コンセプトを明確にした新店舗や新装オープンした既存店では、クリエイティブ・ディレクターたちのメッセージを読み取れる。

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【アライア】や【サンローラン】など、ハイエンド・メゾンの、パリの新アドレス。

コンセプトを明確にした新店舗や新装オープンした既存店では、クリエイティブ・ディレクターたちのメッセージを読み取れる。

『アライア』ではモード、アート、デザイン、建築が融合

メゾン アライアは、新しいチャプターを迎えた。4年前にピーター・ミュリエがクリエイティブ・ディレクターとなってはじめて彼自身が構想し、“新しいパリのホーム” と呼ぶブティックが誕生したのだ。既存の市内2店舗とはインティメイトな雰囲気を共通点としつつ、異なる構造で。これでパリのアライアの“三部作”が完成したことになる。マレ地区の旗艦店は、創業者アズディン・アライアの生前には彼の住まいとアトリエ、ショールームを兼ねた歴史的アドレス(現在では膨大なアーカイブを管理し、定期的に展覧会を開催するアライア財団を併設)。10年前にオープンしたマリニャン通り店はよりコンテンポラリーなつくりで、昨年1月にはピーターによるアライアのショーの会場ともなった。そして最新アドレスは、アライア氏が新店舗オープンを夢見ていたという通り、フォーブール・サントノレに。

ピーターは新店舗のインテリア・デザインを、瀬島和世と西沢立衛(SANNA)に依頼した。瀬島氏は言う。「メゾンに象徴的なヌードカラーと服のプロポーション、そして“セカンドスキン”と言う概念を念頭におきました。それぞれのフロアは雰囲気が異なるものの、一体感のある仕上がりになったと思います」。ピュアで、かつ温かく軽やかな空気が静かに流れる地上の階(日本の1階)はソフトピンクが基調。包み込むような4つのシリンダー型のトランスペアレントのスペースには、ジュエリー、バッグなどアイテム別のディスプレーが。螺旋階段を上ると、上階は開けたスペース。ここにはピーターが選んだアーティストやデザイナーの作品が服や小物と混在し、まるでアートギャラリーだ。例えばロン・アラッド(Ron Arad)によるテーブル、フィリップ・マロウィン(Philippe Malouin)のアームチェア「モロ」。スチールの鎖と人工毛の三つ編みと言う相反する要素を合わせたスカルプチャーは、ダイアモンド・スティンギリー(Diamond Stingily)による「エレファント・メモリー」。

 

また奥の階段は、ビジターをメザニン階のカフェへと導く。出店しているサンタンブロースは、ミラノの歴史あるカフェ&レストラン。ここではカフェとオリジナルのビスケット(共にテイクアウト可能、ビスケットはギフトセットも)で、ブティックを見下ろしながら一服できる。ちなみにアライア氏は、頻繁に自ら料理をして自宅兼本店のキッチンにゲストたちを招き食事を共にしていたから、飲食スペースを設けることはメゾン アライアにとってとても意味深いのだ。パリの他の2店舗でも、食事もできるカフェ&レストランを併設している。「私たちはここを、ファッション、デザイン、アート、そしてアーキテクチャーが交流するスペースにしたかったのです。私にとってダイアローグと言う概念は、メゾンの心臓ですから」とは、ピーター・ミュリエの言葉。アライアの“新しいホーム”は、ブティックを超えた場所になった。

ALAÏA
15, rue du Faubourg Saint Honoré 75001 Paris (11〜19時、日曜13時〜)

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アライアの服で表現されるボディラインの曲線に呼応するかのような螺旋階段と、トランスペアレントな円柱型の仕切り(左)。Photo: Courtesy of Alaïa

 

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流線形とヌーディな色に、力強いダイアモンド・スティンギリーのオブジェ(左)がコントラストを成す。Photo: Courtesy of Alaïa

新装オープン『サンローラン リヴ ・ドロワ』は、デザインとフードの最骨頂

1年にわたる改装を終えて、サンローランのリヴ・ドロワ・パリ店が2月半ばに再びドアを開いた。メゾンの最新コレクションやコラボレーション、限定アイテムと共存するのは、SAINT LAURENT EDITIONSのアートブックをはじめとする本や雑誌、ショーのサウンドトラックを含むレコードからオーディオ機器、カメラ、ステーショナリー、ゲーム、そしてフランソワ・ドビネのチョコレート(期間限定)まで。また店内随所に配されたのは、ドナルド・ジャッド・ファニチャーの数々だ。既存の木の家具に加えてリヴ・ドロワ・パリ店のみで展示・販売されている特注家具は、アーティスト、ドナルド・ジャッドの財団とのパートナーシップにより実現した。1984年のデザインを新しい2種類のメタル・フィニッシュ(スチール仕上げとトラフィックホワイト塗装アルミ二アム仕上げ)で完成させた、15型だ。椅子、テーブル、デスク、ベッドの一連はすべて、メゾンのエスプリに呼応すべく白と黒。思えば、ヴァカレロのデザインへの造詣の深さゆえに、サンローランはシャルロット・ペリアンのデザインによる未発表家具を初めて実現化し、2025年のミラノ・デザインウィークで披露した。

また地下には、ロサンゼルス郊外の「スシ パーク」初の支店がオープン。シェフ、ピーター・パークによるおまかせ料理のレストラン本店は、アンソニー・ヴァカレロと友人たちの行きつけだ。ちなみにリヴ・ドロワ・パリ店の店内には、バカラのグラスに並んで「スシ パーク」オリジナルの陶器の食器もテーブル・セッティングに並んでいる。リヴ・ドロワ・パリ店は、アンソニー・ヴァカレロのキュレーションによるカルチャー・ハブでもある。

Saint Laurent Rive Droite (10時〜19時30分、日曜11時〜19時)
213, rue Saint Honoré 75001 Paris
スシ パークの入り口は脇の道に。8, rue du 29 juillet 75001 (火曜〜土曜・ランチ、ディナー)休 日、月曜 

要予約

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改装によって一新された、上階への階段。Photo: Courtesy of Saint Laurent

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リヴ・ドロワ・パリ店には、ドナルド・ジャッド本来の木のベンチも。Donald Judd Furniture ©️Judd Foundation / Photo: Courtesy of Saint Laurent

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ドナルド・ジャッド財団とのコラボレーションによる、スチール仕上げの椅子とサイドテーブル。Donald Judd Furniture ©️Judd Foundation / Photo: Courtesy of Saint Laurent

 

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地下の「スシ パーク」はミステリアスでインティメイトな雰囲気。Photo: Courtesy of Saint Laurent

『アミ パリス』はスター・アーキテクトとコラボレーション

着々と発展を遂げ、より広い小売りスペースが必要になったアミ パリス(AMI Paris)は2月半ば、同ブランドの直営店としては世界最大規模のブティックをオープンした。内装に起用したのは、美術館からレストランまでを幅広く手掛けるフランスのスター建築家デュオ、オリヴィエ・マーティとカール・フルニエのSTUDIO KO。北マレの六差路の一角、三角形に広がる立地条件を生かした建物の外観には白黒ストライプの日除けが連なり、ウィンドウでは石にミラー仕上げの金属の棚が眩しい。2フロアに渡る600M2の店内は石、木、レザーと言ったナチュラル素材が温かい雰囲気を醸し出す一方、鏡張りの階段やハンマー仕上げを施したコンクリートの柱がアクセントを添えている。黒、ゴールド、アイボリー、黄土色と言った色調がマーブル状に混ざったレジカウンターは、贅沢なクオーツ・コーティング。またここではサーキュラー・ファッションに貢献すべく、AMI For Everのカウンターも備えた。着なくなったAMI ParisのアイテムをAmiparis.comforever.amiparis.comでのショッピングに使えるバウチャーと交換できるシステムだ。

AMI
96, rue de Turenne 75003 Paris 

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AMIでは、両サイドに連なる大きな窓と階段脇の鏡張りの壁が、店内を一段と広く見せる。Photo: Nicolas Sisto

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AMIの創業者でクリエイティブ・ディレクターの、アレクサンドル・マテュッシ。Photo: Nicolas Sisto

ハイエンドなセレクトと共に楽しめる、『セリーヌ』のアート・プロジェクト

セリーヌは今年はじめ、アヴェニュー・モンテーニュの旗艦店のほぼ斜向かいに、インティメイトな雰囲気のブティックをオープンした。オート・パフュームリー、ジュエリー、ビューティ、バッグを含めたウィメンズ、そして特注レザーグッズを取り揃えた、ハイエンドな品揃えだ。木やバサルティーナ石と言ったベージュ〜グレーのトーンの自然素材と、クロムメッキのメタルや磨きをかけた金色の真鍮がコントラストを成している。特に大理石の暖炉が存在感を主張する上階では、多用された鏡とガラスに光が複雑に反射して、幻想的な雰囲気を醸し出す。洗練を極めつつこじんまりした場所は、6年来セリーヌがキュレーションしている“アートプロジェクト”を堪能するには最適の環境だ。
選ばれたアートワークはファブリス・ジギ(Fabrice Gygi)の壁にかけるオブジェ、マグナス・マキシーン (Magnus Maxine)の新聞紙を使ったパネルから、ルカ・モンテラステッリ(Luca Monterastelli)やジョン・ダフ(John Duff)、カティンカ・ボック(Katinka Bock)のスカルプチャーまで。さらに壁では、ロシェル・ファインスタイン(Rochelle Feinstein)やヴィヴィアン・ズーター(Viaian Suter)の抽象画が際立つ。

 

44, Avenue Montaigne 75008 Paris (10時〜20時、日曜11時〜19時)

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ヴィンテージの家具とアートが共存する上階。Photo: Courtesy of CELINE

セリーヌの壁を飾る、ヴィヴィアン・ズーターVivian Suter(スイス・アルゼンチン)の抽象画。

 

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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