地球環境にやさしいエシカル素材の水着で体を解放し、海遊びとビーチクリーンを。海洋プラスチックの問題を解決に少しでも近づけるために、サステイナブルな意識を持ってごみを拾うことから始めたい。
今、海で起きている問題を知ろう
海に遊びに行くとペットボトルやレジ袋の残骸が。これらのプラスチックごみが引き起こす問題と解決の糸口とは?
教えてもらったのは...
公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
プラスチック政策マネージャー
三沢行弘さん
企業などで国内外の事業の企画・推進に携わった後、WWFジャパンに入局。「2030年までに世界で自然界へのプラスチックの流入を根絶する」というWWFのビジョン実現に向け、プラスチックの大幅削減を前提とした資源循環型社会の構築に向けて取り組む。
プラスチックごみを発生させない
プラスチックごみは河川から海洋に流れ込み、紫外線や波の影響などで、やがて直径5㎜以下の細かいマイクロプラスチックとなる。マイクロプラスチックは広く人間や生物に摂取されている、という研究結果が明らかになり、世界中に衝撃が走ったのは記憶に新しいところ。今その海洋プラスチック問題は各国が早急に解決すべき環境課題といわれている。島国で生きる私たちにとって、大切な海の環境を守るために何ができるだろうか。WWFジャパンの三沢行弘さんは、まずプラスチックごみを発生させないこと、と語る。
「日本は使い捨てプラスチックの使用量が非常に多く、一人あたりの排出量は世界で第2位です。必ずしも必要でないプラスチックをどんどん作っては捨てていて、しかもごみの7割を燃やしています。プラスチックは、生産時と焼却時に温室効果ガスであるCO2を発生させます。日本では、ごみを燃やすときに出る熱の一部をエネルギーとして活用する熱回収という処理を『サーマル・リサイクル』と呼んで推進していますが、大量生産と大量焼却は、地球温暖化を加速させます。残りのプラスチックごみのかなりの量を、リサイクルと称して海洋流出量の多い国に輸出しており、それらがきちんと処理ができていない可能性もあります。だからまずやらなければならないのは、できるだけプラスチックごみ自体を発生させないことです」
ごみを発生抑制(リデュース)できない場合は、物を長く大切に使ったり、リユース(再使用=ごみとせずに繰り返し使い続けること)が望ましい。リサイクル(再生利用=一度素材に分解して作り直すこと)という方法もあるけれど、それにはエネルギーが必要。また、ほとんどの場合、リサイクルすることで品質が落ちてしまい、何度もリサイクルすることが難しくなる。よって、私たちがすべき優先順位はリデュース、リユース、リサイクルの順となる。
「日本の海岸に漂着したごみは、日本海側は海外から、太平洋側は国内から出たものが多い。太平洋ごみベルトというのがアメリカ本土とハワイの間にあり、そこで見つかる判別可能なごみのうち約3分の1は日本製です。国内リサイクル率が85%というペットボトルも、日本の河川域に約4000万本も散在していると見られている。そもそも、ごみとなる絶対量が多すぎるわけです」
この現状を踏まえた上で、海洋プラスチックごみ、特にマイクロプラスチックについて考えるとまるで他人事ではなくなってくる。
「マイクロプラスチックは、流出後の回収がほぼ不可能です。マイクロプラスチックには2種類あり、一つはプラスチックごみが流出後に、砕けて細かくなった二次マイクロプラスチック。もう一つは、化粧品に含まれるマイクロビーズ、化学繊維の服を洗濯する際に発生するマイクロファイバー、合成タイヤの粉じんなど、製品の使用中に発生する一次マイクロプラスチックです。マイクロプラスチックは、製品を作るときに有害物質が添加された場合にはそれが残留しており、さらにかつて環境中に流出した有害物質を吸着します。これらを生物が摂取した際の悪影響については、まだ明確になっていませんが、有害物質を含んだマイクロプラスチックを摂取すること自体、リスクが大きいと思います」
洋服にはナイロンやポリエステルなどさまざまな化学繊維が使われている。それらを洗濯することで、大量のマイクロファイバーが河川を通じて、海に流出してしまうのだ。
気に入ったアイテムを修繕しながら長く着る
「プラスチックの流出や地球温暖化につながる大量消費を止めるためにできることは、どんなことでも取り組むべき。たとえば、レジ袋を有料化して減少させたところで微々たる改善にしかならないからという理由で反対する声も聞きますが、確実に環境の改善につながります。身の回りのできることから取り組んでいくべきです。企業としても、たとえ水着のような伸縮性や薄さが求められるアイテムでも、品質を確保しつつ、再生素材に切り替える、さらに、マイクロプラスチックが出ないような新素材を開発する。こういったところでイノベーションを実現してほしいと思います」
地球環境に深刻な打撃を与えているファッション業界は、改善を目指しECONYL®など再生プラスチック素材を積極的に採用するメーカーや、リサイクル素材で作ることを核にしたブランドも増えている。新しいブランドでは、サステイナブルはすでに前提に。こういった洋服を一過性の“流行”としてではなく、継続的に選択していきたい。
「ファッション業界は、今最もビジネスの変革が求められている分野。というのも、残念ながら現在のビジネスが、環境破壊をもたらす大量生産、大量消費にまさに直結しているからです。流行を追い求めて最新のものを購入し、ワンシーズン着たらそのまま捨てて、次のシーズンにはまた新しいものを買うというライフスタイルそのものが、大量のごみを生み出し、環境汚染に拍車をかけています。業界と消費者とが協力し、このライフスタイルを根本的に転換していかなければなりません」
先ほどの優先順位で考えると、しっかりとしたものを購入し、補修しながらでも愛用する、あるいは他の人とシェアをする。そして着なくなったら、必要としている人に譲る。それができなければ、リサイクルに出す。
「消費者が使い捨てを前提とせずに、より環境に配慮した商品を選ぶようになれば、売る側の姿勢も変わります。水着も毎シーズン買うのではなく、気に入ったものをできるだけ長く愛用してください。そういった積み重ねが、美しい海を残すことにつながっていきます」
洗濯時にこのバッグに入れることで、化学繊維から抜け落ちるマイクロファイバーの、河川や海への流出を抑える。
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photography: Takehiro Uochi 〈TENT〉
SOURCE:SPUR 2021年9月号「水着でビーチクリーンへ」
photography: Takeshi Takagi 〈SIGNO〉 styling: Satoko Takebuchi hair & make-up: Momiji Saito 〈eek〉 model: ARIA POLKEY, KEITO edit: Akane Watanuki