「奥能登国際芸術祭2020+」では、国内外のアーティスト作品を展示。土地の力と共鳴するピースやインスタレーションは、私たちを新たな現実へと誘う。"さいはての地"のアートと戯れながら、自分自身も作品と一体化するように、そのランドスケープへと飛び込みたい
※実際の鑑賞時には、規定の位置よりご覧ください
※特集内の芸術祭の会期や内容は状況により変動する場合があります。詳しくはそれぞれの公式ホームページの情報をご確認ください
『Something Else is Possible/ なにか他にできる』- トビアス・レーベルガー
ドイツ生まれのトビアス・レーベルガーによる屋外作品。旧線路跡にそびえ立つのは、グラデーションが際立つ構造物。回転軸をゆがませながら、過去から未来へ向かうように連なっている。その中を進むと、双眼鏡が。廃線となったのと鉄道の「旧蛸島駅」と未来を望むことができる。グラフィカルなトンネルと通ずるのは、セリーヌ オムの服。アーティスト、トーマス・ザウターのエネルギッシュな「FIRE FLY」ペイントを配したスキーウェアを全身で纏い、色の渦に、そして時の流れにダイブしたい。
『Something Else is Possible/なにか他にできる』
エレン・エスコベード作「c_oatl」
[1980年メキシコ国立自治大学文化センターに恒久設置]を参照
『黒い雲の家』- カルロス・アモラレス
カルロス・アモラレスは1970年、メキシコシティ生まれのアーティスト。かつて農家だった空き家に無数に飛び交うのは、紙製の蝶々。およそ25000羽が、壁や柱を覆いつくす。静的なインスタレーションであるのに、今にも羽音が聞こえるよう。モノトーンの世界に彩りとともに飛び込むのは、グッチのセットアップ。バレンシアガを"ハッキング"したルックで、ピークドラペルジャケットのシェイプが構築的。フローラを携えて、羽ばたきと融合する。
『漂移する風景』- リュウ・ジャンファ
1962年、中国江西吉安市で生まれ、陶磁器を学んだリュウ・ジャンファ。地面に積まれた無数の焼き物は、日用品をはじめとする生活の痕跡が感じられる器やオブジェ。代表的な陶器の街「景徳鎮」の陶器と、大陸の影響を受けて確立した中世の日本を代表する珠洲焼が、“漂流物”のように出合い、交ざっている。オリエンタルなブルーと連動するのは、フロントのサークルが目を引くロエベのルック。さまざまな文脈をくみながらアーティスティックな表現をつきつめるブランドの精神性と、作品から見いだせる文化の 邂逅は、どこか似ている。
『小さい忘れもの美術館』- 河口龍夫
2005年に廃線になった、のと鉄道の旧飯田駅。"忘れられた"駅舎を、前衛芸術家・河口龍夫は、再び誰かの忘れ物で満たして展示する。すべてをビビッドなイエローで覆い、小さなミュージアムに。ロングTシャツ、水筒、サンバイザー、傘、鞄……。かつての用途を失い、空間を構成するオブジェクトとなったものたちは、その存在について私たちに静かに問いを投げかけている。そんな情景に、同色で潔く溶け込みたい。たっぷりとしたフリルと、パフィーな量感がドラマティックな趣に。ここにある記憶に思いを馳せて。
『Autonomo』- カールステン・ニコライ
ベルリンを拠点に活動するカールステン・ニコライは、Alva Notoという別名での音楽活動も。元保育所でのインスタレーションは、天井から無数のアルミ合金の円盤が吊り下げられたもの。送球されたボールがランダムにそれらに当たり、音が反響する。その"遊び"は、かつて子どもたちが戯れた施設の余韻とリンク。そして、円のイメージはスパンコールが連なる服へとつながる。華やかなショール、モノトーンの花柄や赤いウールセーターという組み合わせには、ファッションの遊び心も宿して。
『時を運ぶ船』- 塩田千春
赤い糸が張り巡らされた空間。モード界でもファンの多い作品は、生と死という人間の根源的な問題に向き合い続けている塩田千春のもの。珠洲に残る「揚げ浜式塩田」にまつわるエピソードに着想を得た。土地に由来する記憶と心をつなぎ、ダイナミックに広がっていく。真っ赤な生命力をともに感じさせる一着は、バレンシアガから。90年代のトラックスーツをヒントに、アウターウェアに落とし込んだ。キャップの陰から、まっすぐな瞳がのぞく。
塩田千春『時を運ぶ船』©JASPAR,Tokyo,2021 and Chiharu Shiota
『珠洲海道五十三次』- アレクサンドル・コンスタンチーノフ
珠洲市の住民が日常的に使うバス停をアートピースに。1953年・モスクワ生まれのアレクサンドル・コンスタンチーノフは、見慣れた風景を新たな姿へと刷新。4カ所に点在するこれらは、無機質なアルミニウムのパイプで覆われながらも、どこか有機的な表情で私たちを迎える。脇にある"木陰"に紛れるように立つのは、かすかに日常に違和感を残す装い。シルククレープデシン素材のドレスは、着物のようなケープスリーブが印象的。星のモチーフを、隙間からのぞかせて。作品を構成するシルバーにあえてゴールドのインナーを選び、対比させてみたい。
『真脇遺跡/環状木柱列』
縄文時代前期から晩期までの約4000年間、人々が住み続け、暮らした痕跡を伝える遺跡。そこにある、円状にそびえ立つ栗の木の柱は「環状木柱列」と呼ばれるもの。縄文時代晩期の北陸地方だけに出土する特殊な遺構であり、広大な土地で存在感を放つ。まとったポンチョはガブリエラ・ハーストのラテンアメリカ遺産から着想を得たデザイン。異なる歴史や文化がオーバーラップし、また新たな地平を描く。
アートの祭典をチェックしよう
自然や人々の営みとともに存在するアートが楽しめる芸術祭。場所と呼応するサイト・スペシフィックなアートを体験したい
text: Yuri Shirasaka
奥能登国際芸術祭2020+
能登半島の先端に位置する石川県珠洲市。里海里山を巡る3年に1度の芸術祭に、1年間の延期で構想を深めた53組が16の国と地域から参加。なかでも珠洲の大蔵ざらえプロジェクトを通し、古い記憶を宿したものたちを収集し甦らせる新しい劇場型民俗博物館「スズ・シアター・ミュージアム 光の方舟」に注目を。インドの作家、スボード・グプタは漂流物を使った大型彫刻でSDGsを問う。
DATA
〜11月5日 石川県珠洲市
電話:0768-82-7720(奥能登国際芸術祭実行委員会事務局)
『私のこと考えて』スボード・グプタ
スズ・シアター・ミュージアム「光の方舟」©南条嘉毅
北アルプス国際芸術祭2020-2021
北アルプスの自然の循環が育む森と生活文化、長野県大町市の魅力をアートの力で引き出し、世界に発信する3年に1度の芸術祭が、コロナ禍での1年延期を経て開催される。「水・木・土・空」をテーマに、「市街地」「ダム」「源流」「仁科三湖」「東山」という風景の異なる5つのエリアで11の国と地域から38組の作品が展開される。土地とアートの爽やかな共演に深呼吸したくなる。
DATA
アート会期 10月2日〜11月21日
長野県大町市
電話:0261-85-0133(北アルプス国際芸術祭実行委員会事務局)
『信濃大町実景舎』目 photo: Tsuyoshi Hongo
『源汲・林間テラス』川俣正 photo: Tsuyoshi Hongo
MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館
広大な奈良県奥大和で3つのエリアに「森」(吉野)、「水」(天川)、「地」(曽爾)とテーマを据え、それぞれ3〜5時間のコースを歩きながら、自然や歴史などに想を得た国内26組のアートを鑑賞する。車移動が多い芸術祭の中で、自分の足で歩く実感が得られる。2回目の今年は3つのエリアをつなぐ企画も予定。心と体が生き返る。
DATA
10月9日〜11月28日 奈良県 吉野町、天川村、曽爾村
電話:0744-48-3016(奥大和地域誘客促進事業実行委員会事務局)
『鹿が見てる』木村充伯 photo: Yuta Togo
『JIKU #006 YOSHINO』 齋藤精一 photo: Yuta Togo
SOURCE:SPUR 2021年11月号「私はアートになる」
photography: Mai Kise styling: Tomoko Iijima hair & make-up: Hiroko Ishikawa 〈eek〉 model: Hanna