ミラノ出張に行った際に最も印象に残ったことは、グッチ人気の過熱です。それはもはや「カルト的」と言ってもいいほど。ブティックに行ったときにそれを最も感じました。妖精みたいな風貌のパリジャン、英国紳士風のおじいさま、ストリートな身なりの青年、かっこいいスーツの男性、ありとあらゆる風貌の人々で賑わっていて、とあるマダムはふわふわの飼い犬を連れてきているし(いいの?)、とあるカップルは店内でキスしているし、なんていうかもうカオスなんです。で、それをみて私は思いました。アレッサンドロ・ミケーレが毎シーズンのランウェイと毎回の広告ヴィジュアルで描く「どこかにありそうなグッチ王国という理想郷、そしてそこに暮らす人々」は、もはや夢ではなく現実なんだ。私がミラノの店で見た光景は、間違いなくそういうものでした。人種も、ジェンダーも、年齢も、ありとあらゆる垣根を超えた人々がただグッチのコレクションを求めるためだけに集っていたんです。ちょうどその頃、グッチがヒエロニムス・ボスの絵画《快楽の園》に着想を得たと思しきヴィジュアルを掲げていて、まさにそれがパラレルワールドで起きているかのようでした。
そんな光景を眼前にして、物欲がわかないわけないんです。手に取ったのは出張前からなんとなく目をつけていたこちら。新シリーズ「オフィディア」より、スエードのウエストポーチです。
まるで古着店で買ったようなくたっと感がたまりません。実際何度も「それ、ヴィンテージ?」と聞かれました。そう言われるたびに、なんか嬉しい。ウエストポーチの、両手と上半身が空く解放感もたまりません。
けれどこのウエストポーチ、良くも悪くも「Guccy」ですから、合わせる服にはなかなか慎重になる必要があります。感性を試されるというか、ミケーレ先生の世界観に全てを染め上げられてしまう威力があるから、それに負けないようにきちんと考えてスタイリングせねばなりません。そしてGucci王国の住人になるには、さも「生まれた時からこれを着ている風」に見えるまで、体に馴染ませねばなりません。そういう意味で入国審査は厳しいのかもしれません。だからこそ憧れる楽園、Gucci王国。その王国では、日々の些細なことさえ全てが、キラキラ・ファンタジー。ショーを見るたび、広告ビジュアルを眺めるたび、そして身につけるたびに、ワクワク、ドキドキするんです。これぞ、ファッションの醍醐味だなぁと心から思います。
ファッション、ビューティ担当。音楽担当になったので耳を鍛えてます。好きなものは、色石、茄子、牧歌的な風景。