【エルメス力】(えるめすりょく)って何だ?

私が今、エルメスで狙っているのはこちらです。何だと思いますか? 作品のデザインを手掛けたアーティストの河原シンスケさんがヒントを一つ、「コーヒーカップじゃないよ」と。

「消しゴム、クリップ。ジュエリーでもいいし。何を入れてもいい」。

ブルーの陶器に愛らしいフルーツをかたどった蓋。カップは“Bleus d‘Ailleurs(ブルー ダイユール)”というテーブルウェア・コレクションから。サンプルだったり、目に見えない小さな傷で検品を通らなかったものです。リンゴやチェリーは、レザーの端切れから形づくっています。ファッショナブルな帽子のようですね。

このいわばオブジェのような“小物入れ”は、petit h(プティ アッシュ)の一品。エルメスの各メチエで使用しなかった素材を、素敵なアイディアとクラフツマンシップでユニークな作品に仕立て上げたコレクションです。”さかさまのクリエーション”と言われているのは、素材からスタートするがゆえ。普通、商品ありきで素材が集められますが、プティ アッシュはその逆。

Bleus d‘Ailleurs エルメス プティ アッシュ petit h

この製品は、パリ郊外・パンタンにあるプティ アッシュの工房で誕生。実は私、3月にこちらで取材という名の「大人の社会科見学」をしてきたのです! 革やシルクの端切れやら、欠けた磁器、誰かのスケッチ、作りかけの何かがあちこちに。ところどころ整然と、またはごっちゃに置かれている。宝箱をひっくり返したような空間です。そして驚くことに、おもちゃのように無造作に転がっている「かけら」の一つ一つが、全て美しい。これには感動しました。隅々まで、エルメスの審美眼が光っている! 

河原シンスケさんを始めエルメスとゆかりのあるクリエイターたちは、工房を好きに歩き回り、閃くままに何かを手に取ったり、組み合わせてみたり。職人と意見交換しながら作品を作り上げていきます。子供みたいに無邪気なアイディアを、類まれな手仕事が具現化する。もう無敵です。

エルメス プティ アッシュ petit h
磁器、サンルイのクリスタル、ピュイフォルカの銀器などが「素材」としてストックされたカーヴ。「例えば、割れたカップはいっそのこと半分にカットして使おう、なんてアイディアも湧いてきます」と河原シンスケさん
エルメス プティ アッシュ petit h
カレなどのシルクが集積された場所。右の椅子は、端切れを巻き付けた試作。未完の作品も、アイディアのソースとなる
エルメス プティ アッシュ petit h
自然光がさんさんと入る1階には職人たちの作業スペースが。ここにも、様々な素材が仕分けされ、収納されている
エルメス プティ アッシュ petit h
”Bleus d'Ailleurs"を使った試作品

エルメスがブランドの王者であることは、誰しもが認めるところ。

それじゃあ「エルメス力(えるめすりょく)」って、何でしょうか。大前提として、高品質で美しいこと。それでいて、お茶目なところ。社会科見学中、私は雷に打たれたようにハラオチしました。遊びごころこそ、最も貴い。王者だけが知っている真実です。ヒトは、突き抜けたユーモアを手に入れたいから、エルメスが欲しくなるんですね。

さて、楽しい楽しい「大人の社会科見学」のチャンスです! 4月29日から5月18日まで、プティ アッシュが大阪の中之島美術館にやってきます。河原シンスケさんがセノグラフィーを手掛ける会場は必見です。参加には予約が必要で、第一回目の申し込みは4月14日、第二回目は4月28日にスタート。エルメスのホームページにアクセスしてください。いつもすぐに埋まってしまうので、全力で取りに行ってくださいね!!

追伸:4月21日発売のSPUR6月号には、プティ アッシュのクリエイティブ・ディレクター、ゴドフロワ・ドゥ・ヴィリユーさんと、河原シンスケさんの愉快な対談記事が。エルメスをまとった卯年の井上真央さんが、河原シンスケさんが描く”うさぎ”と戯れるスペシャルカバーが目印です! 

エルメス プティ アッシュ petit h 猫 ネコ
こちらは大阪・中之島のイベントに登場予定の作品
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