美しさには理由がある。その必然性に魅了されて
都内の骨董市などに出店し、各地の文化が色濃く反映された民族衣装やアクセサリーを販売しているHAFAの芝田悠未子さん。主な買いつけ先は、インド、モロッコ、中国、ウズベキスタンなどで、観光客のいない、もちろん日本人の姿も見当たらないディープなエリアへも足を踏み入れてゆく。
もともと民俗学や文化人類学に興味があった。中でも世界各地それぞれの美意識に思いを巡らせてきたという。
「着飾ることは万国共通なのに、美の形はさまざま。そのアウトプットの仕方の違いに関心がありました。すごく不便だったり、手間がかかったりするものもたくさんある中、なぜその形になったのか。そこには、必ず理由があって、その土地の気候や習慣など文化背景が絡んでいる。必然的に生まれた形だからこそ、こうして魅了されるんだと思います」
旅にはまった大学在学中にモロッコを訪れたことがひとつの転機だった。ワーキングホリデービザでロンドンに滞在し、ヨーロッパの国々を回るなか「半ばノリで」訪れたモロッコで、自分が惹かれるものの正体を感覚的につかむことができたという。
「ヨーロッパも楽しかったけれど、モロッコを訪れたときに自分が興味があるのはこっち側だって確信したんです。最初は雑貨や新しめの民芸品なんかを見ていたんですけど、それらと比べると古いもののほうが美しく、丁寧に作られていることを感じる機会が多く、そういったものにはその国の文化が凝縮されていることに気づきました。そこから少しずつ、骨董店に出向く回数が増えていきました」
この旅がきっかけで、インドにも足を運ぶようになり、現在のHAFAのスタイルがしだいにでき上がっていった。
東京で着ても違和感のないモードな一着と出会うために
誰かに販売するつもりはなく、自分のコレクションのためにアイテムを購入していた芝田さんが、アンティークバイヤーとして活動を始めたのは2014年のこと。旅先で知り合った日本人と情報交換をした流れで、帰国後、合同で骨董市に出店しようと盛り上がったのだ。以来、あるときはインドの骨董街で、またあるときは中国の少数民族の自宅で、現代の東京で身につけても違和感のないモードなアイテムを探し求めてきた。
「ものの背景に興味があると言っておきながら矛盾するようですが、民族衣装として、トライバルなものとしてどうなのかということよりも、そういうフィルターを通さずに、ファッションが好きな方が思わずハッとしてしまうようなもの選びをしたいと常に思っています。長い時間を経たトライバルなものには、バックストーリーを語らずとも伝わる本質的なかっこよさが宿っていると思うんです」
新たに探したり、作ったりはできない一点ものばかりゆえ、ときに誰かの手に渡ることが切なくなる瞬間もある。しかし、流行など関係なく、自分がいいと思って遠い地から持ち帰ったものに共感してもらうことはそれを上回る喜びになるという。
「もう二度と生産できないものなので『いつか底をついてしまうのでは?』と不安になって、あるときトルコの骨董商に相談したことがありました。すると彼はこう答えてくれたんです。『 “Old things travel.” 古いものは大事にされて、ぐるぐるといろんな人のもとを旅しているからなくなることはない。だから大丈夫だよ』と」
今回紹介したアイテムも、長い目で見れば旅の途中。まだ見ぬものとの出会いを求めて、芝田さんの旅は続く。
買いつけで出会った人々。女性ひとりでの買いつけは「危険にさらされないように常に 自分を戒めながら行動しています。長く滞在すると気が緩んでしまうこともあるんですけどね」と芝田さん。どの国へ行っても、必ずひとりはキーパーソンが現れて、そのつながり で次々と扉が開いていくことも。帰国後もメッセージをやりとりしたりと良好な関係が続く
1 「インドのアヒールの村を訪れると偶然にもお祭りの日で、みんながめかしこんでいました」2 「中国貴州省のトンの村で藍樽をかき回すおばあちゃん」3 「インドのカッチ地方、ラバリのパダール村にて。男性はこうして全身を白で固めるのに対し、女性は黒です」4 「中国貴州省のマタン村(麻塘村)で出会ったガアジャーのおばあさん」
しばた ゆみこ●アンティークバイヤー。1983年生まれ、大阪府出身。学生時代から世界各地を旅し、トライバルなアイテムに目覚める。2014年、HAFAとして都内の骨董市に初出店。インド、モロッコ、中国などに加え、今年は中南米での買いつけを計画中。最新情報はインスタグラムアカウント @_.hafa._ より。