毎年、シャネルの歴史や現在と結びつきのある都市をテーマに、シャネル傘下の専門アトリエの仕事をフィーチャーする、メティエダール コレクション。2023年6月には日本でも開催され話題を呼んだ。ここでは、2022年12月にセネガルのダカールで発表されたコレクションを紐解く。
メティエダール、それは熟練を極めた職人技の代名詞
ダカールの創造性とハッピーで自由なスピリットを、ヴィルジニー・ヴィアールのディレクションのもとパリの職人たちが表現する
パリとダカール、職人たちのダイアローグ
シャネル傘下の専門技術工房を1カ所に集めた、パリ19区のle19M。併設ギャラリーの初となる場外展の開催地は、ダカールだ
それまで点在していたシャネル傘下のメティエダール工房を集めて2022年1月末にオープンした、le19M。場所はパリ郊外の開発が盛んな地区、オーベルヴィリエと19区の境目だ。各分野の職人たちが一つ屋根の下で仕事をすることの利点は、意見を交換し、刺激し合えること。併設のギャラリーでは、ビジターに工房の作品の展示とワークショップを提案している。
そんなパリ/オーベルヴィリエのギャラリー、la Galerie du 19Mの場外展として披露されたのが、期間限定のギャラリー、le19M ダカールでの『Sur le fil展』だ。去る1月から3カ月間にわたり開催。ここではシャネル・メティエダールの代表として、刺しゅう工房のモンテックスがパリとダカールの合作を展示。もともとはパリで制作され、2022年10月に南仏イエールの国際モードフェスティバルで発表された作品だ。そこにダカールの古着店で調達したデニムや、廃物のプラスチックを素材に、現地のアートセンターの協力による制作ピースを合わせた。そしてキュレーターがテキスタイルをテーマに制作を任せたのは、フランスとアフリカ各地のアーティストたち。つまりシャネルという枠を超え、パリとダカール、異なる技術(メティエ)、そしてアーティストやアルチザン(職人)と一般市民、とあらゆるベクトルでの交流を意図した企画展なのだ。
若い世代に伝えたいのは、手仕事の素晴らしさ
「le19Mダカールは、過去と現在の対話を、未来へとつなぐ機会です」。シャネル グローバル ファッション部門 プレジデント兼シャネル SAS プレジデント、ブルーノ・パブロフスキー氏はこう語る。「シャネルの使命の一つは、サヴォアフェールを後世代に伝えること。この展覧会が現地の若い世代に、手仕事に携わりたいと感じさせる機会になれば」
思えば、昨年はフィレンツェでのイベントでも、シャネルは現地の学生たちを招き、ペネロぺ・クルスやキャロリーヌ・ド・メグレらと質疑応答の機会を提供した。「我々がサヴォアフェールに従事していることを伝え、手仕事というヘリテージをシェアしたいのです」と、氏は続ける。
ところで、なぜle19Mの場外展、しかもダカールなのか?「旅とは出会いであり、クリエーションの糧。世界の事象に触発されることで、カルチャーが混ざり合ったクリエーションが生まれるんです。ダカールには他国からやってきた多くのアーティストたちが住み着いていて、実にエネルギーにあふれています。だから単にショーを開催するにとどまらず、もっと広義でのこの地とのつながりを目指しました」
氏いわく、コラボレーションの仕方は何通りもある。ここでは、現地のデザイナーや職人たちがシャネル製品の製作にあたるわけでも、ブティックオープンを計画しているわけでもない。『Sur le fil展』に終わらず、旧司法宮の修復と整備を経済的に支援し、一方ではセネガルにおける極力エコロジカルな、最良の品質のコットンの生産にも取り組んでいるシャネル。だからこそダカールは、この展示を通じてシャネルを熱く迎え入れた。熱狂をそのままに、今度は本展が、パリへと旅する。ダカールではフランス語のタイトルだったが、パリでは西アフリカのネイティブ言語、ウォロフ語で。こんなディテールにも、シャネルが築くパリとダカールの良縁が象徴されている。

















