トレンドを分析し、次なる潮流を導き出すスタイリストたち。モードの目利きである3人が今の気分を表すキーワードとともに、なぜこのムードにたどり着いたのかを解き明かす。
Theme: Tight & Loose
「今季のコレクションに目を通していると、タイトシルエットが増えた印象を持ちました。80年代にも同じようなトレンドがありましたが、当時は女性が社会的に活躍し始めたタイミング。服を通してタフな姿勢を表現していたんだと思います。2023年の私たちが着るなら、どうするべきかな?と考えたことがテーマの発端です」
飯島さんといえば、トラッドやメンズライクなアイテムをモダンな女性像に落とし込んだスタイリングに定評がある。あえて、フェミニンなタイトシルエットのドレスを選んだ理由は?
「今年の個人的なテーマは"新しさ"。変わらず好きなものだけではなくて、もっと違う自分も発見してみたいんです。でも実際に着るなら、グランジなネルシャツやオーバーサイズシャツでルーズな要素もミックスして、どこかに自分らしさは残したい。強くてパワフルなだけの人物像ではなく、軽やかで柔軟なところもあったほうが素敵じゃない?という提案がしたいですね」
主役はセンシュアルなノースリーブドレス。胸もとやスカートのフロントに深くスリットをあしらっている。襟や裾のアシンメトリーな白のトリミングも、有機的な表情をつくり出している。そこに同系色のネルシャツを重ねて、相反する魅力を表現した。きちんと着るのではなく、肩を落として力の抜けたムードを加えると、こなれて見える。
要素を削ぎ落とすことで、女性の体の美しさを礼賛したヴァレンティノ。スキンタイトなトップスとマキシスカートのコンビネーションはそんな本質を表したルックそのもの。スポーティなアウターとオーバーサイズの白シャツをルーズに羽織って、そのストイックなムードにツイストを加えた。
photography: Hiroko Matsubara styling: Tomoko Iijima hair: Koichi Nishimura〈VOW-VOW〉 make-up: Masayo Tsuda〈mod’s hair〉 model: Nina edit: Michino Ogura
Theme: I Love Jeans
本誌3月号のカバーを飾った韓国次世代グループ、NewJeansに夢中な丸山佑香さん。そのムーブメントから着想を得たスタイルを考案してくれた。
「彼女たちにまつわるクリエーションには映画やヒップホップカルチャー、90年代的ガーリーな要素が随所にちりばめられています。まさにその時代を過ごしてきた身としては、それを体現する彼女たちにはもちろんのこと、同じ年齢のプロデューサーのミン・ヒジン氏にもっとも共感しています。大好きだったTLCを思わせる、ヒップホップだけどメロウなムードも感じる心地よさが秀逸」
グループ名にちなんで選んだのはジーンズ。
「私たち大人が取り入れるなら、女性ならではの着こなしを意識したい。おなかを出したり、シルエットを強調したり。自分に合ったフォルムを選ぶのがコツ。ちなみに、バージンヘアのようなロングにキャップをかぶっている姿もまねしたいので、私も髪を伸ばし始めました!」
色褪せたブラウンがモダンなムードへと誘うブリーチデニムのブラトップとスカート。サイドには深いスリットを加えて、ほどよくセンシュアルなニュアンスも。そこに加えたのは、NewJeansがよく着用しているハンドペイントアイテムを思わせる花柄ジャケット。クールな表情で着こなすアティチュードも重要だ。
ウエストを潔く見せる90年代風のトップスに、バギーなシルエットのボトムス。今年らしくまとうなら、ミニスカートのディテールを取り入れたパンツに挑戦したい。肌見せ具合をコントロールするデザインはヘルシーな色気を演出。ロングヘアにキャップでクールにバランスを取りたい。彼女たちらしいツイストとしてアームカバーも取り入れて。
photography: Keita Goto〈W〉 styling: Yuuka Maruyama〈makiura office〉 hair: HORI〈BE NATURAL〉 make-up: Shino Ariizumi〈TRON〉 model: Katie edit: Michino Ogura
Theme: Do It Yourself
2022年12月、ヴィヴィアン・ウエストウッド氏が亡くなったこともあり、ロンドンで暮らしていた頃に思いを馳せていたという吉田さん。
「彼女のショップ"ワールズエンド"にも行きましたね。リアルに体験した世代ではないものの、イギリスで触れた本場のパンクの衝撃は今でも薄れません。ミックスするのが楽しい服が豊富な今だからこそ、パンクの本質であるDIY精神に立ち返ってみるのが面白いかも、と思いました」
同じアイテムひとつとっても、スタイリング次第で自由にパーソナリティを表現できると語る。
「ジャケットだからといってきちんと着なくてはいけないルールはないはず。型にはまらず着崩したり、結んでみたり、たくさん重ねてみたりと実験するマインドが大切です。レイヤリングするうちに、ほのかにフェミニニティが立ち上がってくるのも不思議。パンクファッションを完全にコピーしたというよりも、昔の写真集を見て自分なりに取り入れてみたぐらいのゆるさが粋ですね」
ロゴTシャツの上にワイヤーを編み込んだビスチェをオン。メッセージ性を秘めたアンビバレントな表情に。さらに異なる柄のシャツを2枚重ね、ビッグサイズジャケットでまとめ上げた。カーゴパンツとドクターマーチンのブーツは永遠にパンクなマインドを秘めたアイコン。
オーバーサイズジャケットの手もとをくしゅくしゅとアレンジしつつ着崩すと、モードな抜け感が生まれる。シアーなトップスやフェティッシュなベルトなど意外なアイテムを加えても、モノトーンで揃えればまとまりのある仕上がりに。サイハイブーツから肌をのぞかせて、今年らしいテクニックも差し込みたい。
photography: Kiyoe Ozawa styling: Kayo Yoshida hair: Koichi Nishimura〈VOW-VOW〉 make-up: YUKA HIRAC model: Mikaela Oldenburg edit: Michino Ogura