YanYanの、誠実なニットウェア

YanYan(ヤンヤン)というニットウェアのブランドをご存知でしょうか? 私が知ったのはほんの数ヶ月前のこと。はじめに見かけたのはInstagramだった気がします。どこか懐かしいけれどモダンな空気感がまさに今の気分でひとめ惚れ。それからSPURでもアイテムを掲載させてもらったりほかのメディアでも見かける機会がどんどん増えてきて「みんな気になってるんだな!!!」と注目度の高さを勝手に感じていたんです。そんな矢先にデザイナーのふたりが来日すると聞きつけ、話したいです!と突撃。某日、rag&boneでディレクターを務めたPhyllis Chanと、香港でテキスタイルやグラフィックをメインにデザイナーとしてキャリアを積んだSuzzie Chungのふたりに時間をもらうことができました。
(右)フィリス(左)スージー
(右)フィリス(左)スージー

サステイナブルって言いたくない

ブランドを設立したのは2019年3月。「3、4年前に自分のブランドを始めようと考え始めたのだけど、時間もお金も、労力もなくて。香港に戻って、デザイナーをしていたスージーとスタートしたのが3月でした」とフィリス。もともと高校の同級生で幼馴染だったふたり。今では同じ志のもと、ともにブランドを手がけています。アイテムの製作にあたっては商品計画やコンセプト、ひとつの色選びに至るまでも互いに相談しながら進めている。「違う視点から考えることで、新たな発見があるんです」とスージー。
YanYanの服作りは、糸から始まります。それも、現在オフィスをシェアしている中国で最高級のクオリティのニット工場で余った高級ヤーンたち。この工場で生産しているのは誰もが知っているラグジュアリーブランドばかり。そういった大きなブランドの場合、最初にまとまった注文数を決めて工場にオーダーすることがほとんど。たとえば工場は2000ユニットを受注したら、たとえば予備として50~100着つくれるくらい糸を多く買い付けるため、結果的に使い道のなくなったヤーンが毎シーズン少量ずつ発生することになるのです。そして、生産したその2000ユニットも市場ですべて売り切れるかは分からない。「ブランドを始める当初はチャイニーズドレスを作るつもりでいたんです。セーターがいいなと思っていたけれど、香港は暑いから。日本には着物があって、カジュアルからフォーマルまでバリエーションがあるでしょう? 韓国にもハンボッ(チマチョゴリを含んだ韓服。伝統衣装)がある。でも一般的なチャイナ服のイメージはなんだかチープだし、イブニングガウンのように妙齢の女性が着るあまり広がりのないアイテムとなっているように思っていて。“民族衣装”は私たちにとって決してクールじゃなかった。もともと前職でつながりがあった中国の工場へ訪れたとき、少量の余った糸や古い糸がたくさんあると知ったんです。自分の手もとにも、すでに日本やイタリア製のデッドストックの糸がたくさんありました。何千枚分はないけれど、10着、15着くらいなら仕立てられる量。とても高品質なのにもったいないなと思い『ニットウェアのブランドをやってみる?』ということに。だからきっかけはこれ、というよりはすべてが同時進行で始まった感じなんです」(フィリス)。

2020年春夏のルック。このシーズンは、手工業や生地店が多くある香港の下町の「サムソイポー」からインスパイアされた(日本の浅草的なところだそう!)
実際に服に触れてみると、そのなめらかさと心地よさは格別で「これはいい素材!」と瞬時に理解できます。もちろん、フィリスとスージーが長年かけて築いた工場との信頼関係があってこそできるのですが「あまった高品質な糸を買い取って、長く着られる服をつくる」ことは、今の時代にひとつ正しい選択肢を提示しています。「比較的価格帯の安いブランドでは、よくオーガニックラインを作っているけれど、品質があまり良くなくて。長く着られないと結局はごみになってしまって、意味がないんです。だから、私たちは品質のいいものを作ることに集中したい」とスージー。フィリスも「サステイナブルやリサイクルというワードが一過性のトレンドや“ギミック”にならないことがとても大事だと思う。新しいものをこれ以上作るべきじゃない、と思っていても大きな企業としては生み出さざるを得ない。工場がいつも新しい生地見本にあふれていることが、私はショックで。それは企業から『ピンクが欲しいけど、このピンクじゃない。新しくて、誰も見たことのないピンクなんだ!』と求められるから。そうではなく、今あるものでクリエーションはできるんです」と語ります。
そして作られたものの背景を理解することは、消費者にも必要なこと。「私たちは作っているものにきちんと責任を持ちたい。自分たちのプロダクトを理解しているからこそ、正しく伝える義務があるから。そして買う立場としては、食べ物でも服でも『これはどこから?どうやって?』と知ること、疑問を持つことが本当に大事」(フィリス)。たとえばリサイクルと一口にいっても、製造前の工程がエコなのか、手もとに渡ったあとに再生できる素材なのか。スーパーでも“オーガニック”という言葉だけを鵜呑みにしない、とか。自分自身の「目」を磨く必要もありますね。

肌にフィットするニットワンピースは、中央の切り替えがモード
肌にフィットするニットワンピースは、中央の切り替えがモード

ファッションを純粋に楽しむワードローブ

そんな彼女たちの理にかなった製作背景を抜きにしても、YanYanのユニークでプレイフルなデザインは、シンプルにかわいい! 糸が少しずつしかないことも逆手に取り複数の素材や色をミックス&マッチ。見ていて高揚感が湧き上がるルックスなんです。インスピレーションは“OLD LADY”。「ちょっと奇妙でファニー。彼女たちは自分のためのドレスアップを楽しんでいますよね。それでいてとっても心地よいスタイル」とスージー。「着たときにハッピーになることが大事! 細く見えるからとかトレンドカラーだから、ではなくみんな自分自身のために装うことを考え始めましたよね。ただ好きだから、という理由が一番大事」とフィリスも続けました。象徴的なアイテムといえば「私たちは地味だと思っていたから、まさかこんなに人気が出ると思わなかった!」とふたりが驚いた、花のビーズをあしらったニット。私もYanYanをはじめて知ったのは、この服でした。

前のシーズンから登場し、春夏もベストやポロシャツ型、バッグなどで登場
デビューコレクションから登場し、春夏もベストやポロシャツ型、バッグなどで登場

「デビューコレクションで出して、飛ぶように売り切れたんです。糸は、スコットランドの環境に配慮した高品質なもの。普通に買ったらすごく高かったと思う(笑)。花の飾りは、昔ながらの問屋のようなショップで買ったデコレーション・ビーズから作りました」。右のベストのパイナップルノットは、カンフージャケットなど中国の伝統服から。「クールなチャイナ服を作りたい」という初志の通り、現代的なニットウェアとして昇華されています。それにしてもビーズワークって、なんでこんなにときめいてしまうんでしょうね……。そしてスージーがお気に入りのピースはこちら。

チャーミングな雲が遊び心たっぷり! 3色展開
チャーミングな雲が遊び心たっぷり! 3色展開。後ろに写っているのは親交のあるニューヨークのブランド「Susan Alexandra(スーザンアレキサンドラ)」のビーズバッグ。展示会ではニットとのスタイリングも展示

「『孫悟空』の筋斗雲がモチーフになっているの。チャイニーズなデザインに、ハワイアンTシャツのようなトロピカルな空気感を組み合わせたら可愛いよね、と」(スージー)。色鮮やかなレインボークラウドはヴィンテージライクな佇まいも感じさせます。といいつつも、ただ“古着っぽい”テンションに陥らないのはふたりの色彩感覚がとてもモダンだから。このカーディガンもブルーやレッドの配色がなんとも絶妙。伝統的なモチーフを織り交ぜながら、たとえばネオンカラーを随所に効かせることでぐっとコンテンポラリーに。他にも、太極拳をするときに履くようなゆったりしたニットパンツや、なんと19年前(!)の糸を使用したトップスなど、ストーリーを知れば知るほど面白いアイテムが揃います。

クールなすべての人たちのためのニットウェア。その裏側には押し付けるわけではなく、スージーとフィリスの哲学がそっと流れていて、理解が深まるほど好きになる。着る立場としても、新しいものが生まれる背景を知ってより深く愛情を持って大事にしたいな、と改めて思いました。YanYanのニットウェアはオンラインショップと都内セレクトショップでお求めになれます、ぜひ実物を触ってみてください~!

エディターSAKURABAプロフィール画像
エディターSAKURABA

好きな服は、タートルネックのニットと極太パンツ。いつも厚底靴で身長をごまかしています。

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