『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。正直なところ観終わった瞬間、ちょっとだけ後悔しました。重い、キツい。しかし少し時間が経ち、レビューや解説を観るうちに、ジワジワと自分が感じたことを反芻したくなりました。そして「恐ろしい」「辛い」を超えて誰かと語りたくなるのです。
アメリカが「分断」を経て行き着いた先の世界?
プロットを簡単にサマリーすると……アメリカ政府と、テキサス&カリフォルニアからなる西部同盟の内戦により武力衝突が繰り広げられています。キルステン・ダンスト演じるリー・スミスら4人のジャーナリストが、ホワイトハウスに向かう道すがら、さまざまな出来事に遭遇します。雑に要約しましたが、ここでは、「さもありなん」な分断や差別が描写されています。さらに「現代の戦争ってこんな感じ?」と思わせる、見慣れた光景と戦闘が隣合わせにあるようなイメージ。「ちょっとアイツとは気が合わないな」程度だったのが、無慈悲に銃を撃ち合うまでに。行き着くところまで行くと人間はこんなに暴力的になれるのかと、暗澹たる気持ちに陥ります。と書くと観る気が失われるかもしれませんが、絶妙な選曲だったり、巧みなストーリー展開に惹き込まれ、シンプルに映画として「面白い」んです。
キルステン・ダンスト演じる「ベテラン」ジャーナリストに共感する人も多いはず
もう一つの見どころは、ジャーナリストたちの「先輩後輩」関係。非常に感情を抑制した女性のフォトジャーナリスト、リー役にはキルステンが。『ヴァージン・スーサイズ』(2000年公開)など、ソフィア・コッポラ映画の常連で、甘く可憐なイメージが強かった彼女。今作品の戦場を潜り抜け静かに信念を貫く役柄に、刺激を得る女性は多いはず。彼女の実生活での夫ジェシー・プレモンスも鍵となっており、『プリシラ』(2024年公開)のケイリー・スピーニー演じる怖いもの知らずの若い後輩の成長が、ラストシーンになんとも言えない感慨を。究極の状況で人がどう行動するか、と言うテーマが全体をぶっとく貫くことで味わいを増しており、素晴らしい役者たちを一気に見ることができるという意味でも満足を得られます。
深掘りしたくなるシーンが満載
編集部周辺では、日々「アレ観た?」と盛り上がっています。アメリカの歴史や実情に照らし合わせ特定のシーンを読み解いたり、若手への仕事の継承という点でインスピレーションを得たスタッフも。映画ファンは、キルステンとジェシーの夫婦共演にときめいたり。ちなみに現在発売中のSPUR11月号205ページには、監督のアレックス・ガーランドのインタビューを掲載しています。
作中、戦争とは真逆の瀟洒なファッションブティックで本を読みながら店番する女性が、「(内戦には)関わらないようにしている」というシーンがありました。が、少しボタンを掛け違えただけで、世界のどこででもこのようなことは起こり得る。ただ平和を祈ったり願ったりするだけでは十分じゃない。そんな切迫した思いを残す作品です。