テーパードスリムパンツの悲劇 ― もう、なくしてしまった服 ―

 10代後半、物凄く太っていた。背がぐんぐん伸びていた成長期を経て、16歳になって身長がほぼ頭打ちになったとき、行き場を失ったカロリーは今度は横に伸張し始めた。背は止まっても食欲は止まらない。常に次の食事のことばかり考えている大食漢の目方はK点超えを更新し続けた。

 その最初の被害者が、あのテーパードスリムパンツだった。濃紺のコットン素材で、股上たっぷりの腰部分には2本のタックが入っていた。太もも部分から足首にかけて極端に絞られた80年代特有のシルエットは、足をギューンと長く見せる。腰の位置が高くなるのが嬉しくて、股に食い込んで痛くなるくらいウェストベルトを高く、細く、ギュウギュウに絞り、上半身は必ずタックインしていた。購入したのはまだ標準体重だった16歳のときだったけれど、毎月パンツはきつくなる。きつくなっても、色褪せても履き続けた、それくらい気に入っていた。17歳の冬の初めに別れは突然来た。座ってチョコバーでも食べようかと座面の低いソファに腰掛けた瞬間、ババババという初めて聞く爆音とともに、一瞬で下半身がスカートになった。ボボボボボ、だったかもしれない。それはパンツの内側の縫い目が、右のくるぶしから左のくるぶしまでの一周に渡って破裂した音だった。周りの人が凝視している。猛烈に恥ずかしかったことと、体育着に着替えたことしか詳細は覚えていないけれど、1年以上の股ずれに耐え続け、肉圧と闘い続けた糸のひとつひとつの縫い目が「もう、無理~~~!!」とギブアップしたあの瞬間の衝撃は、たぶん一生忘れない。羞恥心はもちろんだけれど、愛しすぎたゆえに自らの手(贅肉)で破壊してしまった哀しさを、たぶん一生忘れない。17歳に戻ることができるのなら、あの大好きなパンツに苦労をかけないために少しは食事とおやつの量を減らしたいと思っている。

 ついでに、ケンシロウは主に胸筋で布を破ったけれど、あれはどこが縫い目だったのかしら。リアル『北斗の拳』を体験した、数少ない人類としてときどき考えてたりもしている。

(シーラ・イーストン 43歳 東京都)

※この企画は毎週日曜日20時に公開していきます。次回は11月13日(日)20時公開予定です

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