素材と縫製に究極までこだわった丁寧な服作りで多くのファンを掴んでいるザ・リラクス。いま密かに注目を集めるこのブランドが “フィッティングハウス”という新しい形態の空間を6月30日に神宮前にオープンする。服を販売する“店舗”とは一線を画すこの未体験ゾーンのスペースについて、デザイナーの倉橋直実に話を聞いた。
試着するためだけに作られた、贅沢な空間
スタートから7年。これまで店舗を持たずに、ホールセール(卸売り)と自社のECサイトで展開してきたザ・リラクス。「お客様に品物をお届けするにはどんな方法がベストか考えた末にこの形を選びました」と、倉橋は語る。「ここは試着するだけの場所。気に入っていただけたものがあれば、その場でECでの購入手続きに進むこともできるし、近くのセレクトショップをご案内することもできる。ご希望の服をどこで扱っているかその場で在庫情報をお渡ししますので、帰りの電車の中でスマホから買っていただいてもいいし、ご自宅で他ブランドと比較検討されて、結果的に購入に至らなくても構いません。まずはお客様がここで自由に服に触れて、ブランドのことを好きになっていただくことが重要だと思っています」(倉橋)。
歴史的に価値のある建物と一体化したインテリア
場所は明治通り、千駄ヶ谷小学校交差点の近くにある、日本のモダニム建築を代表するヴィンテージ・マンションの一角。内装はグラフペーパーなどを手掛ける南貴之によるもの。設計に当たっては入り口のエレベターホールに使われていたグレーの色味や真鍮というマテリアルに着目し、建物の持っている本来の良さが反映されるよう意識したという。「1964年の東京オリンピックの年に建てられた、歴史的に価値のある建築にこの空間をオープンできたことは誇りに思いますし、同時に過去の良いものを守る動きに少しでも貢献したいという思いもあります」(倉橋)。
店舗を持たないからこそできる良心的な価格設定
ザ・リラクスの中でもマスターピースと呼ばれるベーシックなアイテムは特に人気が高い。その理由のひとつが適正以上に良心的な価格設定。たとえば、SUPER140というプレミアムなウール糸を使用したチェスターコートは、海外のメゾンに並ぶクォリティの高さで8万円台。リアルに手が届く価格帯だ。「“フィッティングハウス”のマスターピースは素材をさらにグレードアップしたものを作っています。たとえば、カシミヤとミンクを紡績した糸で織ったメルトン。今後は、店舗を持たないという軽量化したビジネスモデルだからこそできる、ラグジュアリーなもの作りにもどんどん挑戦していきたいと思います」(倉橋)。(写真/細見裕美、取材・文/平工京子)