ガーリー・モードを牽引するアナ・スイとバットシェバ・ヘイがコラボレーションすると聞きつけ、ニューヨークにて緊急取材! SPURが愛する二人のデザイナーが、その全貌を語る。
ANNA SUI●デトロイト生まれ。パーソンズ美術大学でファッション・デザインを学び、1991年にコレクションデビュー。ロックのリズム感あふれる万華鏡のような世界観は唯一無二。アメリカを代表するデザイナーとして、高く評価されている。BATSHEVA HAY●ニューヨーク生まれ。デザイナーになる前は、弁護士として活躍。着たい服は自分で作るしかないと、5年前に自身のブランドを設立。ヴィクトリアンをはじめとするヴィンテージムードのドレスが注目され、一躍人気ブランドに。
ANNA SUI ↔ BATSHEVA コラボレーション・アイテムを紹介
プリントものが好きな二人が、互いの生地をトレードして生まれた作品。表情が少し変わった両者のシグネチャースタイルが魅力的に生まれ変わった。
アナの新作生地を使ったバットシェバのシグネチャーブラウス。「ジーンズと合わせてもヴィンテージのスカートでもOK。柄物のボトムと合わせると楽しい」とバットシェバがアドバイス。
印象派絵画のようなバットシェバの生地を使ったアナのトップス。アナいわく「ヴィンテージのリーバイスのようなジーンズとベストマッチ。足もとはトラッドなローファーがおすすめ」
アナ スイの2022年リゾートコレクションの生地でバットシェバが製作。この企画で二人が
イチ押しのドレス。「足もとはスニーカーでもハイヒールでもおしゃれ」とバットシェバ。
バットシェバの生地でアナがデザインしたストラップレスのドレス。「編みタイツにドクターマーチンのような無骨なブーツを合わせるとクール。ドレスの下にTシャツを着るとよりモダンなスタイリングに」とアナ。
きっかけは、二人のおしゃべりから!
出会ってすぐにお互いの共通点を見つけたアナとバットシェバ。コラボレーションの経緯を
SPURだけに教えてくれた。さらに、アナの姪たちが活躍するスペシャル動画の撮影現場もキャッチ!
二人の出会いは3年前。アナはソフィア・コッポラのパーティで見かけた黒白のギンガムチェックのドレスに釘づけになった。同席していたスタイリストの友人が勇気を出して、そのドレスを着た女性に「どこのブランドですか?」と尋ねたら「バットなんとかというデザイナーのはず」との返事。それを聞くなりアナは「これがバットシェバの服なのか!」と感動した。というのも、バットシェバは当時デビューしてまだ2年目にもかかわらず、おしゃれな女性たちの間で評判だったデザイナー。アナの姪たちもバットシェバの大ファンで、彼女たちから服の話を聞いていた。そこで早々に友人を介して彼女を紹介してもらった。「アナ・スイが私のことを知っていたなんて、なんと光栄な!」と最初はびっくりしたバットシェバだが、初対面のときから意気投合し、心が共鳴し合える友人関係となり今回のコラボレーションが生まれた。
"好き”でつながる、コラボレーション
アナ・スイ(以下A) この企画は、けっこう軽いノリで始まったのよね。
バットシェバ・ヘイ(以下B) グッチとバレンシアガのクロスオーバーがとても面白くて話が盛り上がったのが、きっかけといえばきっかけだったわね。
A そう、私たちも何かできないかしら?と。その頃、私はリゾートコレクションの製作が始まっていて、新作のプリント生地ができ上がっていた。そこで、生地を交換して服を作ることを考えたのよね。
B 私は昔からアナのプリントが大好きで、アナがデザインした生地を使えるのがうれしかったわ。
A 私たちは柄好きでドレスが大好きでフェミニンなスタイルが好きという共通点があるし、私はあなたのヴィクトリアン・スタイルが大好き。
B だから私の生地でアナのスタイルを作り、私がアナの生地で洋服を作るのは、それほど難しくないと思ったわ。二人のデザイナーの協業というと、服作りの姿勢が違うので難しいと思われがちだけど、私たちは違ったわね。
A 本当にたくさんの生地を見て、いろいろなスタイルを考えて、二人でしっかり話し合うことができたから、よいものが作れたと思うわ。それに私の姪たちがあなたの大ファンだったことも大きいわね。あなたの家に姪たちを連れていって、どのスタイルが好きか選ばせたでしょう? そのスタイルがデザインのベースになったし。
B 私にはコアなスタイルがあるから、今回もそれを使おうと思っていた。生地を互いに見せ合い、デザインを送り合って、いっぱい話し合ったわね。
A だから、途中で暗礁に乗り上げることなく自然に進行していった感じ。私の場合は、リゾートコレクションの着想源もカラーストーリーもすでに決まっていたから、そこにコラボレーションの布を当てはめて製作することにしたの。1920年代のウィーン工房のデザインで、その要素を作品に反映させていった。
二人は最強の リバース・メンター
B あなたはコレクションごとにきちんとムードボードを作って製作していくでしょ。私にはできないわ。あなたのアトリエはすべてがオーガナイズされていて、何がどこにあるのかすぐにわかるようになっている。私はいつもごった煮状態。それに、大成したデザイナーの中にはエゴの強い人がいるけれど、あなたは本当にエゴのない人。一緒に仕事をしてすごく新鮮だったの。私はデビューしてまだ5年目で、経験不足だから、あなたがファッションやビジネスの経験を惜しげもなく教えてくれて本当に感謝しているし、うれしい。
A 私はあなたから今の時代のビジネスやマーケティング、インスタグラムの活用法とか、いろいろなノウハウを教えてもらっているからお互いさまよ。だってファッション・ビジネスは時代とともに変化をしていて、今までと同じやり方では追いつかない。あなたを見ているとすごくリフレッシュされるの。というのは、今の時代のつかみ方がわかるというか、新しい世代が求めているものがわかるようになる。
B 今の若い人たちは、ファッションでも何でも、何か限定的なものを少しだけ提供されるのが好きだと思う。だから今回も期間限定で少数にしている。
A まさに新しい形のエキサイトメントだと思う。すべてが限定ということは、買い逃がしてしまったらおしまい。でも今の時代には合っている。
B ところで、私たちの服はパーソナルスタイルから生まれているでしょ? 今の風潮だと、いろいろなボディタイプの人に幅広く愛される服作りが大切と言われるけれど、私は自分が着たいものしか作れない。
A 私もそうよ。自分が作ったものが着たい。着たいから作る。
B あなたの服の魅力は見栄をはったところがなくて、明るく楽しいところ。ちょっと風変わりなところがあるのだけど、それがたまらなく魅力的。ソフトな感じが必ずある。
A そう言ってもらえるとうれしいわ。 私はね、着心地が一番だと思うの。精神的にも肉体的にも締めつけられるのは嫌だし、特に今は必要以上に作りすぎた服は着たくない。あなたの服を見ていると、服に求められる新しさとは何なのだろう?って、考えさせられるの。これまで言われてきた「新しい」という感覚ではないもの。ヴィンテージっぽくてクラシックな印象だけど想定外だったところにある気がする。つまり想定外が新しい、というか。
B 確かに、そうかもしれない。ヴィンテージが好きだけど、着てみてウエストの位置がおかしい、フリルがつきすぎているとか、細かなところを自分で修正していたから、それが今の服作りにつながっている。服のイメージも子どもの頃のドレスの記憶だったりして。自分のために夢のドレスを作っている、という感じかな。
A 私たちの共通点はまだあるわ。年齢に関係ない服作りをしていること。よくどんな女性に向けて服を作っているかと聞かれるけれど、私はいつも年齢ではなく着る人のスピリットが大切、と答えている。ヴィンテージ・ファッションを愛して着飾るのが大好きな人たち。私たちの服は大衆的じゃないけれど、お金をちょっとセーブして、きれいな柄やディテールが気に入って、目あての服を買う人たち。今回の服はいつものアナとちょっと違う、でも好き、と言ってもらいたい。
B ファッションは年齢ではなく、その人の心に響いたら着ればいい。
A ファッションには、自身のパーソナリティを見せたり、意思を表現したりする役割がある。言葉と同じように。
B そして人間の一番外側の皮膚なのね。また、人柄や職業を表すものだと思うし、気持ちを引き締めたり、気分を爽快にしたりもする。
A 毎日の暮らしのモチベーションになるってことね。私は寝る前に、「明日は何を着ようかな?」って考えるのが好き。ワクワクしてくるから。
B 実は、昔はファッションの大切さを考えたことがなかったの。デザイナーになる前は弁護士だったから。ファッションに何の意味があるの?もっと重要なことがあるでしょう?みたいに思っていた。でも今は、ファッションは人々の日々の暮らしに必要なベーシックだと考えるようになった。ファッションは私のアイデンティティを表す重要なもので、その時々の自分の内面のムードづくりをするのに欠かせないものだということを知ったわ。
アナ・スイの姪が監督・主演。スペシャルムービーの裏側を追う!
コラボレーションの宣伝動画はアナの二人の姪が大活躍。監督は映像作家、写真家のジニー、モデルは女優志望のチェイスが務めた。
SOURCE:SPUR 2021年12月号「アナ スイとバットシェバが出会ったら」
photography: Akira Yamada make-up: AYAKO (Anna Sui) interview & text: Teruyo Mori