服とアート、そして住まいとの関係は? ユニークな視点の展覧会で、ファッションをいつもとは違う視点で見てみよう。

ラフ・シモンズによる卒業制作の家具は必見のタイトルイメージ

ラフ・シモンズによる卒業制作の家具は必見!ファッションを広い視野で見つめる展覧会。

服とアート、そして住まいとの関係は? ユニークな視点の展覧会で、ファッションをいつもとは違う視点で見てみよう。

アントワープ『MOMU』で見る、ファッションとインテリアの関係

ユニークな企画展で、アントワープ・ファッションの特別な立ち位置の確保に貢献しているファッションミュージアム・アントワープ、通称「MOMU」。開催中のFashion & Interiors. A Gendered Affair展でファッションとインテリアの関係と同時に模索されているのは、両カテゴリーに反映される、ジェンダーの概念の進歩だ。19世紀後半には女性は家庭で多くの時間を過ごし、着飾りつつ家の装飾に専念していた。展示作品の当時の絵画を見ると、ドレープをきかせてフリンジやタッセルをアクセントとしたドレスに身を包んだ女性たちの姿がインテリアにマッチして、まるでカムフラージュ。20世紀になると女性も仕事をするようになり、クリエイティブ・デュオとしてのカップルや男女間のコラボレーションも珍しくなくなった。こうして女性の地位向上と、インテリアがファッションに与える影響は、共に進歩。またアーツ&クラフツのムーブメントは、両方のフュージョンを促した。

 

モダニストが台頭すると、ル・コルビュジェらの建築家・家具デザイナーがファッションにも意見するように。ちなみに、ベルギーで唯一のル・コルビュジェ建築を住まいとするアン・ドゥムルメステールは、ミニマルでモノクロームな自身のファッション・デザインにも、彼の影響を隠さなかった。ファッションとデザインの世界を行き来するデザイナーは少なくないが、代表的なのはラフ・シモンズだろう。彼がアントワープ王立アカデミーでインダストリアル・デザインを専攻していたものの、学校のディレクターからファッションの才能があると評価されて転向したと言う逸話は、有名。彼の卒業制作の家具には、既にボディへの興味が顕著だ。また家具と服の関係を明らかに縮めたのは、フセイン・チャラヤンによる「アフターワーズ」コレクション。蛇腹式の円形テーブルがスカートになるプレゼンテーションは、今でも語りぐさになっている。さらにファッションとインテリアの境界線を無くしたのは、マルタン・マルジェラ。スタッフ全員の白衣からオフィスやアトリエのペイントまで、まるで修正液のような真っ白は、彼が退任した後もメゾンのシグネチャーとなっている。これらはすべて、本展で展示されている要素だ。他にも20世紀前半のデザイン・ムーブメントに呼応する服から、かけ布団や枕、タペストリーなどのホーム・テキスタイル、そして家具の一部を統合させた服まで、相互関係を示す例は尽きない。

 

Fashion & Interiors. A Gendered Affair展は開催中〜8月3日まで
MOMU
National Straat 28
2000 Antwerpen,Belgium
パリからアントワープはユーロスターで約2時間

ラフ・シモンズによる卒業制作の家具は必見の画像_1

リチャード・マローンのデッドストック生地を使ったドレス(2022春夏)とエコナイロンのソファ(2025)。Fashion & Interiors. A Gendered Affair at MoMu – Fashion Museum Antwerp, 2025, © MoMu Antwerp, Photo: Stany Dederen

ラフ・シモンズによる卒業制作の家具は必見の画像_2

Henry van de Velde の椅子(1897)とラグ(1908)、彼の妻Maria Sèthe Bequestによる肩当て(1898)。Fashion & Interiors. A Gendered Affair at MoMu – Fashion Museum Antwerp, 2025, © MoMu Antwerp, Photo: Stany Dederen

ラフ・シモンズによる卒業制作の家具は必見の画像_3

ジャンヌ・ランヴァンのドレス(1920)とアルマン・アルベール・ラトゥーの椅子(1924-1925)。 Fashion & Interiors. A Gendered Affair at MoMu – Fashion Museum Antwerp, 2025, © MoMu Antwerp, Photo: Stany Dederen

ラフ・シモンズによる卒業制作の家具は必見の画像_4

2018年にパリ市立ガリエラ美術館で開かれたマルタン・マルジェラ展のために再現された、オフィスの一画。Fashion & Interiors. A Gendered Affair at MoMu – Fashion Museum Antwerp, 2025, © MoMu Antwerp, Photo: Stany Dederen

ラフ・シモンズによる卒業制作の家具は必見の画像_5

チャラヤンのAfterwordsコレクションより(2000-2001年秋冬)、スカートになるコーヒーテーブル。 Photo: Catwalkpictures

ラフ・シモンズによる卒業制作の家具は必見の画像_6

ラフ・シモンズの卒業コレクションより、キャビネット「Corpo 」(1991 )。Fashion & Interiors. A Gendered Affair at MoMu – Fashion Museum Antwerp, 2025, © MoMu Antwerp, Photo: Stany Dederen

ラフ・シモンズによる卒業制作の家具は必見の画像_7

”布団”ルックの一連。左からマルタン・マルジェラ (1999-2000 秋冬)、ジョン・ガリアーノによるメゾン マルジェラ (2018-2019 秋冬)、ヴィクトー&ロルフ ( 2005-2006 秋冬)、マリーン・セル (2019-2020 秋冬)、コムデギャルソン (2020 春夏)、 ジェニー・ファックス(2022-2023 秋冬)。 Fashion & Interiors. A Gendered Affair at MoMu – Fashion Museum Antwerp, 2025, © MoMu Antwerp, Photo: Stany Dederen

ルーヴル美術館の別館では“アーティストと服”にフォーカス

フランス北部、ルーヴル美術館の別館であるルーヴル・ロンスで開かれているのはS’habiller en artiste. L’artiste et le vêtement(“アーティストに装う。アーティストと服”の意)。歴代のアーティストたちのアイデンティティとしての装いに注目したのは、パリのルーヴル美術館工芸品部門ディレクターのオリヴィエ・ギャべ。彼が同美術館ではじめてモードを絡めた大規模な展覧会「ルーヴル・クチュール」(開催中)をキュレーションしたのは記憶に新しい。

 

服が自己表現の一つであることは言わんとしれた事実だが、特にアーティストにとっては意味深い。これを証明するべく、レンブラントは生涯に渡り、その都度違うエレガントなルックで80もの自画像を描いた。18世紀になるとポンペイの遺跡が発掘されたことから、ネオクラシックなスタイルが上流階級の間で流行。だから画家がトージュ(古代ローマにおける、男性の聖職者や法律家たちのドレープをきかせた衣装)をまとってキャンバスに向かうことは、エレガントな作風への示唆でもあった。アーティストたちがそれぞれの思いを込めたのは、ジェンダーを越えたルック。シュールレアリスムの画家、レオノール・フィニは幼い頃両親が離婚した。母と共に出生地のアルゼンチンを去ったものの、父が執拗に誘拐を試みたため、母の計らいで男の子に変装。それ以来、彼女は服が示唆する性別に特別な意味を見出していた。またジョルジュ・サンドやローザ・ボヌールの男装は、フェミニストとしての主張。一方アンディ・ウォーホルによるグラマラスなヘアメイクでの女装セルフポートレートの一連には、アーティストとしての表現の自由、“ふさわしい服装”と言う概念に対する反骨心が読み取れる。また自らのアートを服として纏ったのは、ニキ・ドゥ・サンファルや草間彌生。本展ではルネッサンスから今日まで、200点にのぼる服、絵画、スカルプチャー、ドローイング、写真が展示されている。

 

S’habiller en artiste. L’artiste et le vêtement(The Art of Dressing. Dressing Like An Artist )展は開催中〜7月21日
Louvre-Lens
99, rue Paul Bert
62300 Lens
パリからロンス(Lens)まではTGVで1時間半

ラフ・シモンズによる卒業制作の家具は必見の画像_8

ディオールから、古代ギリシャを思わせるドレス2点。右:マリア・グラツィア・キウリ(2019-2020年秋冬オートクチュール)。左・ジャンフランコ・フェレ(1992年春夏オートクチュール)。Photo: Minako Norimatsu

ラフ・シモンズによる卒業制作の家具は必見の画像_9

コンスタンス・マイヤー=ラマルティニエール(Constance Mayer-Lamartinière)の油彩自画像 (1795 - 1801)。Bibliothèque Paul-Marmottan_Académie des beauxarts, Institut de France © Bibliotheque Marmottan, Paris / Bridgeman Images

ラフ・シモンズによる卒業制作の家具は必見の画像_10

マン・レイの撮影によるマルセル・デュシャンは、彼が“ローズ・セラヴィ”と呼ぶ別人格に扮した姿(1921)。Centre Pompidou - Musée national d'art moderne Paris © Man Ray Trust/ Adagp, Paris

ラフ・シモンズによる卒業制作の家具は必見の画像_11

毎日同じ格好をシグネチャーとしていたヨゼフ・ボイス。右は彼がフエルトで仕立てたスーツ100着のうちの一つ(1970)。Photo: Minako Norimatsu

ラフ・シモンズによる卒業制作の家具は必見の画像_12

ニキ・ドゥ・サンファルによる絡み合うヘビのスカルプチャーと、マルク・ボアン(当時のディオールのデザイナー)によるドレス(共に1982)。Photo: Minako Norimatsu

ラフ・シモンズによる卒業制作の家具は必見の画像_13

クチュリエ、Geneviève Sevin-Doeringによるドレスは、レオノール・フィニがペイントしたシルクで仕立てたボディラインを顕にしないシルエット(1975)。 Galerie Minsky © Geneviève Sevin-Doering © galerie Minsky

ラフ・シモンズによる卒業制作の家具は必見の画像_14

ノートルダム寺院のためにステンドグラスを製作中の画家、クレール・タブレ(Claire Tabouret)の絵の具だらけの作業着(2022―2025)。Photo: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

記事一覧を見る