【ドクターマーチン】がアーティスト、カナイフユキとのコラボモデルを発表。LGBTQIA+コミュニティと目指す、誰もが平等に暮らせる未来

ファッションや音楽に熱狂し、さまざまなカルチャーが生まれた1980年代は、同時に社会的マイノリティへの理解が今以上に少ない時代でもあった。そんななかで、アクティビストたちに支持されたブランドがドクターマーチンだ。平等な社会を目指し、自由のために行動する人々がタフなワークブーツを愛用したことで、反骨精神の象徴に。クィアの文化やアイデンティティをも代弁するアイテムへと昇華された歴史がある。

2018年からは、LGBTQIA+コミュニティを讃えるPRIDEコレクションをスタート。履き込むうちに特殊加工のトップコートが剥がれ、虹色の色彩が現れるブーツや、レインボーモチーフのカラフルなイラストで彩られたキッズブーツなどを発表している。さらに、2023年はPRIDEコレクションに加えて、LGBTQIA+アーティストとの限定コラボレーションモデルを製作。知名度にかかわらず、作品のメッセージ性やブランドとの親和性を鑑みて、UKのデザインチームが3名のアーティストにオファーした。全3型のコラボモデルは、4月から毎月1型ずつグローバルで展開される。そのうち、4月13日に発売された第1弾を手がけたのが、日本人イラストレーターのカナイフユキさんだ。

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カナイさんは、今回のオファーがあった際、驚きと不安があったと語る。「これまでの仕事とは規模が大きく異なる上に、PRIDEキャンペーンということがプレッシャーでした。僕ひとりでLGBTQIA+すべての声を代弁することはもちろん不可能なので、自分では力不足なのではないか?と思ったんです。世の中には“PRIDE”という言葉を掲げながら、実際には商業目的で行われるキャンペーンも多いのですが、ドクターマーチンと社会運動との密接な関わりを知り、ぜひお引き受けしたいと思いました」

誰もが平等に暮らせる理想の社会をイメージして

今回カナイさんがコラボレーションしたのは、アイコニックな「1460」8ホールブーツ。製造が開始された1960年4月1日に由来する名前を持つ、ドクターマーチンのファーストモデルだ。このアイテムに、日本を代表する文化である漫画から着想を得た、ユーモア溢れるアートワークをのせた。カナイさんがこれまでに発行してきたZINEに掲載されているコミックと同じスタイルを踏襲。多種多様な人々が個性を大切にしながら、楽しく平等に暮らせる社会をイメージして描いた。

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カナイフユキさんのイラストをあしらった、「1460 FOR PRIDE」8ホールブーツ¥31,900

「世界にはいろいろな人がいて、一緒に生きている。そんな当たり前だけど忘れてしまいがちなことをイラストを通して伝えたいと思い、このデザインにしました。幅広い着こなしに合わせやすいよう、モノトーンにしています」。トゥには「FOR PRIDE」というメッセージを入れ、アイコニックなステッチは黄色ではなく、日本国旗を想起させる赤で施されているのもポイントだ。

「ありのまま」を捉えたムービーを日本で撮影

コラボレーションモデルの製作に加え、今回は日本でイメージムービーも撮影。ドクターマーチンのクリエイティブチームと、LGBTQIA+当事者のTAIKIさん率いるOffice Brillerが共に手がけた。カナイさんのコミュニティをリアルに伝えるためにも、友人との日常を切り取った内容になっている。

「ムービーには、僕の作品に興味を持ってくれたことで親しくなった友人に出演してもらっています。ZINEで執筆した僕の文章をいつか書籍化したいと言ってくれている編集者と、素晴らしい活動を展開しているアイドルの2人です。撮影中は慣れないことの連続で、必死に対応しているうちに終了。ほぼワンテイクでの撮影だったので、たどたどしい受け答えになってしまいました(笑)。でも、ドクターマーチンのクルーも、ディレクションをしてくれたOfficeBrillerの皆さんもとても優しく、良い思い出になりました」

アートを通じて、小さな声をすくい上げる

カナイさんの活動は、叙情的でありながらユーモアも感じさせるイラストや漫画制作のほか、ZINEの発行、文筆など多岐にわたる。それらの作品の多くは「会話」がインスピレーション源となっている。

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「日常生活の中で交わす会話の中に、人間にとって大切なものがあると思っています。ひとりひとりの生活が積み重なって社会ができて、それが歴史になっていくからです。言葉を使わないアートでも作者の想いが伝わってくることがあるし、料理や服装などから人の想いを感じることもある。そうしたひとつひとつのことにインスピレーションを受けています。そして、作品を制作することで『世の中にないことにされているもの』を形にしたい。現時点で言葉になっていないこと、なっていても声が小さくて聞き取られていないこと、多くの人が知らないこと。そういったものを発信するように心がけています」

知る努力こそ、誰もが尊重される社会を作る第一歩

日本におけるLGBTQIA+を取り巻く社会問題は、まだまだたくさんあるのが現状。偏見をなくすために大切なのは、「知ること」だとカナイさんは言う。

「最近ネット上で過熱しているトランスジェンダー差別は、恐怖心を煽るデマが原因になっていると感じます。人は未知のものに恐怖を感じるもの。この種のデマが成立するのは、トランスジェンダーの実情を知らない人が多いからではないでしょうか。恐怖心は、知識で解消できることがほとんどなので、より正確でリアルな情報が広まるように世の中が変わる必要があると思います。SNSなどのプラットフォームは、収益よりも社会的公平性を重視する方向に変わっていくべきだし、オフラインでLGBTQIA+当事者やアライ(性的マイノリティを理解し支援する立場を明確にしている人々のこと)が交流できる場がもっと増えたら良いなと思っています」

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カナイさんが理想とする社会は、「いろいろな人がいることが当たり前」の世の中だ。「2022年に公開された『ボクらのホームパーティー』という映画のポスターデザインを手がけたのですが、この映画の主人公は7人のゲイ男性です。ゲイの登場人物が1人か2人だと、『ゲイ』や『ゲイカップル』という描写に終始してしまいがちですが、7人いるとそれぞれのセクシュアリティ以外の要素が際立ってくるんです。ゲイと一口に言っても、当然ながらいろいろな人がいると、映画を通して実感できたのは新鮮でした。“いろいろな当たり前”を増やすためも、こういったステレオタイプにとらわれない表現が増えていってほしいです」

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「『多様性』が本当の意味で守られるためには、さまざまな立場の人が衝突を恐れずに話し合い、意見をすり合わせる必要があります。でもその過程はとても面倒なものです。だからこそ、ひとりひとりがその面倒な話し合いに向き合うための言葉と心の余裕を持てる社会になれば良いなと思っています。そして、そのための努力をしていくべきだと思います」

PRIDEコミュニティをサポートするための活動

自由で平等な社会を目指すドクターマーチンは、2021年にUKでドクターマーチン基金を設立。これまでブランドと基金からの合計で30万ポンド以上を、LGBTQIA+を支援する慈善団体へ寄付してきた。日本でも2021年から、LGBTQIA+問題の今を変えることを目指す認定NPO法人「ReBit」を継続的に支援。今年からはUKのドクターマーチン基金のサポートも加わり、より大規模なバックアップとなる。そんなドクターマーチンに対して、カナイさんも大いに期待を寄せる。「この先もずっと、パンクやスケーターなどのDIY精神を大切にするカルチャーや、大きな権力に潰されないように声を上げるアクティビストたちの味方でいてほしいです。PRIDEコレクションも、すべての国のアーティストをフィーチャーするくらい拡大することを願っています」

カナイフユキさんプロフィール画像
アーティストカナイフユキさん

個人的な体験と政治的な問題を交差させながら、あらゆるクィアネスをすくい上げ、提示することをモットーに、イラストレーターやコミック作家として活動。アートのみならず、エッセイなどのテキスト作品や、それらをまとめたZINEの創作も行う。

東京レインボープライド2023への参加が決定!

レインボーカラーに染まる2日間

4月22日と23日に代々木公園で開催される東京レインボープライド2023に、ドクターマーチンの参加が決定。ドクターマーチンのブーツを履いたスタッフが、パレードで渋谷・原宿を行進する。企業ブースにはカナイフユキさんが来場予定。ZINEなどの作品を紹介するほか、チャリティアクションも行われ、ReBitの活動資金として寄付される。誰もが自分らしくいられる社会を目指すためにも、ぜひ出かけてみて。

〈開催日程〉 ※雨天決行・荒天中止
4月22日(土):11時~18時
4月23日(日):11時~18時

〈開催場所〉
代々木公園イベント広場(入場無料)

ドクターマーチン・エアウエア ジャパン
https://jp.drmartens.com/
0120-66-1460