ローズクオーツのミサンガ ― 大好きな人が着ていた服 ―

 10年来の友人の誕生日には、毎年何かしらプレゼントを渡すことにしています。予算は1万円ぐらい。アクセサリーやマニキュアなど、彼女に似合いそうなものをじっくりと選ぶのは、とても楽しいひとときです。

 あれは、5年前の秋頃の話。友人は大失恋のショックで、悲嘆にくれていました。食事もほとんど喉を通らずげっそり痩せて、仕事も休みがち。そんな彼女をなんとか元気づけるため、ありとあらゆるショップを回ってプレゼントを探しました。さんざん悩んだ末、当時流行っていたストーン付きミサンガを購入することに。グレーの糸で編みこまれたミサンガに、ピンクのストーンがきらりと光っています。

 誕生日祝いは毎年、ちょっといいお店でごはんを食べながら。デザートが運ばれ、いざ、プレゼントタイム! 包みを開けた友人に、「このミサンガをつけていると、幸せが舞い込むんだよ」なんて冗談半分で言ってみると、彼女の目にパーッと光が差し込みました。「ほ、本当!?」と嬉しそうに、早速手首につけ始めています。その様子にひと安心した私はさらに「しかもこの石、ローズクオーツじゃない? 恋愛運アップにいいんだよね」と言って盛り上げました。

 しかし家に帰って念のためウェブサイトで石の素材を調べると、それはローズクオーツでもなんでもなく、ただのガラスということが判明。けれど友人のあんな表情を見たあとでは、本当のことなんてとてもじゃないけれど言えません。とりあえず、当分の間黙っていることにしました。

 それから半年ほどして、友人に恋人ができました。「ありがとう! ミサンガのおかげだよ」と興奮気味に話す彼女。それにしては、効果が出るのが遅いんじゃ……と内心思いながらも、「そっか、良かったね」と言うことしかできない私。そして残念ながら、また別れがやってきます。その後も何人か彼氏ができるのですが、そのたびに彼女は「ミサンガのおかげ」と信仰を深めていく。彼女がそう言うたび私の罪悪感はつのるばかりです。

 そんなことを繰り返しながらあっという間に5年の月日が流れました。今なら彼女も幸せそうだし、そろそろ打ち明けるべき時かな、とある日思い立ち、意を決して切り出しました。「あのさ、今まで黙ってたことがあって」。「なに?」。「そのミサンガなんだけど、ローズクオーツじゃなくただのガラスなんだよね。今まで黙っててごめん」。すると友達は一瞬目を丸くしたものの、にこりと笑ってこう言いました。「知ってたよ、わりと前から」。


(オーガナイザー 28歳 東京都)


※この企画は毎週日曜日20時に公開していきます。次回は7月17日(日)20時公開予定です。

日本発のモード誌『SPUR』は参加型の新企画「SPUR ナショナル・ファッションストーリー・プロジェクト」を2016年4月より始動しました。このプロジェクトは、皆様のファッションにまつわるエピソードを、SPURが物語としてまとめていくものです。お寄せいただいたエピソードのうち、こちらのコーナーでご紹介させていただいた方には、同時に掲載する描き下ろしイラストをポストカードにしたものと、iTunesギフト1,500円分を差し上げます。性別や年齢は問いません。‪あなたのファッションとのエピソードを応募してみませんか?  詳しくは特設ページにて。