ニューヨークのトップデザイナーの対談が実現した。もともと大の仲よしのアナ・スイとマーク・ジェイコブスだからこその、本音炸裂トークが繰り広げられた
アナとマークの仕事を超えた信頼関係はもう30年来変わらない。ともに忙しい合間を縫って互いのファッションショーやブティックのオープニングに出かけ、一緒に食事やショッピングにも行く。出会いはマークのパーソンズ美術大学での学生時代に遡(さかのぼ)る。早い時期からデザイナーを目指していたことからファッション業界の動きには敏感だった彼は、当時新進気鋭のファッション写真家として活躍し始めたスティーヴン・マイゼルと彼のクリエイティブを支えるグループに注目していた。そのグループにアナがいた。
「憧れのグループだった」と回想するマーク。あるとき、マークはアルバイト先のセレクトショップで偶然、アナと遭遇。恐る恐る声をかけたという。ふたりの本格的な交友関係が生まれたのは90年代に入ってから。マークがクリエイティブ・ディレクターを務めるペリー・エリスのデザイン・チームにアナの友人アニタ・パレンバーグが加わったことがきっかけで、互いに会う機会も増え、親交を深めていった。
マークがアナの自宅を久しぶりに訪ねた日、ふたりの会話はファッション、カルチャー、ソーシャルメディア(SNS)と、多岐にわたった。
アナ・スイ(以下AS) かっこいいブーツ履いてるわね!
マーク・ジェイコブス(以下MJ) リック・オウエンスなんだ。履き心地がよくて、実はもう10日間も履きっぱなし。
AS あなたのヘアクリップ、私も同じものを持ってるわ。グリニッチビレッジの雑貨屋さんで買ったのだけど、お店の人が「先週マーク・ジェイコブスが来て、きれいなヘアクリップは全部買って行ったわ」って言われて、悔しい思いをしたのよ。
MJ そうだったの? 僕たち好きなものが同じだよね。アート、映画、音楽、ビューティ、インテリアと。ショッピングも大好きだし。
AS 好きな時代や影響されるものも同じね。
MJ アナのコレクションを見ていると、アナがファッション史だけでなく、美術史やそれぞれの時代と文化について、本当によく勉強しているのがわかる。サーフカルチャー、ヴィクトリアン、アールヌーヴォ、アールデコだったり、すべてが頭の中に蓄積されていてそれを今の若者たちにもわかるような形に表現していてすごいなと。
AS 若い人たちから、そんなことまでどうして知っているの?って、よく聞かれるわよ。
MJ 今、男の子たちがメイクしたりマニキュアしたりしていて、それが新しく生まれたトレンドだと思ってる人が多いみたいだけど、今に始まったことじゃないよね。
AS ルイ14世の時代の男たちはみんなお化粧してたじゃない?
MJ そうだよ。今でいうハロウィーンの衣装みたいに着飾っていたし、60~70年代の「ピーコック革命」だってそうだよ。男たちが着飾ることは過去の歴史の中にちゃんと存在していた。
AS マークも私以上に何でもよく勉強して知っていて、共通言語で話ができるから楽しいわ。
MJ そう、僕たちは、過去の歴史にすでに存在していたものとか、何がどこから来ているのかをわかっているから、今のトレンドが、何をベースにして生まれたのかも瞬時にわかるんだよね。アナのすごいところは、知識が時系列で頭の中に入っているところ、僕は情報が頭の中で整理されてないから、いつも「あれ、何だっけ?」ってアナに教えてもらっているよね。
AS ところで最近、好きなバンドとかよく聴くシンガーとかいる?私は今のミュージックシーンはあまり面白くないと思ってるけど。
MJ まったくそのとおり。言いたくないけど(笑)。昔はミュージシャンたちと僕たちの間には、ある種のつながりがあった。
AS 昔はそれぞれのバンド独特のシーン(情景)があって、私たちはその情景に惹きつけられていたと思わない?
MJ 今でもそれぞれのバンドにはシーンはあるけど昔ほどの魅力はないよね。僕がティーンエイジャーの頃は、クラブに集まる人たちのかっこいいファッションに憧れて、どこのクラブがホットでどんな人たちが集まって、どんな音楽がかかっているのかって、興味津々だった。(続きを読む)
SOURCE:「Anna Sui and Marc Jacobs」By T JAPAN New York Times Style Magazine:JAPAN BY TERUYO MORI, PHOTOGRAPH BY STEVEN MEISEL, MAKEUP BY AYAKO FOR ANNA SUI JUNE 23, 2020
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