今いちばん気になるブランドを深掘り。メリル ロッゲに、愛を叫ぶ!!

2年半前のコロナ禍初期にデビューし、モード界に新風を吹き込んだベルギーの新星、メリル・ロッゲ。自由で多様なクリエーションの魅力について、メリル自身やファンたちの言葉をもとに探求する

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アトリエ兼自宅で、定番"デコンストラクティッド・シャツ"の新色をまとったメリル。背後に見えるのは秋冬コレクションのためのニットの試作やムードボード。

メリル・ロッゲが語る、ブランドへの思い

田舎の一軒家で構想した新作は、誰しもの内面に潜在する複数の顔を表現するための服

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メリルの住まいはゲントから約17㎞離れた田舎にある、農家の納屋を改築した一軒家。彼女が着ているのは、ヴィンテージの毛布をパッチワークした秋冬物のアップサイクル・コート。

アイデンティティは、ルールを設けない自由さ

自由で、多種多様。ベルギーの新星、メリル・ロッゲのものづくりは、この一言に凝縮される。つかみどころがないようでいて不思議と統一感がある彼女のコレクションでは、メンズシャツやジーンズは解体・再構築され、素朴なニットはファンシーなレースで飾られ、  平凡なジャケットやコートは無数のポケットでユーティリティ・ウェアに変化する。襟やフリルは大げさなボリュームで、マフラーは床につくほどの長さ。クチュール的なジャケットはオーバーサイズだ。クラシックとアヴァンギャルド、グラマラスとスポーティ、レトロとモダン、フラジャイルとラフ、フェミニンとマスキュリン……。相反する要素の交錯によって生まれるミックス&マッチは、常にどこかひねりが利いている。彼女はそれをベルギーらしさかもしれない、と言う。

「ベルギーではちょっと車で走っただけで、多様なスタイルの家があるのに気づくと思うわ。みんな好きなものが違うのね。モードに関しても同じこと。パリやロンドンにはそれぞれの色があるけれど、かつての“アントワープの6人”と呼ばれたデザイナーたちの中でマルタン・マルジェラとドリス・ヴァン・ノッテンはまったく違うスタイルでしょう? ベルギーは大国に隣接した小さな国で、イギリス、フランス、ドイツと各方面から影響を受けている。それが逆に表現の自由へとつながっているんだと思うの」

アントワープの近く、クラシックとオルタナティブが共存するゲントからさらに離れた田舎に構えた一軒家内のアトリエで、窓から緑を眺めながら、メリルは語る。そしてこの国がルネ・マグリットやポール・デルヴォーらシュールレアリスムの画家を生み出したことにも触れる。

そんな彼女のシグネチャーは、さまざまな解体・再構築のプロセスを経て作られる“デコンストラクティッド・シャツ”だ。
「ヴィンテージのシャツを分解して組み直すこともあれば、一枚の布から作り上げるケースも。またはフォトショップで作った画像を基にパターンを組み立てたりもする。でもこのデザインを続けるかどうかは決めてないわ。私のコレクション自体、時と共に進化すると思うし」。とにかく“ルールがないのがルール”がメリル流だ。決まりがあるとすれば、「長持ちするクォリティ、飽きのこないシルエットで、クラシックをコンテンポラリーに仕上げること」と、メリル。

実はアントワープ・ロイヤル・アカデミーに入る前の彼女の専攻は、なんと法学。もちろんファッションとは直接関係ないが、「バックグラウンドは何かしらの形で、後のキャリアに関わってくるはず」と、メリルは言う。「法の世界では、長い複雑な書類を読み込み、何も見落とさず進めることが不可欠。そんな勉強をしたことは、多くの要素が絡み合うファッション・ビジネスにおいて役に立っているかもしれない」。既成概念にとらわれない彼女の自由さは、こんな堅実さに基づいているのだ。

アカデミー卒業後、マーク ジェイコブスとドリス ヴァン ノッテンで経験を積んだメリル。彼女が自身の名を冠したブランドをローンチしたのは、ほんの2年半前のこと。折しもコロナ禍前夜の2020年春、やっと完成したファースト・コレクションは、アポイントメントで少数のバイヤーとプレスに細々と紹介することになった。そんな苦境にも反して彼女はじわじわと注目され、今年の春にはLVMH賞のセミファイナリストに。同時に2022ー’23 年秋冬コレクションは、初めてフィジカルに披露することができた。ディナー・テーブルの周りを最新作をまとったモデルたちが歩き回り、ゲストたちにもドリンクがサーブされて、まるで架空の晩餐会のような凝った演出のプレゼンテーション。テーマは、“コネクションの乏しさ”だった。

「シンディ・シャーマンの作品集『A Play of Selves』にインスパイアされたの。人の内面にはいくつかの人格が共存するものの、それぞれの個性の間には、必ずしも関連性、強いコネクションがない、という彼女の考えに共鳴して。服は自身のアルター・エゴを表現する手段でもあるし。LVMH賞の審査ではシンディとZoomで話すこともできて、感動したわ」と、哲学的かつ情緒的な一面を見せる。

「大切なのは、美しいものに驚きを感じること。誰もが認める美しさでなくとも、自分だけが美しいと感じればいい。まるで恋に落ちるときのように。そして、こんな感情を他人とシェアしたいと思っているの。できれば次世代にも伝えたい」

田舎に住み、人間らしい価値を大切にし、自然体でクリエーションに取り組む。メリル・ロッゲは、コロナ禍デビューの新世代を象徴するクリエイターだ。

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生地ストックの上に置かれたキャップは、既存品に自身のロゴをのせてシミュレーション。

Profile
Meryll Rogge
ベルギー・ゲントに生まれ、アントワープのロイヤル・アカデミーでファッションを学ぶ。卒業後ニューヨークに渡り、7年間マーク・ジェイコブスに師事。その後アントワープに戻り、ドリス ヴァン ノッテンのウィメンズ・コレクションのヘッド・デザイナーに。2020ー’21年秋冬コレクションから自身の名前を冠したブランドをスタート、今年はLVMH賞のセミファイナリストに選ばれた。

photography: Sloan Laurits interview & text: Minako Norimatsu

この秋買える、メリル ロッゲの最新

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コート¥262,710・シャツ¥75,060・ウエストピースつきデニムパンツ¥181,400・スカーフ¥81,320(すべて参考価格)/Pred PR(メリル ロッゲ) 

襟や前立て、袖口を、あるべき場所からずらして留めることができるシャツは、自在なアレンジが可能。メリノウールのスカーフは細い幅とリブがアクセントに。トレンチコートは、袖や身頃を過剰なくらい大きく設定し、フレッシュな印象の一着に生まれ変わらせた。オーセンティックなデザインをアヴァンギャルドに再構築したアイテムの掛け合わせ。これぞメリル ロッゲと言えるスタイルだ。

日本のファッションプロから届いた熱烈なラブコールと共に、最新コレクションをご紹介

大人になってから、忘れていた感覚が思い起こされるアイテムに魅力を感じます。たとえば、アルバイトをして購入した憧れのブランドの服を大事に着ていた記憶や、母親のクローゼットからブローチを借りた日のことなど。誰もが通過した「服に目覚めたときの衝動」「日常的に経験したファッションへの憧れや自己主張」を思い出させてくれる服なんです。
ー西脇智子さん(ヴィジットフォー ディレクター)

確かなオリジナリティを感じます。ほかにはない雰囲気のあるブランドって、やっぱり素敵。一着で気分を高めてくれるのも好きなところです。ただ派手というのではなくて、クラシックな素材を使っていたり、シルエットが精巧できれいだったり。それを、今の時代に合うようにアップデートしてる。個性的なのに気が利いていて、そのバランス感が絶妙です。
ー吉田佳世さん(スタイリスト)

大人の女性に似合う、ユーモアたっぷりのデザインに惹かれます。そして、メリル ロッゲの服を着るとポジティブなエネルギーに満ちあふれる気がするんです。小粋なデザインはベーシックなアイテムに合わせやすく、それでいてそっとスパイスをふりかけたようなこなれたスタイリングが完成する。日常を輝かせる服だと思います。
ー早川すみれさん(スタイリスト)

コロナ禍のまっただ中、世の中が閉塞的な気分になっているときに現れた強い存在感の服。メリル ロッゲデビューは、ファッション界にさした希望の光でした。Jorre JanssensとSloan Lauritsが撮る、パーソナルなルックとビジュアルも心にスッと入ってきて大好きです。その写真がファッショナブルだけど日常的に着たくなる、そんな気持ちを高めてくれます。
ー須貝朗子さん(スタイリスト)

「ドリス ヴァン ノッテンのヘッドデザイナーが独立して、新たにブランドをローンチする!?」と衝撃を受けたのが、2020−’21AWのことでした。コレクションには"フェミニニティの極地"ともいえるランジェリー風アイテムが必ず入っているのですが、それらに合わせるのはメンズライクなアイテム。「柔」と「剛」の融合が素晴らしく、ときめきが止まりません。
ーHORIE(SPURエディター)

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スカート¥98,000(参考価格)/Pred PR(メリル ロッゲ)

ワークパンツのインシームを解体したような、ユニークなデザインのスカート。カジュアルなアイテムながら深いスリットが、エレガントなムードを漂わせる。ブランドデビュー時から展開が続くマキシ丈スカートの最新形は、太畝コーデュロイのレッドのほか、ブラウン、デニム素材などバリエーション豊富に揃う。

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シャツ¥87,570(参考価格)/Pred PR(メリル ロッゲ)

最新コレクションは、クラブシーンなどナイトライフのスピリットやファンタジーへのリスペクトが込められている。ダイナミックにフリルがあしらわれたシャツは、1970年代のディスコダンサーからインスピレーションを得たもの。長めのスリーブと着丈で、レトロスペクティブなアプローチもモダンなバランスに。

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ニット¥87,570(参考価格)/Pred PR(メリル ロッゲ) アンダーウェア/スタイリスト私物

やさしげなアイスブルーとコンパクトな仕立てがきれいなニットシャツを、大胆にカット。ウエストの上部に加えて、両袖口のリブも途中でカットオフされている。斬新なアプローチを、上質素材で表現するのがメリル ロッゲ流。素材は、うっとりするほど柔らかな肌ざわりのカシミヤだ。

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ジャケット¥256,460(参考価格)/Pred PR(メリル ロッゲ)

目を引く幾何学模様は、サッカーボールがモチーフとなっている。オーバーサイズのフォルムが、クラシックなメンズウェアを想起させるキルティングジャケット。イブニングドレスに多用される艶やかな光沢のシャルムーズ生地で仕立て華やかな表情に。メリル ロッゲのクリエーションに通底する折衷主義が光る一着。

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ソックス 各¥22,940(ともに参考価格)/Pred PR(メリル ロッゲ) 靴¥104,100(輸入関税込み・参考価格)/ファーフェッチ カスタマーサービス(ピフェリ)

ミニボトムを多く提案した今回のコレクションでは、それに合わせるためのニーハイソックスも登場。両サイドの"MR"のグラフィックに加えて、足裏には"Meryll Rogge Est.2020"の文字の刺しゅうが施されている。

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キャップ¥25,020・ネックアクセサリー¥60,470(ともに参考価格)/Pred PR(メリル ロッゲ)

フローラルプリントのキャップは、浅めのクラウンと長めのツバでコンテンポラリーなバランスに。フロントには、"ALL TALK(口先だけの人)"の赤い刺しゅう。「ファッションを楽しみ、愛することに、難しい解釈や言葉での説明は必要ない」という、メッセージが込められている。

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