「無音」な日々に届いた音楽

脳のオブジェを持ったデイヴィッド・バーンが、舞台上でひとり椅子に腰掛けているところへ、お馴染みのビート。のっけから心が高揚します。映画「アメリカン・ユートピア」冒頭の一幕。80年代にストップ・メイキング・センスで一世を風靡したデイヴィッド・バーンのブロードウェイ・ショーをスパイク・リーが撮るって言うんですから、興味をそそられたんです。

『アメリカン・ユートピア』全国公開中!
©️2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED ユニバーサル映画 配給:パルコ

ここで一旦個人的な話になります。音楽は割と好きだったのですが、15年前くらいにパッタリ聴かなくなりました。何度か「音楽リハビリ」的なものを繰り返しましたが、定着せず。手持ちのCDなどは全てPCに読み込み、フィジカルな音源は全て手放してしまいましたが、PCや携帯で聴く音楽はなぜか自分の中を素通りして。今やノリ気のしない作業をする時に聴くK-POPくらいになりました(K-POPも素敵なので、それだけで事足りるというのもあるのですが)。で、長らく毎日「無音」でした。聴きたい音楽がわからなくなってしまったのです。

そんな私ですが、「アメリカン・ユートピア」に出会い、思わず水野晴郎さんが降臨。「いやぁ、音楽って本当にいいもんですね〜」と。というか、還暦をとっくに超えたデイヴィッド・バーン、どうなってるの!? センスもパフォーマンスも衰え知らず。107分全編に渡って声が通り、動きも乱れない。アムロちゃんも驚くノンストップパフォーマンスです。

彼と舞台を共にするのは、圧倒的な技量と確立されたスタイルを持つプレイヤー11人。揃いのミディアムグレーのスーツ(今回はダボダボじゃない)に裸足で躍動します。フランス、ブラジル、アメリカなどから集まった精鋭は、ダイバーシティが生み出すパワーを見せつける。

ドーパミンが噴出する音楽に、シアトリカルな舞台と演出。そこにニンゲンのつながりという軸が通り、社会的なメッセージが加わる。ユーモアを交えたMCを研ぎ澄まされたタイミングでパフォーマンスに繋げながら、選挙やBLMにまつわる話をぶち込む様は圧巻です。

ジャネル・モネイがウーマンズ・マーチで披露した曲を、白人のそれなりの年齢の男性である自分が歌っていいか許可を取ったそうです。「変革も大事だけど、内なる自分のアップデートをしなくては」というデイヴィッド・バーンの真摯な言葉に、静かに共感。往年の洋楽ファンに止まらず、どんな世代にも響く映画ではないでしょうか。ピュアな音楽の力と人間の底力、デイヴィッド・バーンの心意気。

自転車で軽やかに去っていくデイヴィッド・バーンも好きです。

ライブにもコンサートにも行けないコロナ禍に届けられた映画ですが、いや、このパフォーマンス、生で見たい。映画の中の観客のように、歓びを感じながらともに歌い踊りたいです。

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エディターNAMIKI

ジュエリー&ウォッチ担当。きらめくモノとフィギュアスケート観戦に元気をもらっています。永遠にミーハーです。

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