい木のイレギュラーな質感やゴワゴワとした触感を意味しました。
このデュオによるもう一つは、グリーンアンバーなリリフェア(LILYPHÉA) 。印象派の巨匠、クロード・モネによる絵画、ジヴェルニーの池の水面でゆらゆらと寄れる優雅な花をイメージし、睡蓮を意味するフランス語“ナンフェア”(Nymphéa)と英語 “ウォーターリリー” (Water Lily)を合わせて、ウィットの効いた名前が生まれました。
ファブリス・ペルグランも、二つ目の香りを手がけました。“岩の薔薇”と名付けられた、シトラスフローラルな香りは、ローズ ロッシュROSE ROCHE。着想源である“砂漠の薔薇”は、風によって運ばれる砂で花びら状に型作られます。鉱物の結晶化に必要とされる砂漠のオアシス、強くてかつ儚い花びらに自然のコントラストを見出し、雨上がりの湿った土の香りをイメージしました。
リサイクル・ガラスを使用したボトルのデザインも新しく、アイコニックな楕円形のロゴはガラスへの浮き彫り。アイルランド人アーティスト、ナイジェル・ピーク(Nigel Peake)が描いた水彩画はパッケージを飾るだけでなく、ボトルの裏面にも刻まれています。
「レ ゼサンス ドゥ ディプティック」8月30日よりオンラインで、8月4日のパリガイドでご紹介したパリのコンセプトストア「メゾン ディプティック」を含め世界の各店舗では9月3日から販売。
7, rue Duphot 75001 Paris
アミン・カデールは4つの香りのコレクションをローンチ
香りのコレクションを発表したばかりなのは、クラシックなプレタポルテのブランドとして定着している、アミン・カデール。ファウンダーのカデール氏は、明け方に海岸の松の木を撫でるように風に乗ってやってくる海の香りから、日中太陽の光を浴びて拡散される柑橘類のフレッシュさ、そして夜を象徴する葡萄畑の芳香まで、自身が育ったアルジェリアのさまざまな香りにインスパイアされたとか。
ファースト・コレクション4点のうち、ふたつはオー ドゥコローニュ。まず、古のイタリアの村をイメージしたチェザーレ(CESARE)は、ベルガモット、ネロリ、プティグラン(ビターオレンジの葉と小枝の抽出液)、レモンといった地中海の柑橘類のブーケから成る、溌剌としたフレッシュで軽やかな香りです。
もう一つのオー ドゥコローニュ、プシュケ(PSYCHÉ)はオレンジ・ブロッサム、ネロリ(ビターオレンジの精油)、プティグランから成るダイナミックな柑橘ブーケにチュベローズ(月下香)やホワイトムスクで芳醇さを加えた、フローラル&フレッシュな香りです。
さらなる2点は、オー ドゥトワレット。オー・プラティヌ(EAU PRATINE)はラベンダー、ベルガモット、クローブ、と相反する素材をミックスし、ウッディ、フローラルかつスパイシーと言う多面的なノートから成る神秘的で輝きのある香り。メゾンのシグネチャーとして、キャンドルとポプリでも展開されています。
もう一つのオー ドゥトワレット、旧ペルシア帝国の古都から名をとったタブリス(TABRIZ)は、にわか雨の後の大地を感じさせる香りです。サンダルウッドにはパチュリ、スギ、さらにジャスミンが交錯し、ウッディながらまろやかで透明感があり、包み込むような香りに仕上がっています。
Amin Kader Parfums
189, Boulevard Saint Germain 75007 Paris
テーマ・コフレ、ヘアフレグランス、そして香る書籍
9月のパラリンピックを控え、まだまだ続くパリ五輪へのオマージュとして夏に“アスレティック”3点セットを出したのは、ヴィルヘルム・パーフュムリー(Vilhelm Parfumerie)。20を超えるラインナップの中からスポーティーライフのさまざまなシーンを彩る香りが抜粋されました。
まずブラックシトラス(Black Citrus)は、ベルガモット、カルダモン、すみれの花、インドネシアのパチュリ、ヴェチヴェルといった多面的なブーケから成る、雨上がりの香り。一方バック・トゥ・ザ・ルーツ(Back To The Roots)はさらに複雑で、フローラル・ノートをグリーン、ウッディ なアクセントが取り巻き、スポーツに興じるボディを称える香りです。成分はガルバナム(樹脂)、プチグラン、アンブレットシード、アイリス、ヴァイオレット、ジンジャー、ホワイトティー、サンダルウッド、ムスクなど。そして昔ながらの豪奢なホテルでフラワーバスに浸かるという究極のリラックスタイムをイメージしたのは、ルームサーヴィス(Room Service)。マンダリン・ジュースに加えられたのはクワの実、ピンクオーキッド、バンブー、ヴァイオレット、ブラックアンバー、ムスク、そしてサンダルウッドまで。
Vilhelm Parfumerie
58, rue Pierre Charron 75008 Paris
デイヴィッド・ベネデック(David Benedek)が2016年にスタートしたbdk Parfums ではヘア・パフュームのコレクションをリニューアルし、六つの香りを加えました。フォーミュラではアルコールを半分カットし、同ブランドの既存のヘア・パフュームにも使われていて髪をリストアし、輝きを与えると評判のシルクプロテインの他、髪質を柔らかくして静電気を防ぐパンテノル(ビタミンB5の一種)、そして髪の繊維質を改善するクエン酸が配合されました。髪に直接スプレーするもよし、ブラシに、または手のひらにつけても、また帽子の内側につけてもいいとか。
6点はまずベストセラーでアイリスとヴェチヴェーが芳しいミステリアスなグリ・シャルネル(Gris Charnel)をはじめ、ダマスクローズとアラビア・ジャスミンが香るブーケ・ドゥ・オングリー(Bouquet de Hongrie)。そしてジャスミンとオレンジブロッサムで陰影のある芳醇さのパ・ス・ソワール(Pas Ce Soir)、チュベルーズにイランイラン、ジャスミン、アイリスが加わった究極のフローラル・ノート、チュベルーズ・インペリアル(Tubéreuse Impériale)。さらにはマンダリン、ベルガモット、パイナップルにピンクペッパーとサンタルを加えたユニークなクレーム・ドゥ・キュイール(Crème de Cuir)も。そしてネーミングに惹かれて試してみた私のお気に入りは、アメリー・ブルジョワによる、ルージュ・スモーキング(Rouge Smoking)。官能的なチェリーをベルガモット、ピンクペッパーにヴァニラ、ヘリオトロープ、トンカビーンズ、ホワイトムスクなどが包み込むフェミニンな香りです。
bdk Parfums
312, rue Saint Honoré 75001 Paris
そしてオフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーからの新作は、なんと香りの植物図鑑です。ヴィクトワール・ドゥ・タイヤックの、フレグランスの世界では地味な存在である“野菜”にスポットライトを与えたいという想いから誕生した「レ・ジャルダン・フランセ」コレクションが生まれたのは、ちょうど1年前。アニバーサリーを記念して編集された嗅覚と視覚を繋げた作品では、紙面上のイラストをこするとトマトからにんじん、パセリ、リュバーブまで12の野菜の、それぞれの香りが漂います。歴史やエピソード、象徴的な意味も綴ったテキストは、日、英、仏の3カ国語。
Officine Universelle Buly 1803
6, rue BOnaparte 75006 Paris
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/