ちょっと前になりますが、あれはゴールデンウィークのこと。久々の何も予定のないまとまったお休みは、時間もあるし、きちんとした朝ごはんを食べて、丁寧に淹れたコーヒーでも飲みたい。そんな気持ちで朝ごはんを用意していて気が付きました。私がいつも朝にコーヒーを飲むマグは、ロンドンで買ってきたリーチ・ポタリーのもの。そして、毎朝パンをのせているお皿は、料理研究家の長尾智子先生と小石原焼のコラボレーションである小石原ポタリーのスリップウェア。突然ふと気が付いて「運命!」と興奮してしまいました。
その理由は、読んだ人にだけわかるのですが、ちょうどGWに夢中で読んでいた、原田マハさんの小説『リーチ先生』(集英社)なのでした。この物語は、”アートフィクション”と銘打っている通り、戦前の日本へ渡って芸術を学びに来た陶芸家バーナード・リーチと、彼の弟子として奮闘したという設定の亀乃介ことカメちゃんとの、芸術を通した交流を描く冒険譚。最初に出てくるのがカメちゃんの息子なので、彼のストーリーかと思いきや、さすが原田先生。時間軸をぐっと巻き戻すことで独自の物語へと引き込んで、読者の心をつかみます。
ここから私の「運命」を説明するためにちょっとだけネタばれです。物語の中でリーチ先生は日本で出会った陶芸の技術をイギリスに持ち帰り、カメちゃんとともにセント・アイヴスに工房を作り、地元の職人と土を使って理想とするポタリーをつくりました。一方のカメちゃんは、イギリスから帰国後自分の陶芸をきわめる旅をし、福岡県の小石原へとたどりつき、ここで小石原焼きをつくったのです。カメちゃんは架空の登場人物ではありますが、彼がリーチ先生と作ったリーチ・ポタリー。そしてカメちゃんが自分だけの陶芸を見つけた小石原焼。日々の暮らしに寄り添う陶芸を追及した二人のその先の未来で、その器たちが『リーチ先生』を読んでいる私の朝の食卓で活躍しているということ。物語のその先が突然目の前に現れて、ふたりが再び出会ったような不思議な感動をおぼえました。
言わずもがなですが、バーナード・リーチは実在の人物です。彼が日本とイギリスの架け橋となったときの希望と冒険の軌跡は、日本人の私たちをじんわりと心温めてくれるものがあります。そして若かりし日の柳宗悦や濱田庄司も登場して、夜明け前の民藝運動の熱気が描かれているのも見どころ。民藝のお勉強、なんて堅苦しさは微塵も感じさせない原田マハさんらしいステーリーテリングを、ぜひ楽しんでみて欲しいです。
ファッションと占い担当。おしゃれは我慢、ができないので、着心地重視。休みの日は、大体インテリアのことを考えています。