11月2週目の5日間、世界最大規模の写真フェア「パリ フォト」の第27回が開かれました。今年は特に会場が長年の改修工事を終えて再オープンしたグランパレに戻ったこと、そして写真を初めて表現方法の一つとしたムーブメント「シュルレアリスム」が100周年を迎えたことから、記念すべき回。メイン会場を埋め尽くした147ものギャラリーの展示にはマン・レイ、リー・ミラー、ドラ・マールと言った写真家たちの作品も多く、今見ても色褪せない彼らの実験的な技術や大胆なコラージュを再発見する機会でした。
「パリ フォト」は、インスピレーションの宝庫
11月2週目の5日間、世界最大規模の写真フェア「パリ フォト」の第27回が開かれました。今年は特に会場が長年の改修工事を終えて再オープンしたグランパレに戻ったこと、そして写真を初めて表現方法の一つとしたムーブメント「シュルレアリスム」が100周年を迎えたことから、記念すべき回。メイン会場を埋め尽くした147ものギャラリーの展示にはマン・レイ、リー・ミラー、ドラ・マールと言った写真家たちの作品も多く、今見ても色褪せない彼らの実験的な技術や大胆なコラージュを再発見する機会でした。
ジム・ジャームッシュのシュールレアリストな視点
「パリ フォト」第27回のゲストに迎えられた映画監督のジム・ジャームッシュは、会期中のトークショーで「シュルレアリスム」から強い影響を受けたことを語ったほか、”パルクール”でもこの視点でのセレクトをキュレーション。”パルクール”は美術館やフェアにおける大規模な展示の中で、特定の言及がある作品をピンポイントで回るコースです。
ただし彼は必ずしも「シュルレアリスム」ムーブメント(1924-1969年)にはこだわらず、日常を夢の世界に変える力を持った作品へと枠を広げました。30点余りのセレクトには、デイヴィッド・ホックニーの「サンフランシスコ」シリーズからの一点や、ロバート・フランクによるジャック・ケルアック(ビート派の詩人、作家)のポートレートもインクルード。ちなみにアメリカ社会を捉え続けたことで知られるフランクとジャームッシュは30歳近い年齢の差に関わらず、彼が2019年に他界するまでとても親しかったそう。映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』('84)をはじめ初期の作品では、モノクロ映像を追求したジャームッシュ。彼は常にフランクからインスパイアされていたので、「パリ フォト」第27回では、今年生誕100年を記念したフランクの力強いスナップショットの数々もフィーチャーされました。
またジャームッシュの最新作『Return to Reason』は「パリ フォト」会期中の試写で発表され、今週からは一般上映もスタート。マン・レイによる4つのシュールな映像作品をジャームッシュが一つにまとめ、彼自身のバンドSQÜRL(スクワール)によるサウンドを添えて完成させた、70分に渡る映像作品です。
まだまだある、パリ フォトで見つけたもの
「パリ フォト」第27回の見どころは、他にもたくさんありました。
もうひとつの”パルクール”は、女性フォトグラファーの社会性が高い作品をセレクトしたElle X Paris Photo。ケリングが女性フィルムメーカーを支援するプログラムWomen in Motionとのパートナーシップです。
そして今年初めて設けられたコーナーは、Voices。ここでは3人のキュレーターが、“不完全なパラダイス”“解き放たれたボディ”など哲学的なテーマをたて、作家のキャリアに関わらず自由な編集を披露しました。
またDigitalのコーナーは最新技術にフォーカスし、写真界の未来を模索。スポンサー企業による展示では写真をアートインスタレーションに昇華させた展示が注目された他、Emergenceでは新進の写真家数人が紹介されました。
ちなみに私の見方は、まずはプレビューの日にざっと会場を網羅。気になった作品とキャプション、ギャラリー名を写真に撮り、帰宅後に整理して、自分なりのテーマを設けます。またプレスリリースやウェブでの記事を読み込み、会場地図で見るべき作品を予習。こうして後日再び会場に出向いたら、じっくりと復習するのです。
今回のマイテーマは、セレブリティの、これまであまり見なかったポートレート。そしてファッション写真の域のスタイリッシュなスナップショット、抽象画のようにグラフィックなカラー作品。最後に上階のバルコニーで、45もの出版社によるレアな写真集や新刊をチェック。ここは作家を迎えてのサイン会やトークショーの開場を待って列を作る人々でごった返し、パリ フォトの盛況ぶりをもの語っていました。
この秋のベスト写真展と言われている、ティナ・バーニー
毎年11月には、パリ フォトを巡ってパリの美術館やギャラリーが競って写真展を開きます。今年最大の話題は、ジュードポーム美術館での「ティナ・バーニー ファミリー・タイ」。ニューヨークのアップタウンに生まれ育ったことから、自身の家族や交流のあるアメリカの富裕層のファミリーショットを撮るようになり、“家族”はティナのライトモチーフとなりました。1980年代から現在に至る大判でテクニカラーのプリントには家族間の愛情やテンションが凝縮され、いずれもかなりの迫力。ちなみに彼女は前述のカメラマン、ロバート・フランクのプリントをコレクションし、日々眺めていたことから写真家としての“眼”が養われたとか。
Tina Barney / Family Tie 展は開催中〜2025年1月19日
Jeu De Paume 美術館にて
1, Place de la Concorde
写真で見る、スティーヴン・ジョーンズの帽子
またドーヴァーストリートマーケット パリでは、パリフォトの週に連日ビジュアルにこだわった本や雑誌のローンチングを開催。イベントの一つでは、大御所のファッション・フォトグラファー、コト・ボロフォが自身の作品を編集したマガジン「BOLOVISION」2号目が発表されました。この号に収められたのは、2011年に帽子デザイナー、スティーヴン・ジョーンズのロンドンのアトリエで撮ったモノクロ写真。店内各所では、オリジナルプリントと被写体の写真を並列して“パルクール“形式の展覧会を開催中です。現在ガリエラ パリ市モード美術館で開かれているスティーヴン・ジョーンズの帽子展 STEPHEN JONES, CHAPEAUX D'ARTISTEと併せて見てみては?
Koto Bolofo, BOLOVISIONは開催中〜11/29まで。
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/