パリ・ファッション・ウィークが幕を閉じて間もない10月4週目、パリは今度はアートに湧いた。この前後に始まったアートとモードの数々の展覧会から、ベストがここに。

【カルティエ現代美術財団】から【ルイ・ヴィトン財団】まで。パリで今行きたい美術館。
パリ・ファッション・ウィークが幕を閉じて間もない10月4週目、パリは今度はアートに湧いた。この前後に始まったアートとモードの数々の展覧会から、ベストがここに。
パリ・アートウィークとは
パリ・アートウィークに先んじて街のアート・ムードを触発したのが、マレ地区のギャラリー、マッシモ・デ・カルロ・ピエスユニーク。ウィンドウに配されたエルムグリーン&ドラッグセットによる超現実的なスカルプチャーは、日中夜通行人たちの好奇心をそそり、SNSを騒がせた。そしてアート・ウィークの核である大規模なアートフェア「アートバーゼル・パリ」は、グラン・パレに世界から200ものギャラリーを迎えてスタート。一方、アートバーゼルから派生し、オテル・ドゥ・メゾン(元カール・ラガーフェルドの邸宅)を会場とする「デザイン・マイアミ・パリ」には、家具とデザイン、ジュエリーの珠玉のギャラリーが結集した。「アートバーゼル・パリ」はメイン会場外で幾つかの公式プログラムを提案する。その一つ、ミュウミュウは昨年に続き、イエナ宮でビデオ上映を含むインスタレーションとパフォーマンスからなるイベント「30 Blizzards.」を開催。今回はアーティスト、ヘレン・マルテンが幼少期、コミュニティ、性、内面性、そして喪失と言ったさまざまなテーマへの洞察を、分野を融合させたイマーシブな空間で見せた。また5年に渡る改装を控え、既に夏のウォルフガング・ティルマンズ展(セリーヌ協賛)終了と共にクローズしていたポンピドクゥーセンターは、この週だけドアをあけた。花火やコンサート、ダフトパンクを迎えてのパーティなど一連のイベントは「ビコーズ・ボーブール」と題され、4万人ものビジターで大盛況。
またこの時期に合わせて新しい展覧会をオープンするアートギャラリーも多い。その一つがエスター・スキッパー。若手女流アーティスト、カロリーナ・ジャブロンスカは、母国ポーランドで社会の論点である女性の位置(特に中絶禁止問題など)を、挑発的かつマンガタッチの自画像を交えた「Jarred Kitchen展」で見せた。またマルタン・マルジェラのモデルとして名を馳せたクリスティーナ・デ・コーニンクは、元来ステンドグラス職人の仕事場で、その後もアーティストのアトリエだった環境を活かして詩的な展覧会を開いた。30点に及ぶ新作はニットや古い毛布、マットレスなどを使用した抽象的な形のスカルプチャーで、いずれも彼女が手作りしたもの。
上記展覧会のうち現在も開催中なのは「Jarred Kitchen展」
Esther Schipper, Paris
16 Place Vendôme Paris 75001 Paris
Elmgreen and Dragset のスカルプチャー。Massimo De Carlo Pièce Uniqueは1点のみのアート作品を大きなウィンドウに月替わりで展示するシステム。57, rue de Turenne 75003 Paris Photo: Minako Norimatsu
Karolina JablońskaのJarred Kitchen展は開催中。〜12月20日まで。 Photo: Courtesy of Gallery Esther Schipper
Kristina De Coninckの「Les Dames D’Avon展」より。ニットやテキスタイルのスカルプチャーは、Atelier Lardeurの現況を生かした演出で展示された。 Photo: Minako Norimatsu
現代アートの殿堂。カルティエ現代美術財団とブルス・ドゥ・コメルス
パリ・アートウィーク中に最も期待されていたイベントの一つが、新しいカルティエ 現代美術財団のこけら落とし。1984年にパリ郊外でスタートし、1994年以降はパリ14区に移ってランドマークだった同財団が、市の中心地の新アドレスにオープンしたのだ。オスマン様式の歴史的建造物の大改装を手がけたのは、前施設の設計と同様に、巨匠ジャン・ヌーヴェル。“ルーヴル美術館と対話する”というコンセプトの建物は8500㎡に渡り、正面の大きなガラス窓からパレロワイヤル広場を見渡せる。今後のさまざまなイベントに備え、展示スペースを自由に変えられるモジュラーシステムが取り入れられた。最初の展覧会は前施設での過去40年間の展示を抜粋した、オムニバス。デヴィッド・リンチから石上純也、森山大道、横尾忠則、マチュー・バーニー、ジェームズ・タレルまで、多種多様なジャンル、アーティストを網羅している。全体のセノグラフィーは、イタリアのデザインユニット、フォルマファンタズマが手がけた。
「Exposition Générale展」は 開催中。〜2026年8月23日まで。
Fondation Cartier pour l’Art Contemporain
2, Place du Palais Royal 75001 Paris
コンテンポラリーなカルティエ現代美術財団の展示スペースは3フロア、6,500㎡に渡る。階段の踊り場を飾るのはアボリジニのアーティスト、Sally Gabori による横幅6mあまりの油彩画「Dibirdibi Country」 (2009) 。Photo: Minako Norimatsu
ピノー・コレクションの新しい展覧会は「ミニマル」がテーマ。1960年代に出現したムーブメントに着眼して集められた約100点は絵画からスカルプチャーまで。光、“もの派”、バランス、表面、罫線、モノクローム、物質主義などのサブテーマに分かれて展示されている。安藤忠雄のミニマルな建築が圧巻のクーポールを占めるのは、メグ・ウェブスターのインスタレーション。色や形、時には材料もミニマルな作品の一連が以下にインパクトが大きく、見るものの心に響くかが実感できる。
「Minimal展」は開催中。〜2026年1月19日まで。
Bourse de Commerce-Pinault Collection Paris
2, rue de Viarmes 75001 Paris
同じくブルス・ドゥ・コメルスでミニマルに先駆けて始まったのが、リジア・パーピの回顧展「空間を紡ぐ」。1950-60年代にかけてブラジル・アヴァンギャルドを牽引した彼女は、物体と時間、空間との関係を探り続けた。最も有名なのは、無数の参加者たちが巨大な白の布に体をうずめ、緩やかに動くことでまるでさざ波のように見えると言うパフォーマンス「ディヴァイザー」。これは場所を変えて繰り返されたが、本展ではリオの近代美術館での模様を収めたビデオを上映している。
「Lygia Pape. Weaving Space展」は 開催中。〜2026年1月19日まで。
Bourse de Commerce-Pinault Collection
2, rue de Viarmes 75001 Paris
Photo: Lygia Pape, Divisor (1968). Performance au Museu de Arte Moderna, Rio de Janeiro – Brésil (1990) © Projeto Lygia Pape. Courtesy Projeto Lygia Pape
二大回顧展。ゲルハルト・リヒターとジョージ・コンド
フォンダシオン ルイ・ヴィトンで始まったのは、近代〜現代アートにおいて最も影響力が大きいとされるドイツの巨匠、ゲルハルト・リヒターの、60年余りに渡る作品を集大成した大規模な回顧展。彼は写真に上乗せして描き、ピントがボケた写真のように仕上げたフォト・ペインティングで名を馳せた。ここではドローイングや写実画、抽象画、近年のカラーチャートやガラスとスチールで構成したスカルプチャーを含む275点が一望できる。そこで実証されているのは、アーティストとしての高度な技術と様々な実験的なアプローチはもとより、彼の社会的な視点。リヒターは、”前衛”を退廃芸術とするヒトラーのプロパガンダがアート界にも傷跡を残していた東ドイツを逃れ、1961年に西側に逃れたのだ。本展は年代順に展開されているので、彼の作風の変化を見るのも興味深い。
「Gerhard Richter展」は開催中。〜2026年3月2日まで。
Fondation Louis Vuitton
8, Avenur du Mahatma Gandhi 75116 Paris
「Gerhard Richter展」の時系列の展示より、Galerie 7。左からReader(1994、油彩画)、Kugel(Sphère III、1992、ステンレス)、そして一連のAbsraktes Bild(1999、油彩画)Photo: © Fondation Louis Vuitton / Marc Domage
Gerhard Richter展、 Galerie 5。左からErhängte (1988、油彩画)、Zelle(1988、油彩画)、そしてConfrontation 1、Confrontation 2、Confrontation 3(1988、油彩画)Photo: © Fondation Louis Vuitton / Marc Domage
パリ市近代美術館でアートウィークに先駆けて幕を開けたのは、ジョージ・コンドの回顧展。彼はウォーホールのファクトリーでプリンターを務め、その間バスキアやキース・ヘリングとも親交を深めて、1980年代以降にアートシーンに躍り出た。ヨーロッパの古典芸術にポップアートなどアメリカの近代アートを融合させた、彼のユニークな「アーティフィシャル・レアリスム」が注目されたのだ。本展ではレンブラントやゴヤなど、芸術史上の傑作を着想源としつつシュールな視点で再解釈した絵画や、顔がない肖像画の一連など、有名作品を網羅。ピカソから影響を受けたというキュビスム的な作品やドローイング、彫刻、版画、グラフィックアートも含む約200点を展示している。
「George Condo展」は開催中。〜2026年2月8日まで。
Musée d’art Moderne de Paris
11, Avenue du Président Wilson 75116 Paris
ジョージ・コンドの代表作品。Photo: George Condo, The Portable Artist, 1995, Private collection © ADAGP
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/