若手が先輩に、ニューエイジの視点や知識を授けるリバースメンター制度。従来の常識や上下関係にとらわれず教え、学び合うことができたら、ソーシャルイノベーションを起こすことだって夢ではない。ネオ・ハイライフは、いくつになっても自分を更新し続けられる社会にある
INTERVIEW
リバースメンター制度、本当のところ
実際には、どう運用して、どんな効果が生まれているのか。リアルな声は新たな発見に満ちていた
お話を伺った人
松本典子さん
資生堂人事部
知恵と価値観の循環がイノベーションの起爆剤に
若手社員がベテランにITやジェンダーに対する考え方など、新世代ならではの知や価値観を教授する制度。台湾のデジタル担当政務委員オードリー・タン氏が前任の蔡玉玲氏のリバースメンターだったことが話題になり、日本でも徐々に知られるようになった。それ以前から、この制度をいち早く取り入れ運用しているのが資生堂だ。取り組みをスタートさせるに至った理由は、企業ミッションである“BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD”の実現を促進するため。性別や年齢、国籍といったアイデンティティの違いを認め尊重し合い、誰もが自分らしく生きられる社会の実現を目指している。
「以前、早稲田大学大学院経営管理研究科の入山章栄先生に、イノベーションを生み出していくためにはどうしたらよいかインタビューをしました。その際に、革新は『知』と『知』の新しい組み合わせなしには生み出せないという話を伺ったんです。その観点から、社内の多様な知見や経験、価値観を組織内で交換し、互いに受け入れる機会を増やしていく必要があるという認識に至りました。そこで、2019年よりリバースメンター制度を全社規模でスタートさせました」
まずは、役員や部門長といったマネジメント層と参加を希望した若手社員のペアリング。ディスカッションしたい内容をアンケートで回答してもらい、希望テーマが同じ人同士をマッチさせる。
「新たな人間関係や視点を手に入れるためにも、直属の上司と部下はペアリングしません。基本的には、他部署やグループ会社のスタッフと組むようにしています。相手が決まったら各人に裁量が委ねられ、頻度、所要時間、具体的なディスカッション内容を自分たちで決めていきます。セッションの仕方も自由で、直接会うこともあれば、オンラインで行うこともあります。ほかの同僚を巻き込んで複数での話し合いの場へと発展した、なんてペアもいましたね」
実際に行われるディスカッションの内容は、実に多岐にわたっている。
「SNSの使い方やつき合い方を若手から教えてもらったり、資生堂の生産プロセスの改善について議論したり。中には広告がネットで炎上した場合の、企業としての適切な対応方法と姿勢を議論するペアもいました。オンラインマーケティングのさらなる活用や、オンラインサロンビジネスに関してなど、WEB関連のトピックスは話題となることが多いようです」
個々が抱える業務の忙しさによっては、実施のハードルが高い場合も少なくない。それでも、実際にリバースメンター制度を利用している社員からは、好意的な意見が多く寄せられているという。
「お互いに専門分野が異なるため、違う視点からの考えに対して指摘し合うことができ、とても建設的な時間だった、という声が上がっています。自分では意図しないパートナーと意見交換することで、個人の枠を超えた物事の見方や切り口に気づくことができるんです。メンター側である若手社員も、普段はなかなか接することができない他部門のトップマネジメントの視座や知見に触れることができ、勉強になっているようです」
メンターとメンティー相互にポジティブな影響を与えてくれるこの制度。「知」を循環させることで、社内にもいい空気が生まれていると松本さんは語る。
「この制度を取り入れたことで、日常の業務では生まれない対話の機会が増え、オープンでフラットな議論が活発に行われるようになりました。そういった風通しのよい社風が醸成されることで、社員一人ひとりの感性が豊かな状態に保たれる。結果的に、会社の成長にもつながっていると感じます」
SOURCE:SPUR 2021年9月号「彼女はリバースメンター」
photography: Masaya Tanaka 〈TRON〉 styling: Yuuka Maruyama 〈makiura office〉 hair: Hirokazu Endo 〈ota office〉 make-up: Asami Taguchi 〈HOME AGENCY〉 prop styling: Akihiro Yamaya model: OLGA, MARISA. P typography: ZUMA text: Mai Ueno