お茶を巡る、まほろばへの旅
太古の記憶を宿す、奈良の大地。そこは日本の原点ともいえる茶文化が息づく場所だ。自然とともに生きた大和人たちの暮らしにふれるとき、私たちの眠っていた五感が目を覚ます。4人のスタイリストが、自然界を賛美するスタイリングとともに、未来をつなぐひとつの物語を描き出す。
Kayo Yoshida
「子どもみたいに大地に寝転がり、草木の濃厚な根の香りを嗅ぐ。自然から生まれたような、ピュアな女性をイメージしました」
「自然界から受ける驚き、感動、その雑味の美をも、誌面に香らせたかった」と吉田佳世さん。自然と同じ目線で呼吸をしていた幼少の頃の記憶をたどる。
インドの女性の茶摘みスタイルをヒントにしたというスタイリング。朝露に輝く茶畑のような光沢を放つドレスは、服のシワと額縁をトロンプルイユで表現したもの。ヴィンテージシャツをカットし、パッチワーク＆アップサイクルしたシャツをレイヤードして。
ふかふかの落ち葉、苔むす木の幹、草花の鼓動。茶畑という小宇宙で生まれる香りを、心の中で調香していく。上質なコットン糸を使用したクロシェ編みのトップスは、すべて手作業で仕上げられたもの。アシンメトリーなフォルムに温かみとエッジィさを内包する。
Naoko Shiina
「口にした瞬間に広がっていく、味に対する悦び。それを光のプリズムやハレーション、被写体の動きで描きました」
「繊細さや、削ぎ落とされた簡素な美しさに、皆の想像も広がると思いました」と椎名直子さん。ドレスのビスコース素材は、持続可能な森林管理が行われていることを示すFSC認証取得済みの木材パルプを使用。サステイナブルな素材で自然に敬意を払う。
＂おやつ＂のことを、奈良では愛着を込めて＂ほうせき＂と呼ぶそう。「フォレストフレンドリー」なビスコースのドレスに、大地の色が輝く宝石を合わせて。
Tomoko Iijima
「人と人とのつながりを象徴する＂さわる＂という感情的な感覚。信頼のできる相手、正義感の強い女性を思い浮かべました」
人や家を守る、凛とした女性像を目指したという飯島朋子さん。＂触れる＂ことで生まれる安心感、信頼感を肌ざわりのよいナチュラル素材の服で表現した。
撥水加工を施した、軽量コットンシルクギャバジンのトレンチコート。シルクのプリントシャツは、1930年代に活躍した画家マルハ・マリョの作品をデジタルプリントした。
奈良時代、杣人と呼ばれる林業従事者たちが住んだという山添村にて。興福寺へ木材を供給する役割を担ったという。リネン、シルク、カシミヤ混のカーディガンジャケットは、軽やかなバスケット織りファブリック。ルーズなシルエットが心地いい。
Natsuko Kaneko
「奈良の田園風景、暮れゆく空の色。日本古来の色彩に染まり、その景色と調和し共存する。そんな人を想像しました」
万葉人たちが歌った自然界の色の奥行き。そんな先人の心の機微に思いを馳せるかのように、花モチーフのアイテムを用いて表現した金子夏子さん。
茶畑を中心に、田や山、生きものなどが、山里の自然を循環し、命が巡ってゆくさまを、心の景色に記憶する。ビスコースクレープ素材のオールインワンに描かれたペイントフラワーが、芽吹きの大地と呼応するよう。
紅掛空色に染まる、若草山。いにしえから続く景色がここに。紅色の花を配したドレスが風に舞うたびに透けるチェックのパンツ。色と柄のグラデーションを愛でる。
