池田修三さんの世界へ

木版画家の池田修三さんをご存知でしょうか?お恥ずかしながら私は知りませんでした、この夏まで。

出会いは本当に偶然です。松尾芭蕉で知られる”九十九島”や岩牡蠣に引き寄せられて、ドライブついでに訪れたのが秋田県にかほ市の象潟でした。象潟に着くや否やギラギラしながら訪れたのは「道の駅 象潟 ねむの丘」。そこで岩牡蠣をぺろりとたいらげたり、展望フロアから九十九島を眺めたり、足湯につかったりしてブラブラと”ザ・観光”をしていたところ、物産コーナーの脇に飾られていたポスターに気づきました。

↑中を開くと作品の展示場所と町の紹介がマッチングしています。こちらを片手に散策したため、少し折れ曲がっていますが……。

花火を見つめるというよりは、うっとりと感じ入るかのように目を閉じた女の子と「おかえり」の文言がまず目に入ります。花火と文字の淡いパステルの色彩と、女の子の閉じたまぶたを縁どる長いまつ毛。版画ならではのあたたかみある質感。なんとも言えないロマンティシズムを感じ、同じ絵柄のパンフレットを手に取りました。池田修三さんは1922年象潟町生まれ。2004年に亡くなるまで、作品をつくり続けた木版画作家だと知りました。
「池田修三木版画展 まちびと美術館」とありますが、特定の美術館で行われているのではありません。公会堂や資料館をはじめ、地元の飲食店などあちこちの”普通”の場所に作品があって、オリエンテーリングのように町を巡りながら鑑賞するというスタイル。学芸員は町に暮らす人たちです。
まずは象潟郷土資料館へ。ここでは「メルヘンの住人たち」というテーマのもと、ファンタジックな世界を描いた作品にフォーカス。とても小さい展示ですが、絵画ではなく版画を選んだ作家のこだわりや、独特の美しい色彩の秘密も知ることができます。
 次にメイン会場とされている「象潟公会堂」へ。昭和初期に建てられた白亜の建物はそれ自体がとても可愛い。淡いカラーパレットの作品にファンが多いようですが、ここではあえてモノクロームの木版画を展示。モディリアーニの作品を彷彿させるような首の長いシルエットや憂いを帯びた眼差しの女性の肖像などが飾られていました。

昭和9年に建てられた和と洋、レトロとモダンが融合した素敵な館。こちらの会場での作品の撮影は可。
残念ながら諸事情で時間が限られていたため、すぐ近くの「パティスリー白川」が最後のスポットとなりました。ここの代名詞である、鳥海山を模したビッグ・シュークリーム”山シュー”は残念ながら焼き上がり待ち。もちもちした生地にたっぷりクリームが入った”シェフトック”や南由利原産の木いちごを使った愛らしいスイーツをいただきながら、店内に飾られた”ハナコ”を鑑賞しました。

愛らしいパティスリーのムードともマッチする作品”ハナコ”。撮影する際にはお店の方にひとこと声をかけてください、とのこと。


資料館で購入した画集「センチメンタルの青い旗」もあわせ読み、池田さんが多くのひとに作品を買ってもらえるよう版画にこだわり、作品の価格もできるだけ抑えたこと、その結果作品が町の人々の手にゆきわたり、お祝いやプレゼントに贈り合ったり、民家やお土産店などにごくごく自然に飾られていることを知り、とてもしっくり来ました。記念館をどっかーんと作るのではなく、テーマを変えて少しずつ、町の中に溶け込むように展示をしていくスタイルに。この「おかえり」展は8月20日まで。仙台でも「ワンピース」展が8月22日まで行われています。

一過性の町おこしではない、真に心のこもった手作りの素敵なエキシビションです。
エディターNAMIKIプロフィール画像
エディターNAMIKI

ジュエリー&ウォッチ担当。きらめくモノとフィギュアスケート観戦に元気をもらっています。永遠にミーハーです。

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