2017.11.13

予約の取れない美術館

今年の秋、ふたつの予約制美術館がオープンしたことをご存知ですか?

ひとつは、東京都・早稲田にできた「草間彌生美術館」。前衛芸術家・草間彌生さんの作品を収蔵する美術館であると同時に、講演会などを行い、広く現代アートのプラットホームになる場所を目指しています。2013年のSPUR7月号で草間さんにインタビューした際に、「いつでも私の作品を見てもらえる場所、作品を通してメッセージを発信できる場所を作りたい」とおっしゃっていたのですが、それがまさに実現。

屋上ギャラリーには、新作の《Starry Pumpkin》が。時間とともに表情を変える、キラキラと輝くモザイクでできている

開館記念展は、『創造は孤高の営みだ、愛こそはまさに芸術への近づき』。今年の春に国立新美術館でもお披露目された《わが永遠の魂》シリーズのほか、この美術館のために作られた新作のインスタレーション《無限の彼方へかぼちゃは愛を叫んでゆく》も。全4フロアあり、それぞれに見どころたっぷりです。残念ながら、早くも年内はすでに予約でいっぱい(!)だそうですが、来年のチケット情報をぜひウェブサイトでチェックしてください。

新作の《無限の彼方へかぼちゃは愛を叫んでゆく》。3分という限られた時間ですが、閉じられたミラールームのなかで作品と対峙できる、貴重な体験ができます
新作の《無限の彼方へかぼちゃは愛を叫んでゆく》。3分という限られた時間ですが、閉じられたミラールームのなかで作品と対峙できるのは、とても特別な体験です

もうひとつは、神奈川県・小田原の「小田原文化財団 江之浦測候所」。現代美術作家・杉本博司さんが、「生まれて最初に記憶している風景であり、太古の記憶に通じる場所」と語る相模湾を望む、箱根外輪山の中腹に建てられた広大な文化施設です。

記者発表会の時に、
記者発表会の際に、光学硝子舞台で挨拶をする杉本博司さん。舞台の左に伸びる赤銅色の隧道が《冬至光遥拝隧道》。トンネルのように中を通ることができ、暗い道を通った先に相模湾の光を見るのは、まるで胎内めぐりのような体験

“測候所”という名前がポイントで、冬至の日の出の軸線に合わせてつくられた約70メートルの隧道(《冬至光遥拝隧道》)を中心に、それに沿うようにこの施設でメインとなる《光学硝子舞台と古代ローマ円形劇場写し観客席》が設置され、さらには隧道と対を成すように《夏至光遥拝100メートルギャラリー》がある、というようにさながら天文観測所のように建物が配置されています。「悠久の昔、古代人が意識を持ってまずした事は、天空のうちにある自身の場を確認する作業であった。そしてそれがアートの起源でもあった。」という杉本さんの言葉通り、いるだけで自然の大きさや神秘性を感じる場所になっているんです。

施設内には、杉本さんが生涯をかけて蒐集した古美術を惜しみなく展示。左は開館の直前に購入、設置したという法隆寺若草伽藍の礎石。右は茶室「雨聴天」の前に設置された石造鳥居
左は開館の直前に購入、設置したという法隆寺若草伽藍の礎石。右は茶室「雨聴天」の前に設置された石造鳥居

施設内には、杉本さんが生涯をかけて蒐集しているという古美術が自然に溶け込むように設置されているほか、《夏至光遥拝100メートルギャラリー》では、杉本さんの代表作《海景》シリーズを展示。実際の海を眺めながら《海景》を観ていると、どこからが現実で、どこまでがアートなのか、分からなくなるような、なんとも不思議で心地よい時間を過ごせます。こちらも予約はウェブサイトから。

予約制のひと味変わった美術館で、ゆったりとアートを楽しむ体験をぜひ!

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エディターMORITA

物心がついた時からパンツ派。今、一番興味があるのは、どうやったら居心地のよい部屋で暮らせるのか。美容、アート担当です。

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