2020年に始動したブランド、CFCLの勢いが止まらない。ブランドを率いるクリエイティブ・ディレクター高橋悠介さんの思考から、異色のクリエーション、サステイナビリティとの向き合い方を探る
目指すはサステイナブルで生活の道具のような服
再生ポリエステル糸をホールガーメントで編み、サステイナブルなアプローチとテクノロジーを交錯させたニットを製作。これまでにない斬新なコンセプトで、スタートから快進撃が続くブランド、CFCL。設立者でクリエイティブ・ディレクターの高橋悠介さんは、ファッションの枠にとどまらない発想で服作りを手がける。そのユニークな思考回路を追った。
「2013年からイッセイ ミヤケ メンのデザイナーとしてパリコレに参加していましたが、続けているうちにアパレル業界の環境汚染や雇用問題などが無視できない状況になりました。 それなのに、当時の私の仕事では、いい服を作って人に届けるところまでしかできない。そこに違和感を感じ始めたんです。これを解消し、心の底から誰かに着てほしいと思えるものを作るには、システムまでデザインする必要がある。 サプライチェーンを含めて、働く人全員に幸福をもたらす方法にしなくては、という思いが強くなって。そのためには自分の会社を設立する必要があると思い、2020年に独立しました」
さらに、娘が生まれたことやグレタ・トゥーンベリの活動の影響もあり、次世代に向けて真っ当な世界をつくるための努力をしたい。そう考えて立ち上げたのがCFCLだ。コレクションvol.1からLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)を実施。これは原料の調達から地球環境への影響を国際規格に基づいて算出し、評価を公開する手法で、脱炭素化の実現を目指すために行なっている。2022年には日本のアパレルブランドとして初めてBコープ認証を取得。Bコープは国際的な認証制度で、社会や環境における持続可能性などの点で企業のパフォーマンスを評価。細かい基準をクリアしているか、厳密に審査が行われる。取得するのは至難の業で、3年に一度アップデートしなくてはならない厳しい規定もある。
「CFCLは〝Clothing For Contemporary Life〞の略で、そうしたサステイナブルな哲学を根底に持ちながら『現代生活のための衣服』というコンセプトで作っています。今のファッションは自分らしさが大事。だからデザイナーの美意識をのせた服より、着る人の内面に沿う服がいい。ペンやコップなど、日常生活の道具に近い感覚です。
そして、①ソフィスティケーション、②コンフォート&イージーケア、③コンシャスネスの3つを兼ね備えた服であることを念頭に置いています。①に関しては、歴史的にニットはカジュアルウェアとされます。しかし、現代の都会に住む人のライフスタイルやドレスコードにフィットする服として、洗練を忘れてはいけません。②はメインで使っている再生ポリエステル糸の可能性を引き出して、今を生きている人の日々の営みに沿うようにしたこと。軽くてしわになりにくく、洗濯機で洗えて速乾性がある。コーディネートしやすく、旅行にも便利。伸縮性があるので体型やサイズを選ばず、世代もジェンダーも国境も越えられます。 ③は前述した持続可能性に関すること。グリーンウォッシュ(見せかけだけの環境配慮)にならないよう、透明性を高くし、改善点があればいつまでに行うか、情報を発信しています」
三宅デザイン事務所に入りたくて装苑賞を狙う
子どもの頃の高橋さんは、建築家だった祖父の影響で、建物の構造や製図に興味を持っていた。高校時代にファッションに目覚め、特にフセイン・チャラヤンに心酔。留学したロンドンのゴールドスミス・カレッジでは現代アートや美学、テキスタイルを学んだ。職を決める際は、ファッションかインテリアデザインの道かで悩んだ。結局、イッセイ ミヤケの質の高いテキスタイルと、三宅一生のもとでデザインを学んだ吉岡徳仁の椅子に衝撃を受け、三宅デザイン事務所を目指すことに。
「入社への近道は装苑賞を取ることだと思いついたのですが、その頃まだ服をまともに作ったことがなく、文化ファッション大学院大学に入りました。試しに受けた授業で、コンピュータープログラミングニットとの印象的な出合いがあったんです。ホールガーメントの機械であれば、パターンも自分が苦手な縫製も必要ない。そこでプログラミングを真剣に勉強しました」
試行錯誤の末、柔らかいテグスをホールガーメントの機械で編んだ服で見事、装苑賞を獲得。狙い通り、三宅デザイン事務所に入社できた。そのときにはすでに、ニットに計り知れない可能性を見ていた。
「CFCLの服は、ほとんどリブ編みとガーター編みでできています。リブは横に縮む性質があり縦に突っ張る。ガーターはリブを90度回転させた編み地のことで、縦に縮まり横に突っ張る。これを交互に組み合わせたら凹凸ができる。極端に膨らませたり縮めたり、穴を開けたりねじったり。そんなふうにプログラミングして服を作っています。学生時代から、ニットは建築的で面白いと思っていました」
古典には普遍的な本質がある。その域に近づきたい
コレクションにはいくつかのシリーズがある。ろくろで作った陶器を思わせるポッタリーや、ギリシャ建築の柱を連想させるフルーテッドなどで、多くに同じ糸を使っている。
「デザインには二つのアプローチがあります。一つは思いついたらとりあえず手を動かして、実験的に作ってみるパターン。その結果生まれたのがポッタリーやフルーテッドです。もう一つは、現代生活のための服には、どんなディテールがいいのかという、ゴールから逆算していくパターンです。たとえば、トレンチコートのようにスタンダードな服に残っている装飾は、それが生まれた時代には機能を持ち、必要とされていたものがほとんど。でも、現代生活に不必要だと思えば整理します。ファッションにはルーツがあり、その名残をデザインと呼んでいることも多いと思うんです」
ニットだけで作り上げたコレクションブランドは世界でも数少ない。そもそもニットは、ウールなどの糸の柔らかさや手仕事感を活かすのが王道であり、CFCLはその反対、もっとシャープで構築的な表現を目指している。
「ニットとモードの交差する地点として、最近特に意識しているのは、クリスチャン ディオール、イヴ・サンローラン、マダム グレ、エルザ・スキャパレリなど。40〜70年代にファッションの新たな歴史を切り開いたデザインを参考に、コンピュータープログラミングニットで作ってみると、すごく興味深いものが出来上がる。ファッション、特にパリコレはヨーロッパ文化に対するリファレンスの重要さをとても感じる舞台で、まったく別の文脈のものを作っても理解されにくい。だからヨーロッパで広く認知されているシルエットやコーディネートを、ニットだけで提案すると面白さを感じてもらえる。このことはパリコレに参加して、よりいっそう心に留めるようになりました」
2023年春夏シーズンは、60年代にイヴ・サンローランが人々をあっと言わせ、その後、定番となった名作を思わせるデザインにアプローチ。シースルーやパンタロンスタイル、セットアップスーツなどだ。服をプロダクトとして捉え、そのデザインエッセンスを薫らせている。
「最近は、プライベートでも今流行っているものより、文楽やクラシック音楽などの古典に魅力を感じます。イヴ・サンローランの服もそうですし、チャールズ&レイ・イームズやアルネ・ヤコブセンの名作椅子も、オーセンティックな魅力で現代まで大勢の人に愛され続けている。それはすごいことだし、そこに普遍的な本質がある。そういう服をCFCLで作りたいんです」
1985年生まれ。文化ファッション大学院大学を修了後、2010年に三宅デザイン事務所入社。2013年にイッセイ ミヤケ メンのデザイナーに就任。2020年に退社しCFCLを設立。毎日ファッション大賞新人賞などの受賞歴がある。