毎年1月初旬に秋冬メンズ・ファッションウイークの先駆けとしてフィレンツェで開かれる、ピッティ・イマージネ・ウオモ。4日間に渡るバッソ要塞でのメンズウエア見本市を中心に、市内各地はイベントやゲストデザイナーのショーで沸く。東京ファッションウィークの日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)がピッティとパートナーシップを組んで初の開催として第107回目を迎えた今回のハイライトは、なんと言ってもセッチュウ初のショーだった。
「セッチュウ」初のショーをレポート! ピッティウオモ107ハイライト
毎年1月初旬に秋冬メンズ・ファッションウイークの先駆けとしてフィレンツェで開かれる、ピッティ・イマージネ・ウオモ。4日間に渡るバッソ要塞でのメンズウエア見本市を中心に、市内各地はイベントやゲストデザイナーのショーで沸く。東京ファッションウィークの日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)がピッティとパートナーシップを組んで初の開催として第107回目を迎えた今回のハイライトは、なんと言ってもセッチュウ初のショーだった。
「セッチュウ」初のショー。見せたのは、“折衷”コンセプトと遊び心
セッチュウのデザイナー、桑田悟史さんが“折衷”をコンセプトに同ブランドを設立したのは2020年のこと。最初のキャリアはロンドンのサルトリアルの聖地、サヴィルロウでのメンズ服を仕立てる工房だった。同時に通ったセントラル・セント・マーチンズ・スクールを卒業後はガレス・ピュー、リカルド・ティッシ率いるジバンシィ、カニエ・ウエスト改めYeのYeezy、Edunと言ったデザインスタジオで、20年の間経験を積んだ。彼がこだわる日本と西洋の“折衷”は単なるスタイルではなく、それぞれの文化に特有の服へのアプローチだ。特に平面裁断による着物のシンプルな構造とテーラリングを融合させると言う非凡なコンセプト、そして手仕事にこだわった完成度が注目され、2023年には最も有望な若手デザイナーを選出するLVMH賞に輝いた。昨年はヴェニス・アートビエンナーレのオープニングウイークで、アート関係のオーディエンスからも注目を集めることに。サヴィル・ロウで200年もの歴史を誇るデーヴィス&サンとのコラボレーションによるテーラード・アイテムを、和紙ランプや陶器スツールを絡めたまさに“折衷主義”のインスタレーションで発表したのだ。このタッグ組みはその後も続き、最新コレクションでも彼特有の折り紙のアイデア(畳むためのガイドラインにもなるプリーツ加工の折り目)を取り入れたモーニングスーツ、ダブルブレストのブレザーとテールジャケットを同アトリエが製作。
彼の服にはユニセックスなピースが多い。単に女性が着られるサイズのメンズ、と言う安易さではなく、異なる体型にもフィットするテーラリングだ。桑田氏によれば、男性と女性のボディでは、実は腕の付け根辺りはほぼ一緒。もちろん違う部分は多いが、今の時代に“性別”を意識した服が必要かどうか考えると、彼としてはノーだとか。また男性用と女性用でほとんどパターンが変わらない着物も、桑田氏流ユニセックスの背後にあるそうだ。彼の服作りでは、ジャポニズムに転ぶことなく“和”が“洋”服に溶け込んでいる。今回のショーは18世紀建造のフィレンツェ国立中央図書館で開かれた。メンズ、ウイメンズのルックをミックスし、畳風ファブリックの被り物やケープも違和感を与えることなくルックを際立たせている。またショーの幕を開けたモノトーンの一連は、タータンチェックではあるが、どこか大島紬風。よく見ると羽織風のジャケットも。また“和紙”デニムのエアブラシ風むら染めの色は、炭を思わせる。
「僕の服は毎シーズンほとんど同じですよ」と桑田氏は笑う。シグネチャーである折り紙プリーツや幾通りもの着方を提案する数々のボタンは繰り返し提案されているものの、所々に奇抜なアイデアをフラッシュのように挿入し、ミニマルには終わらない遊び心を見せている。例えばオリジナルのジャカード生地で仕立てたドレス。モチーフの着想源はなんと源氏物語の再解釈だ。日本のカサノヴァ(派手な女性遍歴で知られる、18世紀イタリアの社交家)とも言える光源氏のストーリーは、桑田氏曰く元祖ラブコメディ。そこで彼は、遥か昔の公卿が現代に現れ、釣りをする男性と情事を繰り広げる、と言うシュールな筋書きを想定した。これをはじめ“フラッシュ”ルックはランウェイではやや唐突に思えたが、ショーの後に上の階で開かれたプレゼンテーションを見たら、すべてに納得が行った。クラシックなショーケースに収められたのは、桑田氏の代表作に加え、彼の世界観を象徴する私物アイテムの数々だ。靴の木型から正方形に畳んだ手袋、釣り用の竿とルアー、ガンダムのプラモデル、春画、たこの吸盤をイメージしたジュエリーなど。また新しいフレグランスを開発中ということで、ボトルの両側にはメインの原料であるバラの花びらと、なんと梅干しが。発表製品の“情報解禁日”というマーケティング概念がないのはまったく新鮮だ。ちなみに桑田氏は「毎回ショーを開くことが目的ではないので、今回が最初で最後」と言う。これが本当なら、今回は貴重な体験だったと言えるだろう。“I WANT LESS, AND LESS THAN THAT”をマニフェストとしたショーでは、彼のショーマンよりもコンセプター、そして職人的な立ち位置が感じられた。
男性の色気を感じさせた、エムエム6。
もう一つのゲストデザイナーは、エムエム6 メゾン マルジェラ。コエド(メンズとウイメンズのミックス)で見せることが常のメゾン マルジェラとしては、初のメンズウェアに終始したショーとなった。遡り、2006年にはマルタン・マルジェラ自身がピッティ・ウオモのゲストデザイナーに招かれた経緯があるから、意味のあるカムバックでもある。またグレン・マーティンズがジョンガリアーノに替わってアーティスティックディレクターに、と劇的な変化を遂げようとしているメゾンにおいて、コレクティブ、つまりチームでデザインされるこのメンズラインは安定した姿勢を見せている。ストーリーテリングではなくワードローブ、つまり服自体にフォーカスするラインの最新コレクションに際し、チームはメゾンのアーカイブズを顧みたとか。
会場はフィレンツェの中心地からやや外れたオルティコルトゥラ庭園の中に位置する、アール・ヌーヴォー様式のガラス張り温室、テプダリウム・ジャコモ・ロスター。陽が落ち、暗闇に浮かび上がった高いランウェイをゲストたちが立ち見で取り巻くという光景は、メゾン マルジェラ初期のプレゼンテーションを彷彿とさせた。二人の女性モデルを交えたショーで最も顕著だったのは、光沢のあるレザーからプラスチックコーティングを施したニット、ベルベット、ラメなどさまざまな素材で展開し、マットと光沢のコントラストを遊んだ黒のバリエーション。スーツ、トレンチコート、ボマージャケットと言ったエッセンシャル・アイテムが黒やキャメル、サンドベージュと言ったトーンで展開される中、ターコイズブルーのラメのスーツはグラマラスなナイトライフのアクセントを添えた。さらにラバーやテープの加工、ベルクロ(面ファスナー)使い、中心にスポットライトがあたって両側はフェードアウトするように見えるエアブラシ加工のデニムはモダンなアクセントだ。
背後のアイディアは、自身のイメージ作りに積極的でファッションアイコンでもあった“ジャズの帝王”、マイルス・デイヴィス。そしてマゾッホによる19世紀の性愛小説「毛皮を着たヴィーナス」。前者の直接的な解釈としては両肩が吊り上がったパゴタショルダーのジャケットやトランペットバッグ、後者ではリバーシブルでボンバージャケットにもなるフェイクファーのブルゾンが登場。トラックリストにはパルプのThis is Hardcoreも使われ、デカダントにさらにロックな雰囲気を加えて、“官能的で実用的”を謳うコレクションを演出した。
バッソ要塞で気になったブランドとウイメンズアイテムは?
バッソ要塞の見本市で、ウイメンズアイテムをスポットアウト。まずはニットを幾つか。
そしてフットウェアのピックアップはこちら。
最後に特筆したいのは、ムーミンとのコラボレーション!
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/