帽子デザイナー、ラスラン・バギンスキーがこの夏、パリの百貨店ギャルリー・ラファイエットのウインドウをジャックしている。店内には常設コーナーもオープン。

パリ百貨店のウィンドウに見る、ウクライナの手仕事とウィット
帽子デザイナー、ラスラン・バギンスキーがこの夏、パリの百貨店ギャルリー・ラファイエットのウインドウをジャックしている。店内には常設コーナーもオープン。
ウクライナの帽子デザイナー、ラスラン・バギンスキーとは
ラスラン・バギンスキーは、ウクライナの帽子デザイナー。スタイリスト時代に撮影用に作った帽子が評判となったことから、2015年に自身の名を冠したブランドをスタート。クオリティの高いクラフトとモダンなデザイン、構築的なフォルムで評価され、2023年にはフランスの文化省が支援するファッション・アワード「ANDAM」で、アクセサリー賞に輝いた。
ブランドの10周年を記念すべく「Ruslan Baginskiy Tales」と題したイベントは、百貨店ギャルリー・ラファイエットのウィンドウのテイクオーバー。パリ・オスマン通りに面した12のウィンドウはそれぞれ違ったストーリー仕立てで、代表作と最新作のウィットを効かせた展示に加え、祖国の風景や手仕事の動画も見せている。「インスタレーションはウクライナのクラフツマンシップへのオマージュ。同時に僕たちの思い出、子供の頃の夢、そして今なおファッションから感じ取れること、それらのすべてを見せています」と、ラスランは説明してくれた。たとえばユネスコ認定の無形文化財でもある、イザ(同国西部、ルーマニアとハンガリーの国境近くの村)の柳細工。そしてカジミール・マレーヴィッチ(Kazimir Malevich。20世紀前半に、東欧の前衛芸術を牽引したウクライナのアーティスト)の作風からインスパイアされたマネキンなど。また2つのウィンドウでは、ウクライナ国旗に見る青と黄色をフューチャーした。
「ギャルリー・ラファイエットは百貨店を越えた存在、グローバルな舞台です。ですから僕とチームにとって、『Ruslan Baginskiy Tales』はプロジェクト以上の意味があります。それで、“僕たちが守るべき美しいもののストーリーを語るストリート・エキシビション”と言うアイデアに行き着いたんです」と、ラスラン。「シェアしたいのは僕たちのホーム、つまりウクライナの文化的なルーツ。それがパワフルで、優雅で、創造的で、しかも世界中の人々をインスパイアする可能性があるという事実です。僕たちは文化と言う形の言語にはパワーがあると信じています。どのウィンドウも、ウクライナ人としてのルーツを愛する僕たちの声なんです」。ロシアの侵略による被害が日々報告される今でも、キーウで帽子作りを続けるラスラン。その愛国心に溢れたウィンドウは、美しくおもしろいだけでなく、感動を与えてくれる。

巨大なポスターを背後に、達成感を噛み締めるラスラン・バギンスキー。Photo: Courtesy of Ruslan Baginskiy

Netflixオリジナルドラマ『エミリー、パリへ行く』でミンディが愛用していたキャスケット。Photo: Courtesy of Ruslan Baginskiy

このウィンドウでは常時、下から吹き上げる風に軽やかな帽子がたなびく。Photo: Courtesy of Ruslan Baginskiy

ウクライナ国旗の色をベースに、自由の象徴として選んだ鳥と、その巣で演出したウィンドウ。Photo: Courtesy of Ruslan Baginskiy

この一連のマネキンが、カジミール・マレーヴィッチからのインスピレーション。左のマネキンが手にしているのが、帽子になるバッグ。Photo: Courtesy of Ruslan Baginskiy

キャップも、ラスランの定番。ウクライナの果物の広告に見立てたビジュアルで。Photo: Courtesy of Ruslan Baginskiy
ビヨンセ御用達の帽子デザイナーに飛躍した、ラスラン
思えばラスランとの出会いは7年前。ウクラニアン・ファッションウィーク中に、キーウで開かれた彼のプレゼンテーションに遡る。しなる稲穂が一面に広がる畑と言う演出で見せたボーターハットの一連には、素朴さとモダンさの、絶妙なバランスが読み取れた。ブランドがパリで展示会を開くようになった近年は、毎シーズン新作をチェック。最近では帽子とバッグ、2WAYのデザインがシグネチャー・ピースに加わった。ここ10年のうちにラスランは着実に名を成し、セレブリティのファンにはリアーナ、マドンナ、ジジ&ベラ・ハディドから、英国王室までを数える。またビヨンセのためにはルネッサンス・ツアー、カウボーイ・カーター・ツアーのために、カスタムメイドの帽子をデザイン。Netflixオリジナルドラマ『エミリー、パリへ行く』やアメリカの人気ドラマ『ザ・ホワイト・ロータス』でもキャストの衣装に使われた。
この機にギャルリー・ラファイエット0階、メインエントランスから入ってすぐのエリアには、グラフィックなセッティングが目を引く期間限定ストアを設置。グラフィックなセッティングがまた2階にはショップインショップもオープンしたばかりだ。
ラスラン・バギンスキーのウインドウとポップアップは8月25日まで。
2階のコーナーは常設。
Galeries Lafayette Paris Haussmann
40, Boulevard Haussmann 75009 Paris
国内ではリステア‘(東京)で取り扱いあり。
https://ruslanbaginskiy.com

巨大なキャスケットのオブジェを配した、ギャルリー・ラファイエット2階のショップインショップ。Photo: Courtesy of Ruslan Baginskiy

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/