去る4月13日、2025年大阪・関西万博が幕を開けた。「いのち輝く未来社会のデザイン」を共通テーマにそれぞれの趣向を凝らして集まった160 以上の国・国際機関の中でも、長年パリ在住の私としてはフランスをお勧めしたい。

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2025年大阪・関西万博開幕!フランス パビリオンの見どころ

去る4月13日、2025年大阪・関西万博が幕を開けた。「いのち輝く未来社会のデザイン」を共通テーマにそれぞれの趣向を凝らして集まった160 以上の国・国際機関の中でも、長年パリ在住の私としてはフランスをお勧めしたい。

「愛の讃歌」を掲げるフランス パビリオンのメインスポンサーは、LVMHグループ

トーマス・コルディフとCRA(CARLO RATTI ASDSOCIATI) による設計で、東ゲートほど近くに位置するフランス パビリオンのテーマは、「愛の讃歌」。エディット・ピアフの曲(1950年)のタイトルとしてあまりに有名な言葉だが、今回フランスは讃えるべき愛を具体的に自己愛、他者への愛、そして地球への愛へと掘り下げた。これらの表現手段は、国が誇る革新性とサヴォアフェール。サヴォアフェールと言えば連想されるのは、職人の手だ。それで、ロダン美術館からの巨匠による手の彫刻数展が海を渡り、館内の数カ所に設置された。関係者とスポンサー専用のコンテンポラリーなサロン、カンフェレンス・ルーム、そしてパリらしいビストロと洗面所の内装は、京都の九条山アーティスト・レジデンスで記念イベントのためのインスタレーションを発表したばかりで日本とのつながりが深いアーティスト、ジョゼ・レヴィ。そして大手保険会社のAXAやアルザス・ワインと共にゴールド・パートナのリストに名を連ねるのは、LVMHグループ。ファッションから食、ホスピタリティまで幅広いジャンルでフレンチ・ラグジュアリーのアイデンティティを体現する同グループは、パリ2024夏季オリンピックに続き、大規模な国際イベントにおける存在感を示す。今回はグループと日本との深い絆を踏まえ、日本人アーティスト、建築家、舞台美術家、写真家、デザイナーとのコラボレーションによる、文化交流を実現させた。

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フランス パビリオンのエントランス。Photo: ©Cofrex

フランス パビリオン内、プライベートサロンの設置風景。

特別展の皮切りは、セリーヌ

館内の展示スペースは大きく二つに分かれ、一つは10月13日までの半年間の会期を6つに区切って行われる仮設展。皮切りはLVMHグループの一つ、セリーヌだ。今年創業80周年を迎えるセリーヌのシンボルは、言わずと知れた「トリオンフ」のロゴ。デザインのインスピレーションは、1971年、創業者のセリーヌ・ヴィピアナがパリ・エトワール広場で車が故障して立ち往生した際にたまたま見入った、凱旋門を囲む大ぶりの鎖だとか。このシンボルマークは今日、メゾンと日本の伝統工芸とのダイアローグのモチーフとなり、現代美術家・映像作家の中村壮志による二つのフィルムをフィーチュアした展覧会 CELINE MAKI-E(蒔絵)が誕生した。

障子を照明と鏡でコンテンポラリーに再解釈した最初の部屋での展示は、彦十蒔絵による松竹梅をあしらった漆塗りの“トリオンフ”アートピース3点だ。2004年に石川県輪島市を拠点として生まれたアーティスト集団「彦十蒔絵」は、自然と共存する日本の精神性に根付き、伝統工芸にモダンさやユーモアの感覚を取り入れた作品を提唱する。また異業者とのコラボレーション企画にも精力的。だからヘリテージを重んじつつ未来を見つめるLVMHとは、またとないパートナーショップとなった。これに呼応する展示は、前述のアートピースと同色のクロコダイルで仕立てた「セリーヌ クラシック トリオンフ バッグ」3点。同時に、中村が金沢及びイタリア・キャンティ地方ラダで撮影し、彦十蒔絵の仕事とセリーヌのクラフトマンシップを交錯させたフィルム『Hands at Work』が上映されている。また奥の部屋では、10M x 3Mと大きなLEDスクリーン上の映像『Ten Landscapes of Dreams』が鏡に写って幾重にも広がるビデオインスタレーションが、見るものをイマーシブな体験へと誘う。トリオンフが描き出す風景をイメージした詩的な映像は、中村壮志とセリーヌとのコラボレーション。

CELINE MAKI-E展は2025年大阪・関西万博 フランス パビリオン内 特別展示スペースにて、開催中〜5月11日。

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障子をモダンに再解釈した “トリオンフ”の部屋。彦十蒔絵のアートピース、「セリーヌ クラシック トリオンフ バッグ」の展示と『Hands at Work』の上映はここで。Photo: Courtesy of CELINE

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“トリオンフ”アートピースはいずれも木彫漆塗りに松竹梅モチーフ。彦十蒔絵 作、金沢市。本朱と黒は平蒔絵仕上げ、金は高蒔絵金箔仕上げ。Photo: Courtesy of CELINE

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大阪・関西万博 限定品「セリーヌ クラシック トリオンフ バッグ」(いずれもシャイニーニロティカスクロコダイル)。イタリア・ラダ セリーヌ アトリエ 作、シリアルナンバー入り。Photo: Courtesy of CELINE

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「セリーヌ クラシック トリオンフ バッグ」のラムスキンのライニングに施された特別なシンボルは、TRIOMPHEの文字と梅モチーフの金箔押し。Photo: Courtesy of CELINE

 

中村壮志撮影、彦十蒔絵による”トリオンフ”アートピースの制作風景が見られる『Hands at Work』のビデオ。

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中村壮志とセリーヌとのコラボレーションによる『Ten Landscapes of Dreams』。Photo: Courtesy of CELINE

真っ白の詩的な世界で堪能する、ディオールのヘリテージと未来性

メインとなるLVMHグループの常設展は、ディオールとルイ・ヴィトン。ちょうどディオールのウィメンズ・フォール・コレクションのショーが15日に京都・東寺で開催されたこともあり、プレビューには各国のVIPやプレス陣も数多く来場。そのポエティックなプレゼンテーションに、目を見張った。メゾン ディオールの展示で表現されたのは、オートクチュールメゾンとしての職人技と、その手仕事へのオマージュ。ブルー、ホワイト、レッド三色での展示は永遠のエレガンスを象徴する「バー」スーツ(1947年にクリスチャン・ディオールのデビュー・コレクションで発表された「バー」ジャケットとコロル スカートのスーツ)と、アンフォラ ボトル(1949年にクリスチャン・ディオール自身がデザイン、繊細な手吹きガラスでできた壺型の香水ボトル。パリ2024オリンピック・パラリンピックのために復刻)である。

またクリスチャン・ディオールがクチュリエになる前は建築家を志していたことを示唆する作品は、二つ。日本を代表する建築家、妹島和世が、メゾンのアート・プロジェクト“Lady Dior As Seen By”のためにデザインした「レディ ディオール」(2024年)と、吉岡徳仁によるメダリオン チェアの再解釈(2021年)だ。また日本でも開かれた「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展以来、パリのラ ギャラリー ディオールでもコラボレーションを展開した高木由利子による新たな写真作品も、メゾンのヘリテージと日本の現代のアーティストたちとのダイアローグの賜物。展示はさらに、約400体の白のトワルと3Dプリンターで再現されたメゾンの香水ボトルの数々で高められている。

ちなみにエアで大阪から出国する海外ビジターは、関西国際空港の「カフェ ディオール by アンヌ=ソフィー・ピック」(第一ターミナル 出国エリア2F)で、ディオールの世界の余韻に浸ることができる。ミシュラン三ツ星に輝くシェフによる同カフェが提案するのは、メゾンのヘリテージを象徴する柄やモチーフを形にしたスイーツとペストリーの数々。

 

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トリコロールの「バー」ジャケットと、メダリオン チェアの展示。手前左には、ロダンによる手の彫刻が。© Victor Marvillet

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流線型のステージに展示された約400体の白のトワル。そして、高木由利子がメゾンのアイコニックなルックを新たにモデル撮影した写真が、詩的な世界を展開する。© Victor Marvillet

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吉岡徳仁が再解釈した“メダリオンチェア”とは、楕円形の背もたれを特徴とする、ルイ16世様式のクラシックな椅子。メゾン創設当時から、ディオールのサロンやブティックのインテリアのアイコンだ。© Victor Marvillet

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妹島和世による「レディ ディオール」。© Victor Marvillet

ルイ・ヴィトンの展示で、没入型体験に酔う

ルイ・ヴィトンは、日本との繋がりが特に深い。アール・ヌーヴォー・ブームたけなわでジャポニズムが流行っていた1896年に誕生したメゾンのモノグラムが、日本の家紋に由来すると言われるからだ。今回の壮大な常設展の根底には、“時を超えるクラフツマンシップへの愛” と共に“日本への愛”がある。トランク84点から成るライブラリーは、建築家、重松象平(OMA)とのコラボレーションによって実現した。サウンドスケープは、トランクづくりのアトリエに響く工具の音をリズミカルに再構築したもので、フランス国立音響音楽研究所(IRCAM)との共同制作による。さらに奥の空間では、アーティスト の真鍋大度による映像作品を投影し、重松象平がデザインした「トランクのスフィア」が、幻想的(スフィアは球型、の意)。

重松象平(OMA)とのコラボレーションによる、84個のトランクからなるライブラリー。中央に配されたのは、ロダンによる手の彫刻「ザ・カテドラル」。

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トランク・ライブラリーで見られる、ワードローブ・トランク内部の構成。Photo: Courtesy of Louis Vuitton

真鍋大度による映像を投影し、無数のトランクを重松象平(OMA)が球型に組み立てた、「トランクのスフィア」。サンウドスケープも伴って、まさにイマーシブな体験。

常設展「鼓動」と、終幕を飾るショーメの特別展

また常設展のスペースでは、若手アーティストのジュスティン・エマールのディレクションによる“鼓動”が、ファミリーのビジターを楽しませている。赤い糸、手、そして心臓の鼓動を原動力に、自然と都市風景を絡めつつ光と音で演出した幻想的なショーだ。

そして2025年大阪・関西万博の終幕を飾る展示として予定されているのは、パリ2024夏季オリンピックのメダルのデザインでも知られるショーメの特別展「ショーメ・自然美への讃歌」だ。ショーメは1780年の創業、19世紀末〜20世紀初頭には自然主義を牽引し、豊富なアーカイブを誇るヴァンドーム広場のジュエラー。メゾンのDNAである麦の穂、ミツバチ、そしてミツバチの巣(ハニカム)をモチーフとした「Bee de Chaumet(ビー ドゥショーメ)」コレクションを通して、自然の美しさと生命力を称えるエキシビションを展開する。前述3メゾン同様、没入型の展示となる予定だ(9月1日〜10月13日)。

ミツバチの巣(ハニカム)を着想源とした、ショーメの「Bee de Chaumet」

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フランス パビリオンのブティックでは、ジョゼ・レヴィとサンジェームズとのコラボレーションによる限定カプセル・コレクションを販売。Photo: Courtesy of Saint James

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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