ソフィア・コッポラによる映画『マリー・アントワネット』が、今年公開20周年を迎えた。それを記念して、ヴェルサイユ宮殿の離宮プチトリアノンでは、映画の舞台裏を見せる展覧会が開催中だ。
ソフィア・コッポラによる映画『マリー・アントワネット』が、今年公開20周年を迎えた。それを記念して、ヴェルサイユ宮殿の離宮プチトリアノンでは、映画の舞台裏を見せる展覧会が開催中だ。
ソフィア・コッポラのファンにはたまらない、『マリーアントワネット』20周年展
ソフィア・コッポラ監督作品『マリー・アントワネット』は、今年公開20周年を迎えた。サブカルチャーのアイコンとしてのソフィアの世界観と時代考証のギャップから、公開当時は賛否両論だったこの映画。後に、自由な解釈を貫くアートディレクションの指標となろうとは、誰が予測しただろうか。映画撮影の舞台裏を見せる展覧会は、ヴェルサイユ宮殿からの提案により、カルティエの協賛のもとに実現したという。会場は、ヴェルサイユ宮殿敷地内のプチトリアノン離宮。実際のロケ地は別の城のほか、ヴェルサイユ宮殿内の鏡の間や礼拝堂だったが、王妃マリー・アントワネットが窮屈な宮廷での暮らしを逃れ、プチトリアノン離宮で多くの時間を過ごしていたことから、この会場が選ばれた。豪華絢爛な宮殿とは対照的にシンプルな屋敷の各部屋には、ムードボードからクロッキー、撮影風景の写真やビデオ、コスチュームはもちろん、ヘアスタイリストのオディール・ジルベールによるウィッグ、マノロ・ブラニックによる靴、そしてテーブルウエア、お菓子や料理のダミーまでがずらり。ソフィアが砂糖菓子のようなマリー・アントワネットの世界と自身のロックなテイストをどうミックスさせたかが読み取れて、ワクワクする。
撮影中のソフィア・コッポラ(右)とマリー・アントワネット役のキルスティン・ダンスト。Photo: Andrew Durham
展覧会より、撮影の舞台裏を捉えた写真のコラージュ。Photo: Minako Norimatsu
マノロ・ブラニックによる靴は、アンティークのパーツを使ったカスタムメイド。 Photo: Minako Norimatsu
撮影には、ソフィアの人脈でファッション界の面々がエキストラ出演した。真ん中は、8月に亡くなり、多くの人がその死を悼んだ元ディオールのパブリック・リレーション・ディレクター、マチルド・ファヴィエ。Photo: Andrew Durham 展示の撮影 Minako Norimatsu
映画『マリー・アントワネット』では、数回にわたる食事シーンの演出にも膨大なリサーチとクリエイションが費やされた。本展ではそのいくつかのダミーを展示。Photo: Minako Norimatsu
「ベルばら」の思い出、ソフィアのロックな着想源
私自身、小さな頃は“ベルばら”こと漫画「ベルサイユのばら」(池田理代子著/集英社刊)の大ファンで、マリー・アントワネットの数々の逸話や、男装の麗人オスカルとアンドレ(二人ともフィクション)のロマンスはさておき、フェルゼン伯爵に憧れ、何度も読み返してはフランス革命前後の歴史を学んだものだ。もちろんパリに住み始めてほどなく訪ねたのは、ヴェルサイユ宮殿。そしてシュプールで仕事を始めてからは「ベルばら」が本誌と同じ集英社の刊行だと知って嬉しくなり、またもや一気に読み返した。一方では思春期の頃からポストパンクやオルタナティブロックに傾倒していたので、映画『マリー・アントワネット』を観るや、そのサウンドトラックに興奮してCDを購入したのも、思い出の一つ。その後は、撮影にパティスリーを提供したラデュレのスタッフと親しくなり、特にスイーツ好きではないもののパステルカラーのマカロンやアントルメのティータイムで、『マリー・アントワネット』の世界に浸り続けた。
展覧会ではそんなことをいちいち思い出しながら、展示品のディテールにズームイン。まずは映画公開時のポスターから。そういえばこのフォントと文字の並べ方は、セックス・ピストルズのデビューアルバムのジャケ写(グラフィック・デザインはジェイミー・リード)を思わせる。いわゆるIYKYK(If you know, you know)とでも言うべき“知る人ぞ知る”事実だ。ただひとつ「ベルばら」愛読者として映画公開当時に腑に落ちなかったのは、フェルゼン伯爵がブロンドではなくダークなヘアで、素敵な王子様というよりバッドガイ的な風貌だったこと。ポストパンクのミュージシャン、アダム・アントがイメージだったときいて、ソフィアの奇想天外な発想に納得したのを覚えている。そしてムードボードを見て、またびっくり。侍女がキルスティン・ダンストのフットケアをしているシーンの着想源だ。この写真に見られる黒と白の小間使いのユニフォーム、そしてフットケアは18世紀には存在しなかったから違和感があったものの、見慣れるうちに、当たり前の光景に思えていた。しかも、デジャヴュ感があった。そのシーンを示唆するように壁に貼られていたのは、なんとギイ・ブルダン撮影の、1977年のシャルル・ジョルダンの広告写真だったのだ。また、時代考証を意図的に無視した例としてもっとも顕著だったのは、コンバースのバスケットシューズ。映画の中ではお菓子やアクセサリーのスライドショー的なシーンで一瞬だけ登場したが、ソフィアのエスプリを語るには大事なアイテムだから、これが展示されているのは意味深い。
コンタックス35mmを手に例のフットケア・シーンでキルスティン・ダンストを撮るソフィア・コッポラ。Photo: ©︎Brigitte Lacombe
上のフットケアシーンの着想源が、このギイ・ブルダンによる1977年の広告写真。Photo: Guy Bourdin 展示の撮影:Minako Norimatsu
中央が、ジェイミー・ドーナン演じるフェルゼン伯のイメージとなった、アダム・アント Photo: Minako Norimatsu
映画の中ではマリー・アントワネットのワードローブの一部として一瞬登場し、物議を醸したコンバースのバスケットシューズ。 Photo: Minako Norimatsu
映画『マリー・アントワネット』をおさらいするには
ちなみに“20周年”に際しては、この展覧会と併せていくつかの“おさらい”要素を見てみたい。まずは展覧会カタログに先んじて出版された、アンドリュー・ダーハムによる舞台裏写真集「Making Marie-Antoinette」。またソフィアの亡き母エレノア・コッポラによる同名のドキュメンタリー・フィルムは、ストリーミング・プラットフォームのMUBIで11月6日に公開される(日本でも視聴可)。そしてリリースが待たれるのは、肝心の映画『マリー・アントワネット』の4Kリストア版(フランスでは11月25日に劇場公開。日本での公開は未定)。昨今“アニバーサリー”イベントは多々あるが、ここまで一貫性があり、意義深いものはなかなかない。ソフィア・フォーエバー!
20e Anniversary « MARIE ANTOINETTE » par SOFIA COPPOLA展は1月24日まで
Le Petit Trianon, Château de Versailles にて。
撮影中の、キルスティン・ダンスト Photo: Andrew Durham
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/