両国で行われる本場所は必ず1日は観戦しています。学生時代のアルバイトは国技館でのお土産配り。スポーツとしての側面はもとより、相撲は文化のひとつだと考えているので、取り組み前後の力士の所作にこそ学ぶことがあると思っています。大好きな力士は豊真将関。10年前から応援しています。
あの低い当たりはよかったぞとか重くていいねばり腰だったわねとか、実際のところそんな視点でも観るのですが、アスリートとしてではなく社会人として豊真将が教えてくれたのは、まったく別のことでした。それは勝っても負けても変わらぬ、相手に対する礼節や誠意のことです。
小細工を弄しない取り口はもちろん、勝ち名乗りを受けて懸賞金を受け取るときの手刀の美しさ。実際、ここがぞんざいな力士も多いのです。豊真将の場合はまず左に手を払い、相合傘を描くように左・右・中央の流れで貰い受ける。これは五穀の守り三神を敬う所作で、単に様式美としてではなく、その意義を噛み締めて行っている気概が丁寧な所作から伝わります。
そしてなによりも、負けてしまったあとの深いお辞儀に私はいつもはっとするのです。普段の生活で同じ立場になったとき、自分ならどう振る舞えるか。誰もが人生でぶつかる逆境に身を置いたとき、豊真将と同じように相手に敬意を持って接することができるのか。そんな戒めを自分の中に育てるきっかけを与えてくれたのが、豊真将という力士でした。
はぶてることなくおごることなく、ひたむきに土俵人生を送った豊真将が引退を表明したのが去年の1月。怪我に泣き、一度は十両の一番下まで陥落しながらも最後まで心を折らず、礼節を尽くすことの美しさを教えてくれた古武士のような力士の引退相撲は、来週1月30日に行われます。もう相撲観戦もやめようか。そう思った日もあったのですが、豊真将の志を引き継ぐ相撲人がまたきっと現れることを願いつつ、今年もまた国技館に足を運んでいます(編集IGARASHI)