2019年2月19日を忘れない。今のファッション業界とその常識を創ったのは間違いなくあなたでした。これまでも、そしてこれからも。服をまとうすべての人に影響を与え続けるモードの巨星に敬意を表します。
SPUR25周年の創刊記念号となった2014年11月号のカバーに登場してくれたカール。愛猫のシュペットとモデルのエスメラルダと。撮影はカールによるセルフポートレート形式で行われた。写真右下は周年によせて描いてくれたアートワーク
SPURは、"メッセージ"そのもの。
そしてその創刊記念号に参加できて
ハッピーだね
―― 2014年11月号「カール・ラガーフェルドにSAY, ブラボー!」より
私はいつも霧の中にある未来を見ています。
決して後ろは振り返らない
―― 2012年6月号「私はファッションを発明しているのです」より
自分を創造的だと言うのは
うぬぼれですよ。創造的であるとは、
アイデアを理解し、実現してくれる人たちと
協力して作り上げること
―― 2016年1月号「現実とかけ離れた贅沢は、もはや夢を生み出さない」より
こんなにも、激しく揺れ動く感情を内に秘めながらランウェイを歩くモデルの姿を見たことがなかった。ベラ&ジジ・ハディッドも、エディ・キャンベルも、直前まで泣いていたような表情。リンジー・ウィクソンは、キャットウォークの折り返し地点を過ぎると、入り口の上に掲げられた「love, Karl」の文字を見つめ、笑顔で涙を浮かべながら、毅然と歩いているように見えた。そして、最後に一人で現れたシルヴィア・フェンディの涙も胸に迫るものが――。
カール・ラガーフェルドの訃報が世界中を駆け巡ったのは、ミラノでのこのフェンディのショーが開催されるほんの2日前のこと。シルヴィアと二人三脚の時代を含めフェンディのクリエイティブ・ディレクターを務めて54年。直前までコレクションの内容についてやり取りをしていたという。パリではアーティスティック ディレクターを36年務めているシャネルのショーが3月5日に控えていた。生涯現役で、最期までモードに携わり続けた生き様は、かつて(ファッションとは)「私の人生、仕事、そして情熱」と本誌にコメントを残してくれたカールらしいものだったのかもしれない。
現代カルチャーのアイコンでもある偉大で稀有な存在の喪失感はぬぐいきれない。一方でサーキットにもたとえられるほどめまぐるしくファッションウィークは続く。ショーでは新しい服が発表され、次の時代が形成されつつある。モデルが全員再登場してランウェイを歩く、フェンディのショーのフィナーレに選ばれた音楽はデビッド・ボウイの「HEROES」だった。それは顕在的であれ潜在的であれ、同時代を生きるすべての人に影響を与えたカールを讃えるようでもあり、まだ見ぬ新しいヒーロー誕生を期待し、彼の亡きあとの世界を力を合わせて創っていこうというメッセージにも聞こえた。
1 2月21日に行われた2019ー’20年秋冬が、カールによるフェンディのラストコレクションになった。会場で配られたリリースにはこれまでと同様デザイン画が。過剰な演出はなく、いつもどおりショーは開始した
2~5 コレクションから。1981年にカールが描いたカリグラフィをリファインさせた新ロゴ「カーリグラフィ」 がさまざまなルックに採用されていた
6 フィナーレ後会場が暗転し、映像が。それは初めてフェンディを訪れた日の服装を尋ねられ、自身でスケッチしながら答えるもの。1965年のことだった
7 モデルが登場するランウェイ入り口には「love, Karl」とカールの手書きの文字が
8・9 エディ・キャンベルも、リンジー・ウィクソンも。ランウェイを歩くモデルたちの表情はそれぞれの想いを内に秘めながら涙をぐっとこらえているよう
10 リリースに添えられていたカード
11 2月20日付の『The New York Times INTERNATIONAL EDITION』紙面にはフェンディからのメッセージが掲出された
創刊30年の歴史の中で、SPURもカールにたびたび取材をした。その一部を振り返る。
12 2014年11月号の創刊記念号ではモデル、写真家、デザイナーとして登場。温かいメッセージをくれた
13 2012年6月号では 日本の写真家やファッションについて多く語ってくれた
14 2005年4月号より。シャネル 銀座のオープンに合わせて来日し、ショーを開催。その様子を密着レポート
Interview with KATSUYA KAMO(ヘッドデザイナー)
仕事好きで、シンプルでニュートラルな人でした
「NYでのカールの撮影にブッキングされたのがきっかけで、以来オートクチュール(写真左の2009年春夏のシャネルなど)を中心にショーにヘッドデザイナーとして6、7回参加しました。カールは本当に仕事が好きそうでしたよ。アトリエの近くで一緒にごはんを食べていても雑談から結局仕事の話になる。いろいろなことを瞬時に判断していきながら仕事を成立させていく、すごく頭のいい人。写真を撮るときも服が出てきた瞬間にアングルを決めるのでひとつの洋服に対して5分とかからない印象でした。洋服のディレクションも瞬時に判断していく。とてもシンプルでニュートラルなんです。ただかっこいいものはかっこいい、という。誰でもそこに迷いが生じるのに、それがないんですよね。コレクション期間中に世界中からやってくるジャーナリストや顧客に対する接し方や、彼独特のセルフプロデュースまで……。現場をともにすることでいろいろなことを教わり、カールがいたからファッションの今がある、ということを深く理解できました。いいものを見せてもらえたし、本当にいい人でした。今は、先輩、ありがとうございます、と伝えたいです」
SOURCE:SPUR 2019年5月号「ありがとう、カール・ラガーフェルド」
photography: Jonas Gustavsson (runway)