ワン・ツー ハンドル

ギリギリの人生を送ってきました。最高潮にギリギリなのが朝です。布団が好きすぎて離れらない駄目人間の出社準備時間はほんのわずか。とりあえずその日に必要と思われるものを巨大バッグに全部盛りして、自宅を飛び出します。夜中、帰宅すると利き手の肘内側と肩には痣。バッグの重量を先日測ったところ6.5キロありました。

バッグの中身を見渡せば、移動中に目を通すつもりの書籍に書類、ジャンル別の取材ノートが次から次へと出てきます。未払いの請求書。新作の化粧品。少しひしゃげたおやつ用のもみじ饅頭とミニ羊羹に、緊急時のサバイバルナイフ。何日間もただ持ち続けた結果が、内出血となって中年の体に刻まれていきます。

駄目人間はすべての原因をカバンに押し付けることにしました。容量が大きいからいけない。なんでも放り込めるからいけない。必要なものを厳選して出掛ければ、バッグの中身同様、整然とした美しい人生が送れるのではないか。そんなときに出会ったのがOADのバッグです。

どうですこの整然たるポケット配置。携帯、交通パス、名刺にコイン、入れる場所が決まってるから迷わない。支払いも名刺交換も、酔拳のごとく流れるように行えます。サイズはA4より一回り小さいくらい。B5の書類は横向きに入ります。朝、その日のスケジュールを鑑みながら厳正なドラフト会議を行い、精鋭だけを選り抜いて持つようになりました。自ずと会議のための時間は必要になるので、以前よりも少し早起きに。となると前日の無駄な夜更かしが圧縮されるわけで、それはそれで心地よい。
なによりも素晴らしいのがハンドル設計。以前、ワンハンドルの革のワークバッグを使っていた際は、駅の改札で片手でカバンを抱え込み、白目でギーッッと声にならない叫びをあげていたのが習慣でした。見栄えはよいけれど、フラップの開閉がストレスフルなワンハンドルバッグの、全ての問題を払拭した秀逸デザインの秘密はこうです。

ツーハンドルの際、フラップは内側に折り畳みます。これでマチはたっぷり、外側にポケット配置のあるマガジントート型に返信。

すっきりしたワンハンドルにする際には、二つ目のハンドルは内側に折り畳んで、フラップを上から被せます。「忙しく働いていると、機能性を重視したいときと、エレガントに見せたいときとふたつあるでしょう? その両方をかなえたくて」とはデザイナーのシドニーの言葉。

このバッグを先週、トゥモローランド 丸の内店で入手してから改札で汗かきべそかいていたあの頃の自分と、やっと決別することができました。このバッグと一緒なら、こんな駄目人生でも希望の虹を抱いて歩いていける(ような気がしています)。

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エディターIGARASHI

おしゃれスナップ、モデル連載コラム、美容専門誌などを経て現職。
趣味は相撲観戦、SPURおやつ部員。

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