ファッションからアートまで。パリで今見たい展覧会9選
1. 本誌の記事と併せて楽しみたい、「シュルレアリスム」展
発売になったばかりの本誌2025年2月号では、シュルレアリスム・モードを特集しています。2024年は、詩人アンドレ・ブルトンがパリで“シュルレアリス宣言”なるマニフェストを発表して100年目。これを記念すべく開催中なのが、ポンピドゥーセンターでの「シュルレアリスム」展です。単なるアートムーブメントではなく、社会や政治までに渡る自由で斬新な表現としてのシュルレアリスムの真髄を探り、代表作を集めた大規模な展覧会は、それぞれの主題を分析してのテーマ別の構成。詳しくは、本誌の記事で!
Surrealisme展は2025年1月13日まで。
Centre Pompidou
Place Georges- Pompidou 75004 Paris
2. 帽子デザイナー「スティーヴン・ジョーンズ」回顧展
1957年リバプール生まれのスティーヴン・ジョーンズが帽子を作りはじめたのは、1980年代。ニューロマンティックス・ブーム全盛のロンドンで、セントラル・セントマーチンズに通いつつ、ナイトクラブシーンのアイコンたちのためにヘッドウエアを作りはじめたのがきっかけでした。イントロダクションのコーナーでは、クラブ「ザ・ブリッツ」に通っていた頃の写真の一連が壁を飾り、当時のヒットソングのプレイリストはQRコードでダウンロード可能。1980年代以降ジョン・ガリアーノとはディオール期も含めて息の長い付き合い故アレクサンダー・マックイーン、ティエリー・ミュグレー、クロード・モンタナ、そしてマーク・ジェイコブズ、ジャンポール・ゴルチエ、とコラボレーターは数知れません。本展では400点にものぼる代表作を時にはルックやドローイング、素材と共に展示。また彼にとってロンドンやブリティッシュネスと共に大切なインスピレーションであるフレンチ・タッチやパリを、さまざまな側面から分析しているのが見どころです。
Stephen Jones, Chapeaux d'Artiste 展は2025年3月16日まで
Palais Galliera, Musée de la mode de Paris
10, avenue Pierre Ier de Serbie 75116 Paris
3. 「ファッション・イン・ザ・メイキング」
本展ではパリ装飾芸術美術館のアーカイブズから、1917年から1939年までの写真、ドローイング、資料、フィルム、実際のオートククチュールのドレスを展示。ブランドの商標登録やデザインの著作権保護と言った意識が芽生えてきたこの時代に、記録としてのビジュアルがコピーに反してクリエイションを守ることにどう役立ったかを証明する、学術的な展覧会です。中でもクチュールのドレスの正面、横、後ろ姿を収めた資料の一連は現代のルック写真と変わりなく、興味深いところです。
La mode en modèles / Fashion In The Making. Photographs of 1920’s and 1930’s designs展は2025年1月26日まで。
Musée des Arts décoratifs
107, rue de Rivoli, 75001 Paris
4.「パリ シティ・オブ・パールズ」
パールは世界で広く愛されていますが、本展が語るのは、特に19世紀末〜現在までのパリのモードとジュエリーの歴史におけるパールの役割です。例えば舞台女優のコスチュームの一部として、上流社会のソワレでのアクセサリーとして、そして収集家のコレクションとして。20世紀初頭のパールをフューチャーしたモード誌の挿絵やポスター、映画の抜粋なども、臨場感を高めています。100点にのぼるマスターピースはジュエリーをはじめオブジェやバッグまで、パール自体のクオリティ、デザインの創造性の両方の観点から選ばれています。
PARIS, CITY OF PEARLS展は2025年6月1日まで。
L'Ecole Van Cleef & Arpels, Hôtel de Mercy-Argenteau
16 bis, boulevard Montmartre 75009 Paris
5. シャネルle19Mで開催中。「ルサージュ」展
もう一つ2024年に100周年を迎えたのは、刺しゅう工房のルサージュ。アルベールとマリールイーズのルサージュ夫妻が設立したメゾンは、贅を尽くした刺しゅうと特別な素材を織り込んだ手織りツイードにおいては、技術・クリエイションの両面で一人者です。近年では南インドにもアトリエを抱え、インテリアの素材へとカテゴリーを広げたルサージュの現在のア―ティスティック・ディレクターは、ユベール・バレール。展示会場は、ルサージュをはじめ靴のマサロから帽子のメゾン・ミシェル、羽細工のルマリエまでシャネル・メティエダール傘下の12メゾンを一堂に集めて2022年にパリ19区オーベールヴィリエ地区にオープンした、Chanel le 19M内のギャラリーです。シャネルはもちろん多くのメゾンのためのカスタムメイドやオートクチュールの作品の数々のほか、制作の裏側を図解するドローイング、スワッチ、制作風景のビデオなども展示。
Lesage, 100 years of Fashion and Decoration展は2025年1月26日まで。
La Galerie du 19M
2, Place Skanderbeg 75019 Paris/Aubervilliers
6. 詩情にあふれ壮大。「潮田千春」展
1972年大阪生まれ、ベルリン在住の潮田千春は、さまざまな地の美術館やギャラリーで300以上の展示をしてきた世界屈指のアーティストです。2018年にはヴェニス・アートビエンナーレにおける日本パヴィリオンでの無数の赤い糸の一本一本につけた鍵を天井から吊るしたインスタレーションで話題に。その翌年には森美術館での25年間のキャリアを総括した個展「魂が震える」で、その奥深い表現による高い評価を揺るぎないものとしました。5年後にパリで開かれることになった本展(森美術館での展覧会と同名)は、彼女いわく“裸になった私との魂の対話”。グランパレの改装オープン後最初の大規模なアート展となり、特別な意味を持っています。彼女は“不在のなかの存在”を信条とし、ベッド、ピアノ、服、ドレスなどを題材に夢、記憶、不安、沈黙、そして自身や他人の苦悩、人生の儚さ、もろさと言った形のないもの、言葉では表現できないものを形にするマジシャン。シグネチャーである赤や黒の糸を張り巡らせた空間をビジターが歩くと言うまさにイマーシブな計7つのインスタレーションのほか、パフォーマンスの様子を収めたビデオ、ドローイング、オブジェ、そして舞台美術の写真が展示され、圧巻です。
Chiharu Shiota, The Soul Trembles 展は2025年3月19日まで。
Grand Palais
7, Avenue Winston Churchill 75008 Paris
7. シルバーウエアを遊び心とともに 「クリストフル」展
1830年の創業以来フランスのアールドゥヴィーヴルを象徴するシルバーウエアの老舗、クリストフル。豪奢なテーブルセッティングやオブジェはもちろん、近年ではアンドレ・プットマン、オライト、ラムダン・トゥアミら先鋭的なデザイナーやアーティストとのコラボレーションによる日常的なアイテムへとカテゴリーを発展させています。意外にも同メゾンのアーカイブズが大規模な展覧会として公開されるのは、今回がはじめて。パリ装飾芸術美術館ではその歴史の展望だけでなく、現在もほぼ昔ながらの技術で続いているサヴォワフェールを紐解く試みとしてアトリエを再現し、銀食器の制作工程を各過程の未完成作品と共にアニメーションで解説しています。また20世紀初頭のクリストフルのブティックを再現したコーナーでは、葡萄を垂直に保つためのスタンドなど特別な目的に使われるテーブルウエアの数々を展示。同メゾンによるホテルや豪華客船や列車内のレストラン、コンコルドの食事シーンの演出も楽しめます。
Christofle, A Brilliant Story展は4月20日まで。
Musée des Arts Décoratifs
107, rue de Rivoli 75001 Paris
8. ポップアートの歴史と未来。「トム・ウェッセルマン &...」展
タイトルが示唆する通り、本展はトム・ウェッセルマンを中心にポップアートの始まりから現在までを一望し、さらに未来への影響までも示唆するインサイダー的なラインナップ。ポップアートは、日常のシーンやマス・プロダクツを題材とし、鮮明な色使いとシンプル化したシルエット、時には誇張された大きなサイズに象徴されるムーブメントです。1950年代にアメリカで始まり、それまでのファインアートとは別に考えられていたコミック、広告、映画などを巻き込んで発展しました。ウェッセルマンは、絵画にオブジェやビデオ、サウンドなどジャンルを超えた表現方法を自由に統合した作品で、アンディ・ウォ―ホールに勝るとも劣らずポップアートの真髄を象徴するアーティスト。彼の150点以上もの絵画やオブジェと並んで展示されているのは、ポップアートの伏線となったダダイスムからはマルセル・デジュシャン、シュルレアリスムのメレット・オッペンハイム、また近代から現代にかけてはマーシャル・ライスやシルヴィー・フルリ、カウズまでを含めた、35人のアーティストたちの作品。日本からは横尾忠則と松山智和も選ばれました。
Pop Forever Tom Wesselmann & ... 展は2025年2月24日まで。
Fondation Louis Vuitton
8, Avenue du Mahatma Gandhi Bois de Boulogne, 75116 Paris
9. ジョージアの画家 、ニコ・ピロスマニのインスタレーション。
展覧会ではありませんが特筆したいのは、ドーバーストリートマーケット・パリの中庭の円柱を使ってのインスタレーション。12月に始まったのは19世紀末〜20 世紀初頭に多くの作品を遺したジョージアの画家、ニコ・ピロスマニ。私がはじめて彼の絵画を見たのは、6年前にウイーンのアルベルティーナ美術館で彼の個展にてでした。たまたま見たのですが、人物や動物の力強くナイーブ描き方に強く惹かれたのを覚えています。3年前には彼の作品がアート誌「ランチョン」で大きくフューチャーされ、表紙にもなったことで知った人も多いでしょう。今回は豪華本の出版を記念してのインスタレーション。オープニングではパリ在住ジョージア人のグループによるコーラスと共にジョージア料理も振る舞われ、ファッションウイークでたずねたトビリシを思い出しました。
Niko Pirosmani インスタレーションは2月末まで(予定)
Dover Street Market Paris
35-37 rue des Francs Bourgeois 75003 Paris
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/