脱ベーシックのトレンドを、4つのパートでピックアップ
どんな人でも等しく暖かく包み込む、これからの季節に欠かせないニット。定番アイテムとしてワードローブに不可欠なだけでなく、エッジのあるシルエットやボリュームも豊富に揃う。最旬のレイヤードテクニックやエターナルな名品、スタイリストの偏愛アイテムまで。多角的にニットの魅力を徹底検証!
Part.2 10年先も愛せる至高の名品を一枚
よいものには確固たる理由がある。知れば知るほど長く愛せるようになる今年の逸品
Hermès
初めて触れた瞬間から、とろけるような極上の肌感覚の虜になりそう。エルメスを代表するカシミヤ・ダブルフェイスのストールは独自の伝統的な技法で作られており、長く使える名品のひとつ。カシミヤの繊維はネパールで飼育される山羊の腹部の毛を手ですいて採取。2層のカシミヤが重ねて織られ、職人の手によって縫い合わせられるので柔らかさを保ちながら、丈夫さも兼ね備えている。複雑な工程も含めほぼ手作業で行われている。カシミヤ製品のラインナップの中にはベレー帽も展開があり、こちらはチャーミングな表情だ。エルメスのコードである「クルー・メドール」のスタッズがちりばめられ、上品でありながら、どこかパンキッシュさも感じさせる。使っていくうちになじんでいきそうな風合いも魅力的。
ベレー帽¥95,700・ダブルフェイスストール〈70×175㎝〉¥165,000/エルメスジャポン(エルメス) 03-3569-3300
Loro Piana
肌に直接触れるニットは五感を刺激するアイテムだ。ロロ・ピアーナのニットはその手ざわりと着心地のよさが秀逸。今季を象徴する濃厚なグリーンのニットは生後1年未満のヒルカス仔山羊の下毛をすいて集めた一生に一度しか採取できないベビー・カシミヤだ。体を包み込むプルオーバーはリラクシングな着心地をかなえる。フラットなリブ編みにすることで、エレガントすぎず、スポーティなムードをほどよく加えている。ストレートシルエットの同素材のボトムとセットアップでまとえば、素材のよさを全身で体感できる。
プルオーバー¥345,400・パンツ¥345,400/ロロ・ピアーナ ジャパン(ロロ・ピアーナ) 03-5579-5182
The Elder Statesman
2012年にCFDA/ヴォーグ・ファッション・ファンド賞を受賞して以来、モード界でもファンを増やし続けているジ エルダー ステイツマンのニット。LAを拠点とするアート&ライフスタイルカンパニーとして、アート性の高いデザインに定評がある。さらに仕上げの洗浄の際には環境への負荷に配慮した洗剤を用いて、使用する水の量を最小限にする努力も。定番の黒と白のカシミヤのハイネックやプルオーバーは手持ちのワードローブとの相性もよく、リピーターも多数。今季はロンハーマン別注のグレーコレクションもローンチ。ますますデイリーなスタイリングに寄り添う存在に。少し毛羽立ったようなレトロな表情もいとおしいヘビーウェイトのカシミヤは、デニムに合わせたい。
ハイネック¥118,800・プルオーバー¥102,300/サザビーリーグ(ジ エルダー ステイツマン) 03-5412-1937
Burberry
英国クラシックなムードを感じさせるバーバリーのリブニットセーター。イングランドで織り上げたウールはネックや肩などのラインが型崩れしないしっかりとしたリブ編み仕立てになっている。取りはずしできるシルクのスカーフは、今季のコレクションを象徴するジオメトリックプリントがアイキャッチ。襟元のループに通せば、シンメトリーの星モチーフが胸元に輝くデザインだ。スカーフをはずせば、上質でプレーンなVネックニットとしても活躍するので、長く使える相棒になりそう。仕立てのよいパンツと合わせてワークシーンに、デニムと合わせてカジュアルすぎないデイリーなアイテムとして、幅の広いスタイリングにフィットする。
スカーフつきプルオーバー¥171,600(予定価格)/バーバリー・ジャパン(バーバリー) 0066-33-812819
CFCL
新進気鋭の日本ブランドCFCLはClothing For Contemporary Life(現代生活のための衣服)を略したネーミング。今の時代を生きる人人のための洗練されたワードローブが注目を集めている。ブランドの中核となる技術、3Dコンピューター・ニッティングはユニークなデザインを可能にするだけでなく製造における廃棄も少ない。"POTTERY DRESS"と名付けられたロングスリーブのフレアドレスはその名のとおり陶器のような丸みを帯びたシルエットを描いている。100%再生ポリエステルを使い、襟ぐり以外は縫い目のないホールガーメント製法を用いているので、肌にあたるストレスが軽減。ライトグレーに鮮やかなイエローを組み合わせたデザインは、立体的なシルエットと相まってアート作品のような佇まい。未来を見据えたニットの今後に各界から熱視線が注がれている。
ドレス¥68,200/CFCL cfcl.jp
AYNI
「AYNI」とはペルーの一部の地域で話されているケチュア語で「今日は私のために、明日はあなたのために」という意味の言葉。品質には気を配りながらも、コミュニティとしての幸福も大切にし、両立しようとしているブランドだ。デンマーク出身のデザイナー、レアーケは彼女の母国であるペルーでパートナーのアンドリアと出会い、ふたりでブランドを始めた。古代インカから伝わる職人たちの技を守る、女性のリーダーシップをサポートする、エコフレンドリーな繊維を使うなど、独自の8つの目標を掲げ、作業工程の透明性も保っている。ふわりとした着心地のマルチカラーのニットはすべてハンドメイド。国内の認定を受けた2100人以上のペルーの職人たちが丁寧に作っている。まさに大切に着たいと思わせる一着だ。
ハンドニットプルオーバー¥49,500/ショールーム ウノ(AYNI) https://showroom-uno.com
SKALL studio
個性豊かなニットのコレクションを一目見た瞬間に、今すぐワードローブに迎えたい!と思うはず。デンマークの姉妹、ジュリー&マリーによるスカル・スタジオはリアルなスタイリングのアイデアの宝庫。彼女たちが提案する女性像は知的でクリエイティブなムードをまとっている。シードステッチやケーブルステッチを配した"ノアニット"はデンマーク産の羊毛を使い、縫製までを国内で完結している。一着一着が少しずつ表情が違うのは手仕事ならではのご愛嬌。そんなところも愛着が持てるポイントになる。このブランドが目指すのは、持続可能なファッション、動物由来のマテリアルを最小限にすること、デザインと開発のサステイナブルなアプローチを考え続けること。現代的な思想を掲げたニットブランドを選ぶことは、意思のある消費行動につながっていく。
プルオーバー¥53,900/ショールーム リンクス(スカル・スタジオ) https://links-partners.com
Motohiro Tanji
「モトヒロ タンジ」デザイナーの丹治基浩は英国ノッティンガムトレント大学MAニットウェアデザイン科を首席で卒業した経歴の持ち主。手編み、自動機、家庭機を駆使し、独自の編み地を開発している。ニット素材のアート作品も発表するなど、アーティスティックなアプローチはモード界でも話題だ。ニットでトータルコーディネートできるように、ウェアから小物まですべてのアイテムを制作しているのもユニーク。今季は"多層球"と名付けられた細かいディテールが連なったオブジェから着想を得て、写真のトップスを考案した。20種類以上の編み地を組み合わせたニットケープとショーツは唯一無二の存在感。ニットが持つ可能性を広げていく、高い技術力をぜひ体感してほしい。
ニットケープ¥440,000・ニットショーツ¥30,800/エスティーム プレス(モトヒロ タンジ) 03-5428-0928
SOURCE:SPUR 2021年12月号「脱ベーシックのトレンドを、4つのパートでピックアップ 攻めのニットを手に入れる」
photograpy: Masaya Tanaka 〈TRON〉 styling: Arisa Tabata edit: Michino Ogura