溝口さんのトルコキキョウ

先日、TVをつけるとオリンピックのやり投げ競技が放映されていました。10代のとき、私はスティーブ・バックリーというやり投げ選手が大好きで一生懸命応援していたのですが、甘酸っぱい思い出というものは物凄いスピードで巻き返されるもので、押入れの奥にあるはずの当時のスクラップなんかを掘り出そうとちょっとした大掃除になってしまったわけです。その流れで一時期、彼と競っていた溝口選手という日本人アスリートのことが脳裏をよぎりました。早速ググってみたところ、書評コラムでこの1冊を発見。

めちゃくちゃ読みごたえのある本です。当時はごつい日本人選手がいるのだなという印象くらいで、溝口選手の背景を深く知ろうとしなかった自分を恥じましたよね。興味深いのはその冷静な観察眼。「外国人選手はやたら身体だけは大きいが技術が大雑把でたいしたことはない―これは付け入る隙があると確信した」という信念のもと、猛烈な量の独自のトレーニングを実践し、世界の第一線で争うまでに自分の肉体を磨き上げる過程が凄まじい。「私のやり投げやそのトレーニング自体誰にも理解してもらえないので、他人にどうこう言われようが全く気にしない」というくだりも孤高でカッコいいけれど、超人的精神力とそこから培われた身体能力は別にしても、技術で補う、コンペティターのしないことをする、という着眼点にはアスリートではない私たち一般人にも学ぶヒントがあるように思うのです。

「一投に賭ける」(上原善広著/角川書店)には、和歌山でトルコキキョウを育てている農家としての現在の様子も綴られています。フィールドを花畑に場所を移した今でも、自ら考え、独自の方法を模索している姿勢は変わらず「教則本と同じことをしているだけではうまくいかないのは、花もやり投げも同じだ」ということばにぐっと来るサラリーマンの自分なのでした。

溝口さんのトルコキキョウ、見てみたいなあ。

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エディターIGARASHI

おしゃれスナップ、モデル連載コラム、美容専門誌などを経て現職。
趣味は相撲観戦、SPURおやつ部員。

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