パリ・ファッション・ウィークが幕を閉じて間もない10月4週目、パリは今度はアートに湧いた。この前後に始まったアートとモードの数々の展覧会から、ベストがここに。

【ディオール】から【ジャックムス】まで。パリで今見たい、モードとデザインの展覧会
パリ・ファッション・ウィークが幕を閉じて間もない10月4週目、パリは今度はアートに湧いた。この前後に始まったアートとモードの数々の展覧会から、ベストがここに。
ジャックムスによる“神話”展
アートやデザインに造詣が深いジャックムスは、“神話”と名づけた展覧会をキュレーションした。展示品は自身のコレクションからの服にヴィンテージの家具や小物、そして古代ローマ・ギリシャ時代の彫刻、20世紀初頭に活躍したアリスティド・マイヨールによるネオクラッシックな彫刻を交えて。バスルーム、ベッドルーム、ランドリーなど日常のシーンを描いた演出は、パリ5区に位置するゴシック建築の元学校、コレージュ・デ・ベルナルダンのネフ(身廊)で展開された。そして現在は、ロケーションを二つに分けて続行中。一つは本展に古典彫刻を貸し出したギャルリー・シュネル、もう一つはマイヨールのモデルかつコレクターだった女性が設立し、今でも後継者が同じ名前で続けているギャラリー・ディナ・ヴィエルニーだ。
Mythe展は開催中。〜12月20日まで。
Galerie Chenel 3, quai Voltaire 75007 Paris
Galerie Dina Vierny 53, rue de Seine 75006 Paris
Mythe展、コレージュ・ドゥ・ベルナルダンでの展示。Photo : Minako Norimatsu
20世紀初頭のクチュリエ、ポール・ポワレの回顧展
20世紀初頭の上流社会と芸術の世界を彩ったクチュリエ、ポール・ポワレ。ベル・エポックから“黄金の1920年代”への過渡期、彼は服や小物のデザインだけでなく、インテリアや映画、バレエなどにも幅広く関わった。華やかなスペクタクルへの嗜好からたびたび催したのが、仮装パーティ。彼が参加者たちのコスチュームをデザインしただけでなく自らも華美に装って宴に興じたことは、数々の写真や動画、キース・ヴァン・ドンゲンによる肖像画などから顕著。本展では本人の作品のほか、彼に影響されたカール・ラガーフェルド、エルザ・スキャパレリ、クリスチャン・ディオール、ジョン・ガリアーノらの作品も展示。
Paul Poiret, Fashion Is A Feast 展は開催中。〜2026年1月11日まで。
Musée des Arts Décoratifs
107, rue de Rivoli 75001 Paris
ポール・ポワレの代表作。Photo : Minako Norimatsu
ギャラリーディオールとアライア財団、2つのディオール展。
一方ラ ギャラリー ディオールとアズディン・アライア財団は、ダブルエキシビションを開催する。故アズディン・アライアはオートクチュールを主とする衣服のコレクターとしても有名。彼のアーカイブズと蒐集品を管理する財団ではこれまで、クリストバル・バレンシガやティエリー・ミュグレーと言った各クチュリエの一連の作品とアライアの作品を並列して見せる展覧会を催してきた。今回、財団のキュレーターであるオリヴィエ・サイヤールがフォーカスしたのは、アライアが崇拝していたディオール。次期の展覧会では、クリスチャン・ディオールの作品30点がアライアのそれと肩を並べる予定だ。そしてラ ギャラリー ディオールでは、アライアのコレクションから、創設者はもとよりイヴ・サン=ローランやジョン・ガリアーノなど、ディオールの歴代クリエイティブ ディレクターの作品を加えた100点以上を展示する。
AZZEDINE ALAÏA’S DIOR COLLECTION展は、二か所で開催。
【La Galerie Dior】 11月20日〜2026年5月3日
11, rue François 1er 75008 Paris
【Fondation Azzedine Alaïa】 12月1日〜2026年5月3日
18, rue de la Verrerie 75004 Paris
Photo: Christian Dior, Carmen, evening gown © Laziz Hamani
フランシス・クルジャンの提案、香りとアートの密接な関係
ディオールの調香師としても知られるフランシス・クルジャンは、香りの世界における30年に渡る活動を、アート展として提案する。彼はこれまで、芳香が漂うイベント、香るオブジェ、ビジュアル・アーティストや音楽家とのコラボレーションなど、“ボトルに収められた香水”を越えた幅広い活動を行なってきた。それで、本展に名付けたタイトルは“目に見えないスカルプチャー、パルファン”。調香技術を学んだ地であるヴェルサイユへの愛着、一般美術と装飾美術史に関する深い教養、そして既成概念にとらわれないコンテンポラリーな視点から、ビジターの五感を刺激するイマーシブな展覧会が完成した。
Francis Kurkdjian / Perfume Sculpture of Invisible展は開催中。〜11月23日まで
Palais de Tokyo
13, Avenue du Président Wilson 75116 Paris
コンセプチュアルなアーティスト、ソフィ・カルとのコラボレーションによるThe Smell of Money Photo: Courtesy of Maison Francis Kurkdjian
Francis Kurkdjan展の最終段階は、彼のアトリエ兼オフィスを再現したスペース。Photo : Minako Norimatsu
アール・デコの100年を、装飾芸術美術館とLV DREAMで。
1925年のパリ万博は、リュクスとクリエーションにおけるルイ・ヴィトンの地位を揺るぎないものにした。この時期にメゾンを司っていたのは創始者の孫、ガストン-ルイ・ヴィトン。万博に先駆け、1912年にブームになったばかりのアール・デコ様式を取り入れたブティックをシャンゼリゼにオープンしたのも、彼だ。本店では当時のトランクからインテリア、ブラシや香水ボトルのセット、グラフィックアートまで、アーカイブスからの抜粋をキュレーション。1990年代末に始まったマーク・ジェイコブズによるプレタポルテ、果てはニコラ・ジェスキエール、ファレル・ウイリアムズまで、近代のクリエイティブ・ディレクターたちの仕事に見るアールデコのインスピレーションも網羅した、約300点が展示されている。
Louis Vuitton Art Déco展は開催中 (終了日未定)
LV Dream
26 Quai de la Mégisserie, 75001 Paris
1925年の万博を彷彿とさせる、ルイ・ヴィトン アール・デコ展のセノグラフィー。Photo: Courtesy of Louis Vuitton
アール・デコ様式を着想源とした、近年のルイ・ヴィトンのハンドバッグ。Photo: Minako Norimatsu
1910年代に芽を吹いたアール・デコ様式がパリ万博で頂点に達したのは、1925年。中世から近代までの家具やオブジェ、テーブルウェアの膨大な所蔵を誇る装飾芸術美術館では、パリ万博100周年を機に、アール・デコのアーカイブズを編集した。モードとジュエリー部門からも多くの関連ピースが並んでいるから、ジャンル同士の影響を見るのも面白い。特筆すべきは、この様式を象徴していたオリエント急行。当時のワゴンの内装やテーブルセッティングは、マキシム・ドンジャックによる現代版オリエント急行のデザインと交錯させた展示となっている。
One Hundred Years Of Art Decoは開催中。〜2026年5月3日まで。
Musée des Arts Décoratifs
107, rue de Rivoli 75001 Paris
アール・デコ・デザインの第一人者、アイリーン・グレイが南仏のヴィラE-1027に配していた、自作家具の数々。Photo : Minako Norimatsu
パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/