いちばん好きな水に、輪郭を付けるとこうなります。
わたくし、彼の鼻に惚れ込んでます。圧倒的に信頼しています。
丁寧にアイロンがかかった真っ白なシャツを細身のパンツにきゅっとインして現れるんですよ。普段の生活でも細部まで自分を律しているんだろうな、ということが遠目でも分かる佇まいにいつも見惚れてしまうのが、調香師フランシス・クルジャンという人物です。
取材というかたちで何回か本人に会う機会に恵まれました。身のこなしに無駄がなく、肘まで袖をまくる仕草や、まくったシャツのシワまでエレガント。それでいて、力みはまったくないんです。計算してたくし上げているに違いないわ……と嫉妬するくらいカッコいい。元はクラシックバレエダンサーだったという背景にも、心底納得してしまうんですよね。
クルジャンと言えば、アクア ユニヴェルサリス オードトワレを思い浮かべる人が多いはず。誕生はフランスでの2009年、素肌と洗い立てのリネンをつなぐ水というコンセプト自体が素敵すぎて、その枕詞だけで単純な私はボトルに飛びついたものです。透明感あふれるムスキーフローラルなアクアは、何かを凌駕したり、別物に染め上げたりというよりも、中心にはいつも「人」があって、少しだけ心を自由にしてくれる。ほんのちょっと自信をくれる。気持ちのギアをニュートラルに入れ替える香りとして、10年を超えて私の香りのワードローブの定番となりました。
この5月、「アクア」シリーズに新しくコローニュ フォルテ シリーズが仲間入りします。コロンの爽やかさがありながら、ロングラスティング。カテゴリーとしてはオードパルファムに属し、濃度で測るなら、元祖オードトワレと2011年発売のフォルテの中間。SPURおやつ部員の知見から、ミルクレープで例えるのなら10枚か15枚かという差でしょうか。オードトワレよりも、ほどよくしっかり香りが残ります。
アクア ユニヴェルサリスを風景で表現するのなら、閉め切っていた部屋に、窓を開け放して外気を取り込む瞬間。在宅勤務で行き詰ったとき、心が袋小路にはまったときに心身をリセットする作用は私にとっては絶大で、このところ気づけば手に透明なボトルを握っています。ちょっとしたマイブームが、好きな本にワンプッシュすること。読み返したときに、嗅覚ととともに読後の記憶が立ち上る「時間差感情波動」がクセになって、大好きな江國さんの一冊も今はすっかりアクア ユニヴェルサリスの香りになりました。
以前、クルジャン氏はこう語っていました。「ファッションもそうですが、何事もひとつの潮流に流される時代ではありません。自由という価値観は尊重されるべきだし、全てに無限の可能性があるのだから」と。新しい日常が始まったこの1年、フレグランスとの付き合い方がすっかり変わりました。どう見られたいのか、どんな人だと思われたいのか。今は、そういうことじゃないんです。なりたい人になるための手段として、フレグランスの力を借りるようになりました。心身をフラットに戻して、思考の柔軟性を取り返すきっかけも作ってくれる「コローニュ フォルテ」なら、最強の相棒です。
新しい「水」と一緒に、新しいルーティンがまた生まれそうな予感がしています。
おしゃれスナップ、モデル連載コラム、美容専門誌などを経て現職。
趣味は相撲観戦、SPURおやつ部員。