画期的なことは【シャネル】が全てやっていた

私の最も大好きなミュージアムの一つ、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)。ウィリアム・モリスらがデザインした素敵なティールームでのお茶は後の楽しみにして、ぜひ見ていただきたいのが「Gabrielle Chanel,Fashion Manifesto」展です。ドレスやジュエリー、バレエリュスの舞台のためにデザインした衣装からシャネル No.5のボトルなどアイコニックな作品を200点以上紹介しています。パリのガリエラ宮パリ市立モード美術館から始まり、東京にもやってきた展示をV&A独自の視点で再編成。ガブリエル シャネルのデザイン哲学を解き明かす展覧会です。

メンズのユニフォームにアイディアを得て

シャネル CHANEL
1916年春夏コレクションから、シルクジャージーのマリニエール・ブラウス

展示の冒頭を飾るのは、現存するシャネルの服の中で最も初期の作品のひとつであるセーラーカラーのブラウス。本展の目玉の一つです。下着用の生地であったジャージー。今でこそランジェリーの素材をデザインに取り入れることは珍しくありませんが、こちらは1916年に作られたもの! 漁師のユニフォームにインスパイアされたデザインは、ワークスタイルの先駆けとも言える。アイディアソースとして当時は斬新だったはずだし、無骨な男性の服がここまで可愛くエレガントに! という点でも周囲を唸らせたに違いありません。

国境を越えてビジネスを展開

シャネル CHANEL
1929年、こちらのテキスタイルを登録

V&Aならではの、イギリスにまつわる展示にも注目を。こちらは英国で意匠登録した、可愛らしいプリントのテキスタイル。ちなみにシャネルは、英国を拠点とする有名テキスタイルメーカー、ファガーソンブラザーズ社らと会社を設立。ビジネスは短命に終わりましたが、1929年に既にグローバルな事業拡大を成し遂げていたのですから、驚きます。

シャネル CHANEL
1928年から1929年に登場したバッグ

ブランディングに長け、自らインフルエンサーに

シャネル CHANEL
Étienne Drianによるポートレートを使用。

こちらはファガーソン家とコラボレーションしたファブリックについての広告(1933年)。ガブリエル シャネルの横顔をアイコン化したビジュアルを、本人は大層気に入って、あちこちで採用したとか。まさに“ブランディング“の先取りです。ちなみに彼女はシャネルの服を自ら着て周りに広めたという点で、現在のインフルエンサーの役割も担っていたんです。1919年から1934年の間、パリやドーヴィルなどで撮影されたファッショナブルな女性たちは皆シャネルを纏っていたとか。

無限の可能性を秘めるシャネルのスーツ

最大の見どころは50体以上のルックからなる“シャネルのスーツの広間“。20年のブランクを経て70代で発表した作品が、若い女性に歓迎されたというエピソードには、夢があります。ど迫力の展示を見て感じるのは、「シャネルのスーツって自由なんだ」ということです。原型がシンプルで完璧だからこそ、デザインのバリエーションや着こなしは無限に広がっていきます。下記は中でも私が個人的に素敵だと思ったルックを3つ並べたもの(実際の展示では、並び合っていません)。


ちなみに本展のオープニングでは、各国からシャネルのスタッフの方が集合。みな制服のようにシャネルのスーツを纏っていたのですが、スタイルは千差万別。やっぱり、根底にあるスピリットは“自由“です。昼はロックTシャツやデニムにカーディガンのように羽織り、夜はジュエリーやインナーでドレスアップ。旅先に一着持っていけば、どんなシーンでも活躍します。しかも動きやすい。幼少期に父親に置いて行かれた寂しさから、ガブリエル シャネルは体をハグするように服を作ったと言います。このエピソードには切なさも感じますが、悲しさを力に換えて前進した姿に胸を打たれます。展示は2024年2月25日まで。

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エディターNAMIKI

ジュエリー&ウォッチ担当。きらめくモノとフィギュアスケート観戦に元気をもらっています。永遠にミーハーです。

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