軽妙なエッセイが教えてくれる、人生のかたち

告白します。社会人になりたての駆け抜けた数年間は、腰を据えた読書がまるっきりできなくなっていました。毎晩本を開くものの秒速で瞼が落ちたり、ハッと我に帰るとスマホを触っていたり。頑張っても活字を追えないのが悩みでした。体力的な面もありますが、集中力を浅く分散させておくタイプの、編集者的なマルチワークの弊害のひとつかもしれません。とにかく気が散って仕方ないわけです。そんな私に変化が訪れたのは昨年以降。リモートワークを始めて時間の余裕ができたこともあって、また少しずつ本の世界にじっくり浸る習慣が戻ってきた気がします。今何よりの至福は、ひとりでファミレスに読書をしに出かける時間(サイゼリヤさん、大変お世話になっています)。テレビ番組の録画を倍速を流し見る1時間より、文字を凝視する1時間の贅沢さはどんなひとときより尊く、この「私の時間」を守れるように生きていけたらいいなあ……などと考えています。そうしてノンフィクションから小説、エッセイまで興味のあるトピックの作品をちまちま読み進める日々です。



三体Ⅱ 黒暗森林 下』がなかなか読み終わらないのは一旦置いておき、最近ぐっときたのはこちらのエッセイ『女ふたり、暮らしています』(CCCメディアハウス)。『W Korea』のファッションエディターだったファン・ソヌさんと、コピーライター、またラジオ番組などでも活躍するキム・ハナさんの共同生活を描いたもの。40歳を目前に二人でマンションを購入し、4匹の猫と暮らしているのです。私自身も現在友人とルームシェアをしているので、基本「分かる!!分かる!」と感覚を言語化してもらった喜びで頷きすぎて首がもげそうに。ともに釜山出身で気の合う二人は、それでも性格や性質はほぼ真逆。違うことを楽しみ、お互いの世界をちょっとずつ拡張していくことは、他人と暮らす醍醐味だなあと思います。私もある日突然友人に「一緒に住まない?」と持ちかけた側なので、キム・ハナさんがファン・ソヌさんを熱烈にくどき落とした気持ちも分かります(私は気軽な賃貸ですが、こちらのおふたりはしっかり住宅担保ローンを組んで家を買っているため、事情は全然違いますが)。双方の視点からともに描かれるのですが、ちょっとした価値観の違いを照らし合わせられるのも面白いし、清水知佐子さんによる翻訳の妙か、軽快でウィットに富んだ語り口は毎度悩んでしまうこのコラムの書き方の参考にもなります(笑)。

先の見えない状況にあって、これから自分の人生はどうなるんだろう?と頭をよぎる瞬間も少なくない。けれど、この本で描かれる“分子家族”の形は、自ら心地よいスタイルを組み立てていく柔軟性と勇気を与えてくれます。友人に教えてもらって以来毎週目一杯笑ったり泣いたりしているジェーン・スーさんと堀井美香さんのPodcast「OVER THE SUN」とも共通するのは、年を重ねて噛み締める人生の奥深さと面白み。多くの経験を経ることは進化というより深化と言った方がしっくりくるし、その基盤となる生活の大切さよ。ちなみに、この本の半ばには可愛い猫たちや、部屋のしつらえが分かる写真も挿入されていて、それがまた気張ってなくておしゃれなんです。現在発売中のSPUR4月号の特集「最先端インテリアのベストアンサー! 서울(ソウル)のポジティブ・ステイホーム」で紹介しているショップやルポがこれもまた素敵なため、インテリア熱が高まっていることも書き添えておきます(笑)。

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エディターSAKURABA

好きな服は、タートルネックのニットと極太パンツ。いつも厚底靴で身長をごまかしています。

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