有名になる前のバスキアも見逃せない!

ジャン=ミシェル・バスキアがスター・アーティストになる前の黎明期を描いて……というとチョット地味な話なんじゃないか、と思ったら大間違い。ドキュメンタリー「バスキア、10代最後のとき」は、神出鬼没の彼やその作品さながら、スピーディに映像が切り替わり次から次へと未知のエピソードが現れる、刺激的な映画です。

グラフィティ、ヒップホップ、パンク、実験的アート……そこここで「新しい表現を生み出そう」と野心に満ちたムーブメントが。当事者たちの語りでリアルな熱量とともに伝わってきて面白いのと同時に、「勉強」にもなる。映画「ワイルド・スタイル」でヒップホップの洗礼を受けた私としては、リー・キュノネスやファブ・5・フレディとバスキアが繋がっていた、というだけで興奮(しかもファブから教わったのはヒップホップでなくビ・バップというのがまた洒落ている……)。ヴィンセント・ギャロもいたバンド〝グレイ〟でバスキアが咄嗟に拾ってきたモノで何したとか、ジム・ジャームッシュの妻サラ(この映画を監督した張本人)に出した可愛らしいちょっかいとか、小さなエピソードもいちいち楽しい。そして特に多くを語るわけではないけれど、バスキアの表情やムードを見ていると、「一緒にいたら絶対好きになっちゃうな」と思わせるチャームに溢れています。
一番インパクトがあったのは、70年代末のニューヨークの荒廃っぷり。財政が崩壊して、裕福な白人は郊外へ。無法地帯の街では死と隣り合わせのサバイバル。ボロボロのNYを見ていたら一瞬、コレ世界大戦前の話でしたっけ? と脳内の時系列がめちゃくちゃになるくらい。知りませんでした。そんなところから、いや、そんな環境だからエキサイティングなカルチャーが生まれたんですね。昨今、未来に漠然とした不安を抱くことも多いですが、「たとえどんな世の中になったとしても、ワクワクすることは起こる」と元気づけられました。

発売中のSPUR2月号では、そんなバスキアにオマージュを捧げる企画「わたしはバスキア」を展開しています。彼にまつわるエピソードをもとに組み立てられたファッションストーリーを映画のおともにどうぞ。
ちなみに、バスキアのガールフレンドだったアレクシス・アドラーが今では世界的な生物学者、というのもクールですよね。

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エディターNAMIKI

ジュエリー&ウォッチ担当。きらめくモノとフィギュアスケート観戦に元気をもらっています。永遠にミーハーです。

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