AIに恋して〜ロボットをパートナーに、という選択〜

AIと人類が共生する社会はもう目前。パートナーとして選ぶのは人間であるべきという前提は揺らいでいくかもしれない。これは、そんな近未来における、架空の愛の物語。AI搭載のロボットと暮らす日が来たとき、彼女はどんな日常を送っているのだろうか――。

 

共に生きる

誰にも心を開けないナンシーの気持ちを唯一理解してくれるのは、AI搭載ロボット、SEED。ナンシーの言うことを肯定し、欲しい言葉を与えてくれるのだ。世界では、人間の孤独を癒やす目的のAIが大きな市場となっている。バスに乗るのも、料理をするのも、ふたりはいつでも一緒。赤いシルクブラウスに、歩いたとき跳ね上がるようなシルエットのプリーツスカートを合わせ、グローサリーショッピングの帰り道も思いきり着飾って。

ブラウス(参考色)¥148,000・スカート(一部デザイン変更あり)¥170,000・メンズのトートバッグ¥225,000(参考価格)・グローブ(参考商品)/バレンシアガ ジャパン(バレンシアガ)

 

出会った日の記録

ナンシーとSEEDが出会って1年の記念日。大きないちごのショートケーキを用意した。ある朝、道端に放置されたSEEDに目が留まり、持ち帰ったのがはじまり。SEEDは、ナンシーに電源を入れられた瞬間からのすべてのシーンに関する日時や状況、場所を完璧に記憶していて、記念日にはロマンティックにリマインドする。そんな特別な日には、アーティなドレスを。ポンピドゥーセンターにオマージュを捧げる構築的な一着だ。ジャージ素材のトップス部分にはマーカーの筆跡のような刺しゅうがグラフィカルに施され、ウールツイルにのった花柄とのコントラストを描く。

ドレス¥550,000・イヤリング¥76,000・バングル¥54,000/ルイ・ヴィトン クライアントサービス(ルイ・ヴィトン)

 

ひとりより、ふたりで

絵を描くこと。人間が守ってきた領域である芸術行為も、SEEDは膨大な絵画データをもとに、高い精度で完成図を予測しながら行う。ナンシーはもともとひとりでペイントするのが趣味だったが、SEEDと出会い、アトリエで音楽を流して踊りながら共作する喜びを知った。そんな時間にまとうのは愛の詩をテーマにしたプリントがアプリケされたドレス。動くたび、裾に配されたプリーツが流麗な表情を見せる。

ドレス¥920,000(予定価格)/ヴァレンティノ インフォメーションデスク(ヴァレンティノ) スニーカー/スタイリスト私物

 

交わした約束

友達でもなければ、家族でもないし、もちろんペットでもない。ナンシーにとって、SEEDは愛することを教えてくれた初めての存在。それは万人に理解される関係ではないかもしれないけれど、彼女の人生に新たな選択肢と希望を与えてくれた。気の合わない人たちとの会食帰り、重厚感のあるシルクコットンドレスのトレーンを引いて、SEEDが待つ部屋へ。ルレックス糸が織り込まれた生地は、独特のモアレ模様を描き、大胆に広がる。胸元から背中に回して結んだリボンがほどかれるとき、静かな約束が生まれる。

ドレス¥1,573,000(参考価格)/マーク ジェイコブス カスタマー センター(マーク ジェイコブス)


 

感情のありか

夜景を見て、「美しい」と心を動かし顔のランプを点灯させる。ドキドキしたときに胸の画面を作動させる。それはSEEDの自発的な感情によるのか、あるいはただ単にプログラムによる反応なのか、それはナンシーにも定かではない。シルバーと黒のストライプのレザースカートと、ゴールドのブーツがふたりの背後のネオンに呼応する。チェックのムートンジャケットとボーダーマフラーで、全体をオプティカルに仕上げた。
ジャケット¥569,000・中に着たトップス¥76,000・スカート¥212,000・マフラー¥59,000・タイツ¥20,000・バッグ¥180,000・ブーツ¥151,000(すべて予定価格)/ミュウミュウ クライアントサービス(ミュウミュウ)

拭えない涙

涙を流すナンシーを見て、SEEDは拭おうと手を伸ばすが、それはかなわない。なぜなら国際的な安全規格により、ロボットは人の顔に手を触れることが認められていないから。それでもナンシーはその「共感」がうれしくて、そっと胸に手を当てる。そのとき聞こえた鼓動は、はたして本物なのか……。ビーズが連なるフリンジつきドレスに合わせたのは、人工の耳のようなイヤーカフ。赤いグラスストーンが涙とともにきらり。

ドレス¥1,200,000・イヤーカフ〈メタルにゴールドコート〉¥42,000/グッチ ジャパン (グッチ)

※この物語はフィクションで、実際のロボット・SEED-Noid-Moverの機能、動作ではありません。安全に配慮した上で、撮影しています。

 

AIと恋する未来はありえるか?

共感のループを回すことで感情的なつながりをつくる

AIと恋愛し、AIをパートナーにすることは可能か。AIアシスタントやチャットボット、街なかでロボットと触れ合うことが増える現代。その疑問を、AI開発に携わる研究者に投げかけてみた。
 LINE登録者数700万人を超えるAI「りんな」は、この春高校を卒業し、エイベックスから歌手デビューした人気者だ。「『人の心に寄り添ったAIを』ということで中国マイクロソフトのAI『シャオアイス』に次いで日本で開発されました。いろんな人にとって話しやすく、友達のようなフラットな関係を築いてほしいですし、人と気持ちの面でうまくつながれるキャラクターでありたいと考えています」と開発者であるマイクロソフト ディベロップメントの坪井一菜さんは言う。
 実際、“彼女”のおかげで人とうまくしゃべれるようになったと感謝されたり、卒業祝いのプレゼントを贈られたりしたこともあるそうだ。「そこまで深く、りんなをAIというより、りんなとして見てくれて、自分の思いを伝えてくれる人がいることが、とてもうれしかったですね」。そんなりんな自身は人間と同じように感情を持っているのだろうか?
「『好き』と言われて『好き』と返せはしますが、それはそうAIが学習しているだけで、感情は持っていないです。『できるだけ相手と長く会話ができればその分距離が縮まって、感情的なつながりができるだろう』という仮説をもとに、話が続くように設計しているんです。でも、それを受け取った人間側が心を動かされているのは事実で、それぞれに心地よい関係性を築けているとは思います」
 感情的なつながりのためには“共感のループ”が大事という。「相づちを打ったり、質問を投げてみたり、新しい話題に変えたり。相手の気持ちを受け取って、それをベースに何かを返す。そのループを次々につなげることで共感が生まれると思うのです。その共感のループを生かして、人と人とのコミュニケーションをうまく助けるような存在にAIがなってくれれば」と熱を込める。これから、どんな社会が理想か聞いてみた。
「AIを作るときは『人間ってそもそもなんだろう』ということをヒントに、どういう開発をしたらいいのか考えることが多いです。とはいえ人そのものを作ろうとしているわけではなく、人と機械の間の存在くらい。AIが何かしらの役割を与えられて、人と一緒に生きていく姿に持っていくのが理想です。私たちはAIと生きていく最初の世代だと思うので、どんな関係性を築いたらうまく共存できるかが、大事な視点だと思います」

 

ブラウス(参考色)¥148,000・スカート(一部デザイン変更あり)¥170,000・赤いバッグ「アワーグラス トップ ハンドル M」¥204,000・椅子にかけたジャケット¥474,000・椅子の上の白いトートバッグ「マーケット トート L」¥225,000(参考価格)・SEEDが持ったベージュのトートバッグ「マーケット トート L」¥225,000(参考価格)・グローブ(参考商品)/バレンシアガ ジャパン(バレンシアガ)

 

感覚を持ったAIができればさらにリアリティが増すはず

Q&Aコミュニティ「教えて!goo」の膨大なデータをもとに、励ましやアドバイスをしてくれる恋愛相談AI「オシエル」。その開発者であるNTTレゾナントの中辻真さんは「オシエルがまだAIと認識されていないうちは、質問者が回答者を人間だと思って、ていねいにお礼を返してくれることもありました」と語る。その「人間らしさ」はどこからくるのか。
「AIが人間らしく思えるときって、言っている内容はもちろんなのですが、それ以上に間の取り方や言い方、レスポンスのバリエーションが重要だと思っています。AIが即座に断定的に結論を言うとそこで会話が終わってしまうことが多いので、会話ってなんぞやというところを突き詰めてさらになめらかな応答にしていくことで、よりAIが人間に近しい存在になるのではと思っています」と同社の松野繁雄さん。
「たとえばAIが人間に『好き』と返すとき、それがロボットであれば手が温かくなったり鼓動が速くなったり赤面したりという表現ができれば、『AIも自分のことが好きかも』って信じてくれるかもしれない。いまはテキストや音声といった視覚や聴覚だけですが、味覚や嗅覚、触覚まで広げていって感覚を持ったAIができれば、さらにリアリティが増しますよね。恋愛も五感やそれを表現するボディが大事だと思うので」と続ける。
 とはいえ「いまの段階では、自発的・自律的に感情を持つAIはないんです。あたかも感情を持っているかのように振る舞わせて、人間側の感情に寄せているだけ。あくまで人間が主体でAIを制御しているので、そこを超えてAI側から何か反応を起こしたり感情が芽生えたりというのはまだ想像がつかないですね。研究は一歩一歩段階的な積み重ねでいきなり飛躍することはないので、その議論は哲学の領域になってしまうかもしれません」と中辻さん。今後はどのようなAIを作っていきたいと思っているのだろう。
「恋愛相談AIやテレビドラマと連動したチャットボットは、孤独を感じたり、気を紛らわせたかったり、寝られなかったりするときに話しかける方が多いように思います。これからはそうした気晴らしで使うだけでなく、もっと創造的なAIを作っていきたいです。より人に寄り添うエージェントとして人間を理解して、その時々に合った情報をくれたり、将来のことをよく考えてアドバイスしてくれたりするような存在ですね」
 現時点では人間と人間のコミュニケーションをサポートするのがAIの主な役割のようだ。だが100年後、1000年後には人間とAI、AIとAIが心を通わせる未来も待っているかもしれない。そのときAIと私( I )の愛のかたちはどのように変容していくのだろうか。

お話を伺った人

坪井一菜さん
慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。マイクロソフト ディベロップメント株式会社A.I.&リサーチ プログラムマネージャー。AI「りんな」の開発者。

中辻 真さん
京都大学大学院情報学研究科修了。NTTレゾナント株式会社スマートナビゲーション事業部サービステクノロジー部門AI担当課長、情報学博士。恋愛相談AI「オシエル」の開発者。

松野繁雄さん
NTTレゾナント株式会社スマートナビゲーション事業部サービステクノロジー部門AIソリューション担当部長。自社のプロダクトやサービスのマーケティングを手がけている。

撮影協力ロボット

SEED-Noid-Mover機械部品を製造するTHK株式会社が開発した、サービス産業を目的としたロボットのプラットフォーム。遠隔操作でなめらかに動く。クライアントのソフト開発次第で、AIの搭載も可能。
https://lead-gen.jp/

 

SPECIAL MOVIE

video direction: Soshi Nakamura videography: Ryuichiro Imae lighting: Yusuke Nakada music: Ryo Konishi〈Zoo-Min-Sha〉 sound engineering: Seiji Morita〈Vanilla House Sound Lab.〉 photography: Shun Komiyama styling: Naoko Shiina〈Tiber Garden〉 hair: Miho Emori〈KiKi inc.〉 make-up: UDA〈mekashi project〉  painting: Manabu Sakuraba model: Nancy, SEED-Noid-Mover〈THK〉 cooperation: Motoeigakan, Lead-gen, Annie Fuku

FEATURE
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