2つの「錯覚」を楽しむ器

おかげさまで連休中は、ずいぶんゆっくり過ごしました。好天にも恵まれて、心も体もカラッと天日干しされたような気分になりました。そんな洗いざらしの真っ白いシーツのような心境に呼応するかのごとく、昨日ふらっと立ち寄ったBEAMS JAPANの店内で目に飛び込んできたのが、この小さな豆皿でした。

5階のfennica STUDIOで見つけた、瀬古有美さんの作品です。

瀬古さんは、益子焼の代表作家で人間国宝の濱田庄司氏が開窯した濱田窯で5年間修行した後に渡英。陶芸家のバーナード・リーチ氏が濱田氏と共に創設した、セント・アイヴスにあるリーチ・ポタリーでも研鑽を積み、帰国後に都内で独立した陶芸家です。

ツルンとした白磁器の表面から浮き出るように、規則正しく並ぶ三角の鱗模様。しばらく眺めていると、だんだん凹んでいる影の方が浮き上がって見えてきたりして、ちょっとした目の錯覚に惑わされます。そんな中でふと気づくのは、ひとつひとつの三角が同じ形状ではないこと。角の丸みや線の歪みなど、ほんのわずかな差だけど少しずつ印象が違っていて、ひとつとして同じものはありません。

これは、すべてが丁寧に手彫りされている証。本来はシャープな幾何学模様のはずなのに、ポッテリとした器の造形も手伝って、実に繊細で柔らかな表情に仕上がっています。手仕事ならではの温もりによって生み出される、もうひとつの心地よい錯覚を感じた瞬間、これはもう買って帰るしかないと確信しました。

帰ってからもぼんやり眺めてみるのですが、本当に見ていて飽きません。とりあえず暑かったので、駅前で買った冷たいわらび餅をのせて食べることにしました。

美味しかったです。プルプルしてました。早くも夏を感じました。

ちょっと話は逸れましたが、白一色の世界に際立つ優しい立体模様は、この他にも数種類あります。様々な図柄の静かな躍動を見ていると、お気に入りの一枚と言わず全部そろえたくなる衝動に駆られます。そこをなんとか堪えて一枚だけにとどめた豆皿シリーズは 2,400円。BEAMS JAPAN5階の fennica STUDIO で販売中です。

夏の食卓に涼を運んでくれそうな、瀬古さんの白いうつわのお話でした。
うつわといえば、発売中のSPUR6月号「うつわ」特集も、どうぞお見逃しなきよう。

“エディターHAYASHI”

エディターHAYASHI

生粋の丸顔。あだ名は餅。長いイヤリングと長いベースソロが好物。長いものに巻かれるタイプなのかもしれません。

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